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才口弁護士に聞いてみよう(7)
2021.03.10
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
才口弁護士作「弁護士10年1人前説」数え歌のお披露目もお楽しみに!
私は3年目の弁護士です。3年目になり、徐々に後輩の弁護士と仕事をする機会も増えてきましたが、後輩の指導の仕方にとても悩んでいます。例えば、後輩の弁護士に社会人として直すべきことがあったときも、「先輩として糺さなければ」とは思うのですが、叱ることに慣れておらず、目を見て、うまく伝えることができません。一方で、私自身は、私が大変にお世話になっている先輩からたくさん叱られてきましたが、その先輩に対する尊敬や信頼は変わりありません。私もそんな先輩のようになりたいと思っているのですが、後輩への指導について、先生がこれまで意識してこられたことなどありましたら、ヒントをいただけますと幸いです。
3年目は『三枚目』
3年目の弁護士さん、いやはや今から後輩の指導でお悩みですか? 早熟・・・否、敬服します。
私の「弁護士十年一人前説」の数え歌の3年目は『三枚目』、芝居番付の三枚目の道化役程度ともじったのです。私の時代の3年目は遮二無二に職務を遂行していた時期で、後輩の指導などできる状況にありませんでしたし、後輩もいませんでした。
昨今のメガローファームはシステマティックですから、弁護士3年目で相談者さんのような悩みに直面するのですね。アナクロニズムにならないように心してご下問を紐どきたいと思います。
「教育」の基本は叱正ではなく訓育である
後輩の指導とは、「教育」なかんずく社会人教育あるいは人間形成教育のことですね。
最近の法曹養成制度に足りないのは社会人教育です。時代や社会の趨勢、特に最近のコロナ禍によるリモート修習では満足な法曹を養成しているとは言えないかもしれません。
新人や後輩には、われわれの事務所や先輩が実務を通じてこれを補完して一人前の法曹に育てあげる必要と任務があります。
いよいよ相談者さんの出番です。「教育」の基本は叱正ではなく訓育ですから、われわれも教えることでともに学びましょう。
まず、相談者さんの「目を見て」は後輩を直視する“体形”ではなく“姿勢”の問題です。
姿勢は目線の在り方で、上から目線ではなく対等目線あるいは同輩目線で臨みます。幼児と会話する時に腰をかがめて話すのと同じ要領です。いくら上から目線で力んだって後輩は納得も折伏もされません。同等目線で考え、教え導いてくれたことに得心するのです。
私が意識して後輩の指導をした要諦は概ね次の三つです。
- 後輩の疑問や言動に熱心に耳を傾け、積極的に理解してやろうと努める。
その際、後輩に迎合するのは禁物。是々非々で対応するのが指導の要諦です。 - 後輩に自分の考え方を押しつけない。
牛を水辺まで連れて行くことはできても水を飲ませることまではできません。 - 指導内容は簡単・明瞭にする。
指導は先輩が後輩に愛情をもって働きかけ、一人前の法曹に育て上げることですから、指導内容は簡明をもって旨とすべきです。
以上が私の提言です。後は本人の能力と精進に期待しましょう。
多くの人を育てる立場にあった勝海舟も、しばしば「淵黙勝多言」(えんもくたげんにまさる)という言葉を残したといいます。上記三点を意識して教え導きながら、寄り添い、見守ってあげることです。
ところで、相談者さんは、お世話になった先輩に叱られても尊敬や信頼の念は今でも不変の由。その先輩はよほど「人間的魅力」に富んだ人物ですね。
言わずもがな、あなたの将来軸も「人間力の陶冶」に託されているのですから頑張ってください。
完
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