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NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~
2021.05.27
はじめに
近時、高額の発行事例が出ていることなどから急速に注目が集まっているNFTですが、法的な観点からの権利関係等が不明確と思われるNFTも見受けられます。他方、ブロックチェーン技術を用いることでこれまでにない魅力や付加価値を提供できる新しいサービス・商品という面も認められます。そこで、以下では、NFTについての一般的・基本的な日本法上の法的位置づけについて触れた後、現時点で発行事例が多く存在しているアート、ゲーム、スポーツの各分野のNFTについてそれぞれの方分野の観点からの分析・検討をしてみたいと思います。
NFTとは
1.NFTとは
NFTとは、Non-Fungible Tokenの略称をいい、直訳すれば「Non-Fungible=代替不可能な、代替性のない」「Token=象徴,証拠、標章、真正性(権威、権利、特権など)を示すもの」を意味します。実際には、ブロックチェーン上で発行されるデジタルトークン(デジタル権利証と言った方が分かりやすいかもしれません)であって、ビットコイン等の暗号資産とは異なり、非代替的なもの(この世に1つしかない固有のものや、少数限定のものなど)を指します。そして、そのNFTを利用して、この世に1つしかないデジタルアートのデータや、少数限定のゲームアイテムやトレーディングカードが販売され、近時特に極めて高額な取引価格がつく事例も発生していることから急速に注目を集めているものです。
以前は、デジタルデータは、容易に複製や改ざんがなされ得るものであり、かつ、その場合いずれのデータがオリジナルのものであるのか判別不能となってしまうため、デジタルデータに唯一性や固有の価値を認めにくい面がありましたが、ブロックチェーン技術により、あるデジタルデータの由来や移転経緯が低コストかつ非中央集権的・改ざん不可能な形で担保され得ることとなり、デジタルデータにも固有性・稀少性を認めることが可能となったため、そのようなブロックチェーン上のデータ(デジタルトークン)の特長を活かして様々なNFTが販売されたり二次売買されだしています。
2.NFTの日本法上の取扱い
まず、前提として、ビットコインなどの「暗号資産」(従前の「仮想通貨」が法改正により「暗号資産」へと法律上の名称が変更されました)は、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)によって規律されています。では、ビットコインと同じくブロックチェーン上で発行されるデジタルトークンであるNFTは資金決済法上の「暗号資産」に該当しないのでしょうか(NFTが資金決済法上の「暗号資産」に該当するとなれば、NFTを発行することが「暗号資産交換業」に該当してしまう可能性が高いことになります。)。また、NFTを発行したり売買したりすることは資金決済法以外の法律によって何らか規制されることはないのでしょうか。
この点、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会が策定・公表している「NFTビジネスに関するガイドライン」においては、以下のとおり整理されています。
(出典:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「NFTビジネスに関するガイドライン」5頁「(図1)法規制に係る検討フローチャート」より)
上記のとおり、NFTの保有者に対して「利益の分配」と評価される金銭等の交付がなされる場合には、金融商品取引法上の「有価証券」に該当する可能性が高いと考えられます。
次に、NFTが決済手段等の経済的機能を有している場合には、資金決済法上の「暗号資産」や「前払式支払手段」に該当する可能性がありますし、さらに、為替取引に該当する場合には銀行法上の「銀行業」や資金決済法上の「資金移動業」に該当する可能性もあります(なお、「為替取引」については法律上の定義は規定されておらず、判例等において、「『為替取引を行うこと』とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」(最高裁平成13年3月12日決定)などとされています。)。
特に、「暗号資産」該当性については、ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、基本的には決済手段等の経済的機能を有していないと考えられることから、暗号資産には該当しないと考えられる旨の見解も示されております(金融庁2019年9月3日付「「事務ガイドライン(第三分冊:⾦融会社関係)」の⼀部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」の別紙1「コメントの概要及びコメントに対する⾦融庁の考え⽅」No.4)。
しかし、この「決済段等の経済的機能を有していない」といえるのか否かは、当該トークンの発行数量等の条件に加えて、実際に当該トークンがどのように利用されているのかという社会的事実にも左右されると考えられ、例えば、発行当初は決済手段等の経済的機能を有していなかったものの、時間の経過とともに発行数量が増加したり、実際の利用のされ方が変化するといった事情によって事後的に決済手段等の経済的機能を有するに至ったと評価される可能性もあり得ますので、特に注意が必要と考えられます。
以上から、「利益の分配」と評価される金銭等の交付がなされることがなく、かつ、決済手段等の経済的機能を有していないNFTについては、日本法上は、現状では金融商品取引法や資金決済法等の金融規制や業規制を受けないものとして販売等されているものと考えられます。
NFTとアート
1.NFTアートマーケットの出現
2021年に入り、NFTアートが急速に注目を集めています。2021年2月25日から3月11日に実施されたクリスティーズ・ニューヨークのオンラインオークションでBeeple作のNFTデジタルアート作品「Everydays: The First 5000 Days」が約75億円(6934万6250ドル)で落札され、その後も、NFTデジタルアート作品が高額で取引される例が出ています。
現在、Openseaなどのマーケットプレイスで多数のデジタルアート等のオークションや販売が実施されており、デジタルコンテンツの新たなビジネスチャンスの場として注目されています。特徴的なのは、NFT アートとして一度市場に出した後は、そのNFTアートが取引(売買)される都度、その取引金額の一部をNFTアートの出品者に還元させることが可能な点です。これは、NFTが用いる規格(ERC721など)に基づくスマートコントラクト(ある契約条件を満たした場合に、契約内容が自動的に実行される仕組み)により実現されています。自らの作品を世に出したい方、また、既存のコンテンツの更なる活用を模索されている方の中にも、NFTアートの活用を考えている方が増えているのではないでしょうか。
2.問題の所在
しかしながら、前述のとおり、NFTアート取引は、①ブロックチェーン技術やNFTという新しく、まだ、一般的にはなじみの薄い仕組みを利用していること、②市場自体が非常に新しい市場であること(日本においても主に2021年に入ってから取引がされているようです)、また、③NFTアートの対象アイテムの種類が現在も拡大中であり取引慣行が固まっていないことなどから、取引の手続きや取引をめぐる権利関係について必ずしも周知されていない状況といえ、NFTアートを購入した場合どのような権利を取得していることになるのか、理解しないまま取引を行っているような事例もあるように思われます。特に、NFTアート取引におけるNFTアートの権利と作品自体の著作権との関係は分かりづらいものといえます。そこで、本章では、NFTアートと著作権の関係について整理するとともに、NFTアートを出品、購入する場合の注意点についてまとめたいと思います。
3.NFTと著作権
まず、NFTアートには、デジタルアートとして制作された作品をNFT化したものと、既存の絵画やコンテンツ等の物理的な作品(リアルアート)をデジタルデータ化したものをNFT化したものがあります。それぞれ画像や動画、写真、音声付きのもの等様々なものが考えられます。
NFTアートの取引においては、「NFTの所有権を買う」といった表現が使われることがあります。これはいったいどのような意味を持っているのでしょうか。NFT自体は形のない無体物なので、法律上は、有体物を対象とする所有権の対象とはなりません。すなわち、NFTには所有権は生じません。ではいわゆる「NFTを取得する」とはいかなる内容を意味するのでしょうか。NFTを取得した状態とは、唯一無二というNFTの技術的性質を裏付けとして、特定のデジタルデータを保有していることを書き換え不能な態様でブロックチェーン上に記録している状態であると言えます。
一方、著作権とは、著作物の作者(著作者)に与えられる独占的な利用権です。著作権を保有している人は、著作物の複製、翻案、譲渡、放送、インターネット配信等の利用行為を独占的に行うことができます。NFTアートを保有しているということと、著作権を保有しているということは全く別のことであり、NFTアートを取得しても、その作品の著作権を取得するものではないことに注意が必要です。
この点、リアルアートでも所有権と著作権は別です。所有権者は唯一無二の作品現物を自分のものとして使用収益できますが、作品の複製や改変、放送や配信などの利用ができるのは著作権者と著作権者から許諾を得た者に限られます。所有権者は、著作権者からの許諾を得ることなくこれらの利用を行うことはできません。ただし、例えば著作権法45条により、美術の著作物の原作品の所有者は、その著作物を原作品によって公に展示することができるなど、所有権と著作権を調整がされています。このように所有権と著作権は別ではありますが、リアルアートの場合、所有者は、世界に一つしかない現物を独り占めにすることもできますし、一定の範囲で法律に基づき利用することも可能ですので、そこに高い価値を見出すことも十分に可能といえます。
NFTアートの場合も、上記の通りNFTアートの保有権と著作権は別ですので、NFTアートを取得しても、取得者は、著作権者の許諾がなければ複製や配信など何の利用もできません。著作権法45条のような作品の所有者に一定の利用を認める法律上の規定もありません。NFTアートの場合、独り占めできているのは特定のデジタルデータのみであって、作品自体を独り占めできるわけではない点に注意が必要です。その意味では、NFTアートの価値評価は、リアルアートとは異なる観点から行われるべきものと言えます。一般的には、特定のデジタルデータと、そこに表現されている対象作品の結びつきの強さ(希少性)や、購入者の権利内容によって、NFTアートの価値評価が異なるといえます。
4.NFTアート取引上の注意点
(1)購入者の注意点
① NFTアート購入後の利用可能範囲を確認すること
上記の通り、NFTアートを購入したといっても、特定のデジタルデータの保有権を購入したにすぎません。当該デジタルデータで表現されている作品の著作権者からの許諾がない限り、その作品の複製や配信等の利用ができないことに注意が必要です。したがって、NFTアートを購入しようとする人は、購入後にどのような利用が可能とされているのかを事前に確認して取引に入るべきと言えます。少なくともNFTアートのマーケットプレイスの利用規約の内容を確認しておく必要があるでしょう。
例えば、マーケットプレイスの一つであるSuperRare (https://superrare.co/)の利用規約には、以下のような規定があります。
a.NFTアートの購入者は、作品を表すトークンを保有するだけであり、作品自体や作品の著作権を取得するものではないこと。
b.購入者は、購入したNFTアートを、限定された目的に限り(取得事実の公表、作品論評、NFTアート転売など)、オンライン上で展示する権利のみを取得すること。
c.購入者は、作品の改変、複製利用、商業目的での利用、その他不適切な利用が禁じられること。
d.購入者が、NFTアートを転売した場合、その者が有していた上記の利用権は消滅すること(転得者のみが利用権を有すること)。
NFTアートを購入する際には、どのような権利が許諾されているのかを、利用規約で確認することがトラブルを避けるために大変重要です。
また、特定のマーケットプレイスで購入したNFTアートは、原則として当該マーケットプレイス上での取引しか認められず、この点からも、マーケットプレイスの利用規約を確認することは大切といえます。
② 類似NFTアート作品の存在
また、NFTアートの購入者が保有しているのはあくまで特定のデジタルデータのみであり、作品自体ではありません。自分が購入したのと同一の作品が複数NFTアート化されている可能性もあるでしょう。すなわち、作品の作者が同一又は類似のNFTアート作品をいくつも作る可能性もありますし、また、既存のリアル作品をデジタル化してNFTアート化した場合には、同じ作品を別の人がNFTアート化する可能性もあります。このように、NFTアート作品を購入しても、作品としては同一又は類似の作品が複数存在しうることを理解の上で、購入することが必要です。
この点、スポーツの分野ではありますが、NBA Top Shot(https://nbatopshot.com/)のように同一内容のデジタルコピーがいくつNFTアート化されるのかをあらかじめ定め、その数に応じて価格が設定されているマーケットプレイスもあります。また、出品時にNFTアートの対象作品の販売回数を1回のみか複数回かを選択できるマーケットプレイスもあります。同一又は類似のNFTアートが存在しないことが何らかの形で確保されているのであれば、そのNFTアートの希少性が高まり、リアルアートに近づくものといえるでしょう。
なお、このように同一作品の再NFT化が規約で禁止されているとしても、同一性の有無がどう判断されるのかは、必ずしも明確ではありません。人の目には全く同じ作品のように見えても、データとしては別物である作品をNFTアート化できるのか否かは、その規約の解釈によるものと考えられます。また、規約で同一作品の再NFT化が禁止されていたとしても、同作品のそれ以外の利用に制限が及ぶものではない点についても注意が必要です。作品の著作権者は、NFT化以外の商品化利用等は自由にできるものといえます。
③ 第三者による権利侵害
第三者が同一又は類似の作品を作成・利用(NFTアート化を含みます。)したり、購入者が購入したNFTアートを第三者が不正利用しても、NFTアート購入者は、著作権を保有していないため、その第三者に対して差止請求や損害賠償請求を行うことはできません。
④ 権利侵害作品に注意
原作品の権利者の許諾なくNFTアート化されたり、NFTアート化された原作品自体が第三者の知的財産権を侵害する作品である場合には、当該NFTアート自体の利用ができず、無価値となる可能性があります。一般的に、NFTアートのマーケットプレイスの規約では、権利侵害品の出品は禁止されていますが、購入対象が権利侵害品か否かを確認するのは購入者自身の責任とされ、マーケットプレイス自体は免責されている例が多いものといえます。
また、NFTアートが、第三者コンテンツを取り込んでいる作品である場合、パロディである場合、人の肖像が表現されているものの場合は、その作品に取り込まれている作品の作者からの許諾取得を含めた確実な権利処理が必要となりますので、適切な権利処理が行われている作品である必要があります。マーケットプレイスによっては、出品作品は出品者が作成したオリジナルのものあることを要求しているところもあります。
⑤ 誤った価値評価をしないために
NFTアートを購入する際、その価値をどう評価するかは、購入者の主観によるところが大きいといえますが、購入後に当初想定していたのと異なる事態となることを避けるため、当該NFTアートの購入後にどの程度の利用メリットを享受できるのか、マーケットプレイスの利用規約等をあらかじめ確認し、理解した上での取引参加が重要といえます。特に、価格については、不当に吊り上げられている可能性がないか、慎重な判断が必要です。
(2) 出品者の注意点
① 権利処理の必要性
まず、NFTアートとして出品する場合、他人の権利を侵害しないようにしなければいけません。他人の著作物を著作者に無断でNFTアート化して出品することは、著作権法上、複製権(21条)、自動公衆送信権(23条1項)、譲渡権(26条の2第1項)等の侵害となり得ます。他人の著作物に改変を加えてNFTアート化する場合は、翻案権(27条)や同一性保持権(20条1項)等の侵害にもなり得ます。権利侵害品を出品することは、通常マーケットプレイスの利用規約でも禁じられています。
したがって、他人の作品である場合はもちろん、作品の制作に複数人が関与している場合や当該作品が他の作品の二次的著作物であるような場合、作品をNFTアート化するにあたっては、他の権利者から、出品について事前に許諾を得る必要があります。また、許諾を得るにあたっては、NFT化された作品が、購入者によってどう利用されるかについても説明し、その許諾を得ておくことが必要といえます。
② 購入者にどの範囲で利用させるのか
NFTアートの出品者は、自分に作品の著作権があれば、本来、購入者による当該NFTアートの利用可能範囲を自由に決めることができるはずです。しかしながら、NFTアートとして出品した以上、出品したマーケットプレイスの利用規約に定められた条件に拘束されることになりますし、また、出品により、当該NFTアートを購入者が一定の範囲で利用することは出品者として当然許諾しているものと推定される場合もあるでしょう。利用条件が不明確であったり、購入者が利用可能範囲を十分に理解せずに購入した場合には、利用可能範囲を巡ってその購入者との間でトラブルになる可能性があります。上記の購入者の注意点①で記載したとおり、出品者としてもマーケットプレイスの利用規約を事前に十分確認すべきです。
③ 同一・類似作品の取り扱い
NFTアートの価値は、同一又は類似の内容のNFTアートがいくつ存在しているのかによって、大きな影響を受けるものと考えられます。NFTアート化したからと言って、同一出品者による同一又は類似の作品の更なるNFTアート化が必ずしも制限されるものではありませんが、マーケットプレイスの利用規約によっては、この点に関する制限が規定されている場合がありますので注意が必要です。
④ 既存ビジネスへの影響
既存の有力コンテンツをNFTアート化してビジネスチャンスの拡大を考えている方もいると思います。既存の有力コンテンツは、NFTアートとしても売れる可能性は高いでしょう。しかしながら、コンテンツビジネス全体の計画とバランスを考えないと、コンテンツの陳腐化を引き起こす可能性も否定できません。また、前記の通り、購入者による利用可能範囲を明確にしておかないと、購入者による利用によって、出品者のビジネスに悪影響が及ぶ可能性もあります。オークションの場合には、購入者がどのような人物であるか、あらかじめ知ることができないというリスクもあります。また、既に商標登録されていたり、商品・サービスのロゴとして使用されている図柄をNFT化して販売すると、購入者の利用態様によっては出所の混同を引き起こす可能性も否定できず、注意が必要です。
5. 小括
NFTアートを出品する場合、購入者によるコンテンツの一定の自由利用が想定されているといえるでしょう。しかしながら、その範囲が不明確なままでは、購入後トラブルになってしまいます。NFTアート取引を行う場合、NFTアート購入者がどう利用できるのかがマーケットプレイスの利用規約等で明らかとされているのかを確認しておくことが大切といえます。
NFTアートの保有と著作権の帰属が別である以上、NFTアート市場が今後益々活発となっていくためには、当該NFTアートの利用価値を確保するとともに、その希少性をどう実現していくかが課題のように思われます。例えば、リアル作品をNFTアート化した作品やデジタルアート作品の場合、同作品のデジタルデータが複数存在できないような状況が担保されていることがデジタルデータの希少性を高めることになるでしょう。希少性よりも、データ自体に固有の利用価値があるもの(ゲームのプレイングデータ)や、もともと同一内容のコンテンツの存在が想定されているもの(トレーディングカード的なもの)などはNFTとの親和性が高いのではないかと思えます。また、NFTアートとリアルビジネスとの連動(NFTアートの保有がリアルイベントへの参加資格となるなど)も活用の一例として考えられます。
NFTアートは、今まさに様々な活用が模索されている新たなメディアであり、今後の展開が注目されます。
NFTとゲーム
1.ゲームとNFT
ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーン技術を活用したゲームであり、ゲーム内で利用可能なアイテム等のコンテンツがブロックチェーン上のNFTとして発行され(以下、当該NFT化されたゲームアイテムを「NFTゲームアイテム等」といいます。)、個々のサービスの枠組みを超えて、ブロックチェーン上で取引できるようなゲームをいいます(注[1])。ブロックチェーンゲームに登場したのは、2017年冬にリリースされたCrypto Kittiesで、バーチャルなネコを購入して交配させ、独自のネコを育てて、唯一無二のネコをつくり出し、NFTを用いて市場で売買できるというものでした。現在は、日本では、Crypto SpellsやMy Crypto Heroesなどがよくプレイされています。
従前のオンラインゲームはゲーム会社が発行するアイテム等を当該ゲーム会社が中央集権的に管理し、当該ゲームというプラットフォーム内でのみ取引がなされるものでしたが、ブロックチェーン技術により当該ゲームというプラットフォームを離れて取引が可能とされる点がブロックチェーンゲームの特徴であり、以下のような比較がなされています(注2)。
従来のオンラインゲーム |
ブロックチェーンゲーム |
① ゲーム内アイテムは、ゲームを離れて存在し得ず、ユーザーがゲーム外で自由に移転、売却、貸与することはできない。 ② 自慢をかけて蓄積したデータでも、ゲーム配信終了後は利用可能性を失う。 |
① ユーザーがNFT(ゲームアセット)の保有者として、当該NFTをゲーム外に移転、売却、貸与できる。 ② サードパーティー等がNFTを利用してサービスを提供できる。 ③ ブロックチェーンが存在する限り、記録されたデジタルアセットは永続的に利用可能である。 |
たとえば、ブロックチェーンゲームの①の特徴について、My Crypto Heroesの利用規約(https://www.mycryptoheroes.net/ja/terms)には、「アセット」という項目があり、「アセット」は「ユーザーが本サービス上で保有可能な情報であって、本サービス上で定義されるもの」と定義され、「ユーザーはアセットを他のユーザーに対し、当社所定の方法により譲渡することができます。本条項でアセットを譲渡されたほかのユーザーは本サービス上でアセットを利用することができます。」と示されています。ここから、ユーザーが「アセット」を本サービス上で「保有」し、さらに他のユーザーに対して譲渡できることが明らかにされています。
そして、OpenSea等のマーケットプレイスに足を運ぶと、これらのNFTゲームアイテム等が多数取引されています。
2.法的問題
(1) NFTゲームアイテム等の暗号資産性
NFTゲームアイテム等の「暗号資産」該当性については、上述のとおり、「ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、基本的には決済手段等の経済的機能を有していないと考えられることから、暗号資産には該当しないと考えられる」旨の見解が示されております(金融庁2019年9月3日付「「事務ガイドライン(第三分冊:⾦融会社関係)」の⼀部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」の別紙1「コメントの概要及びコメントに対する⾦融庁の考え⽅」No.4)。ブロックチェーンゲームにおけるNFTゲームアイテム等は、サービスを超えての取引が考えられるとはいえ、現状では通常ゲーム内で使用されるアイテムであり、決済手段というよりは最終消費財という性質が強いように思われます。そうだとすると、NFTゲームアイテム等が決済手段等の経済的機能を果たしておらず、また、暗号資産と同等の経済的機能を有していないとすると、もちろん個別具体的な判断を必要としますが、暗号資産に分類されるNFTゲームアイテム等は限定的ではないかと考えられます。
(2)NFTゲームアイテム等の取引で手にする権利
NFTゲームアイテム等の取引も、NFTアートについて上述したのと同様に、NFTゲームアイテム等の取引の購入者は何を購入したのか、という点が問題になります。日本の法律上、所有権は有体物にのみ生じ得るものであるため、これらのNFTゲームアイテム等は、法律上の所有権の対象ではありません。また、無体物に関する独占権を定めている知的財産権法の枠組みにおいても、「デジタル所有権」たる権利は観念できません。著作権の譲渡がなされたか否かは、NFTゲームアイテム等を発行するプラットフォームの規約にもよりますが、例えば、上述したMy Crypto Heroesの利用規約においては、アセットは、「ユーザーがサービス上で保有可能な情報」ではあるものの、アセットの譲渡によっても「他のユーザーに著作権その他の知的財産権が譲渡されるものではない」と規定されているように、著作権の譲渡まで定めていない場合が多いものと思われます。
したがって、NFTゲームアイテム等の取引を法律的に整理すると、所有権や著作権等の実体法上の権利まで取得したとは考えられず、個別具体的なゲームにおいて利用できるアイテムやカード、ゲーム上に存在する仮想空間内の土地などを独占的に利用することができる債権的な権利と考えられます。
(3)リアルマネートレードとの関係
リアルマネートレードとは、ゲームアイテム等を現実世界の通貨に交換することであり、これを認めるとゲーム会社への新規アイテム発行に対する課金額が減少すること、不正対応コストが増加すること、さらには有償ガチャによるゲームアイテム等の提供が賭博に該当しうる等の理由から、従前オンラインゲームでは、業界的にリアルマネートレードが禁止されてきました(注3)。そのため、レアなアイテムを手に入れるためには、有償ガチャ等を繰り返すなど、一定の時間をかける必要がありました。
一方、ブロックチェーンゲームにおいては、NFTを用いることにより、NFTゲームアイテム等を取引することが可能になります。そのため一定の経済力があれば、時間をかけずとも、レアなNFTゲームアイテム等を手に入れることが可能になります。もっとも、NFTゲームアイテム等の販売とリアルマネートレードの実体は近しい点があるため、リアルマネートレードが禁止されている趣旨との関係(特に賭博との関係)については留意が必要だと思われます。
(4)NFTゲームアイテム等の資産化
NFTを利用する利点として、上記のブロックチェーンゲームの特徴③のように、NFTゲームアイテム等を永続的に利用できること、すなわちNFTゲームアイテム等の資産化が挙げられます。たしかに「デジタル所有権」を保有するということの理論的な帰結はそのとおりですが、現状をみるとこの点を過度に強調することは適切ではないように思われます。上記のとおり、取引の対象は、「個別具体的なゲーム上における」NFTゲームアイテム等の利用権であり、当該NFTゲームアイテム等が利用可能なゲームの存在がその価値の前提になります。したがって、当該ゲームが何らかの理由でサービスを停止した場合、当該NFTゲームアイテム等を利用できる場所がなくなるため、ブロックチェーン上では存在し続けるものの、当該NFTゲームアイテム等の価値は実質的に失われることになりかねません。例えばあるゲームAにおいて購入したNFTゲームアイテム等が、別のゲームBにおいて一定の価値を持つNFTゲームアイテム等として利用できる場合には、ゲームAのサービス終了後でも実質的な価値は失われることにはなりませんが、このようなゲームを跨ぐ利用はまだ一般的ではありません。そうだとすると、NFTゲームアイテム等の資産化は、現状は理論上のものに留まっているように思われます。
(5)NFTゲームアイテム等の発行体であるブロックチェーンゲームのサービスの停止
現状、多くのNFTゲームアイテム等がマーケットプレイスにおいて取引されており、高額のNFTゲームアイテム等も存在します。一方で、上述のとおり、NFTゲームアイテム等が利用できるブロックチェーンゲームのサービスが停止されると、高額で取引されているNFTゲームアイテム等が実質的に無価値化することになります。NFTゲームアイテム等を発行するブロックチェーンゲームのサービスを停止する場合には、ユーザーの不利益の程度が通常のオンラインゲームよりも大きいため、より慎重な検討・手続きが必要になるものと思われます。
(6)賭博、景表法の問題
NFTゲームに関する法的規制として、賭博と景表法の問題が挙げられます。
賭博に関しては、上述リアルマネートレードとの関係でも軽く触れましたが、(NFTが資産性を有するデータになるため、)NFT 等その他換金性を有するゲーム内アイテムを排出する有償ガチャを行うこと、イベント参加者から有償で参加費を徴収しイベント参加者への報酬を当該参加費から分配する形でゲーム内イベントを実施すること等については、賭博に該当する可能性があります。
また、景表法に関しては、NFTゲームアイテム等は「経済上の利益」といえますので、NFTゲームアイテム等の提供が、場合に応じて、景品規制に抵触する可能性もあります。これらの点については、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(https://cryptocurrency-association.org/news/breakout/20210426-001/)や一般社団法人ブロックチェーンコンテンツ協会(https://eb3d626b-4b51-42f2-b2d4-0f682cc5645e.filesusr.com/ugd/e9a87a_2028e5c7115d4fcd933e9f55e6262762.pdf)によるガイドラインも出されています。
3.小括
ブロックチェーン技術は、ゲームにおいて親和的であるとされ、実際に多くのゲームがローンチされています。また、例えば、株式会社スクウェア・エニックスが、My Crypto Heroesを制作するdouble jump.tokyo株式会社と、「ミリオンアーサー」IPを活用したNFTデジタルシールの販売・システム開発を内容とする協業を行うなど、従来のゲーム会社もブロックチェーンゲームやNFTに多くの関心を寄せています。ゲームはデジタルコンテンツに親和的なエンタテインメントの一つであり、今後の更なるNFTの利活用が期待されますが、法的な分析については慎重に検討することが肝要です。
(注1)一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「NFTビジネスに関するガイドライン 第1版 令和3年4月26日策定」(https://cryptocurrency-association.org/dl/nft_guideline202104.pdf)参照
(注2)同上
(注3)一般社団法人コンピューターエンターテインメント協会(CESA)の「リアルマネートレード対策ガイドライン」(https://www.cesa.or.jp/uploads/guideline/guideline20170511.pdf)や、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)の「オンラインゲーム安心安全宣言」(https://japanonlinegame.org/wp-content/uploads/2019/06/JOGA_declaration_2019.pdf)においてリアルマネートレードが明確に禁止されています。
NFTとスポーツ
1.スポーツ分野でのNFTの盛り上がり
NFT市場の盛り上がりにはスポーツマーケットも大きな関心を示しています。スポーツマーケットにおけるNFTの盛り上がりがNFTの盛り上げの一助を担っているといった方が正確かもしれません。いずれにしろスポーツ分野においてもNFTは大きな盛り上がりを見せています。コロナ禍で試合や大会が中止されたり、無観客での開催が余儀なくされており、スポーツ界へのビジネス上の打撃は甚大なものとなっていますが、これを救う存在としてもNFTが注目を浴びています。
2020年10月にサービスが一般公開されたNBA Top Shotは、2021年4月末までの間に、β版にも関わらず既に取引総額が約6億ドル(約650億円)を超えたとされており、そのうち90%以上が再販によるものとされています。NBA Top Shotのサービス概要は後述しますが、今年2月には、リーグを代表するレブロン・ジェームズのハイライト動画が20万8000ドル(約2275万円)という高額で取引されたことが大きな注目を集めました。
NBA Top Shotの爆発的な人気もあり、スポーツ界ではにわかにNFTが盛り上がっています。アメリカ四大スポーツでいえば、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)が4月20日にNFT野球カードの販売を開始したほか、NFL(ナショナル・フットボールリーグ)もNFT市場への参入がうわさされています。興味深いのは、NFLにしろNHL(ナショナル・ホッケーリーグ)にしろ、リーグによる組織的なNFTへの参入とは別に、チームやスター選手が独自にNFT市場に打って出るケースが登場している点です。取引額が高額となるケースもあり、大きなトレンドとなっています。サッカー界でも、ブロックチェーンサッカーゲーム「Sorare」内で使用できるNFTカードが人気を博しており、今年3月にはユベントスに所属するクリスチアーノ・ロナウド選手のNFTカードが28万9920ドル(約3200万円)の値がつくなど話題を呼んでいます。JリーグもSorareとパートナーシップ契約を締結しており、今年4月からJリーグの選手のNFTカードも販売が開始されています。その他、モータースポーツ、格闘技、テニスなど、様々なスポーツで、NFTを使ったビジネスが展開されています
2.何がNFTとして取引されているのか
スポーツ分野におけるNFTといっても、その中身は様々です。なぜこれほど高額で取引がされているのかを理解するためにも、具体的にどのようなNFTがどのような態様で取引されているのか見ていきたいと思います。
前述のNBA Top Shotでは、「Moment」と呼ばれる実際の試合のハイライトシーンがNFTとして取引されています。Momentの内容はダンクシーンや試合を決定づけるシュートシーンなど多岐に亘ります。Momentは、①1万以上のデジタルコピーが存在する「Common Tier」、②500~4999のデジタルコピーが存在する「Rare Tier」、③50~499のデジタルコピーが存在する「Legendary Tier」、④3つしかデジタルコピーが存在しない「Ultimate Tier」、⑤世界に1つしか存在しない「Genesis Tier」の5つのランクに分類されており、①~③はNBA Top Shotのサイト上で購入できますが、④と⑤はオークションでのみ購入(落札)できます。購入したNFTはコレクションとして楽しめるほか、NBA Top Shotが提供するShowcaseというページ上で公開することができます。また購入したマーケットプレイスに出品して再販したり、第三者にプレゼントしたりすることが可能です。なお、取引(二次売買、三次売買等)のたびに一定の手数料が販売元に支払われ、そこで徴収された手数料の一部がライセンサーであるNBAに支払われる仕組みになっています。
チームが販売するNFTにはどのようなものがあるのでしょうか。NBAの人気チーム、ゴールデンステイト・ウォリアーズは、『Golden State Warriors Legacy NFT』と題したNFTをオークション形式で販売しました。発行されたNFTは、過去6回のチームの優勝を記念したデジタルの優勝リング(1975年以前の3回の優勝リングについては25点ずつ、2015年以降の3回の優勝リングは50点ずつ)、全6回の優勝が全て刻印されたデジタルリング(1点のみ)、チームの歴史的試合をデジタルチケットにしたもの(試合日、対戦相手、得点等が記載されたもの。10点ずつ)、また1日だけチームの選手になれる選手契約やコートサイドでの観戦チケット2枚、練習施設の見学、チームユニフォーム等がもらえる権利が化体された1点もののNFT「Golden Ticket」など、ファンにとってはたまらないNFTも公表されました。なお、デジタルリングの当初購入者(落札者)には、デジタルリングと同じデザインのフィジカルリングも送られることになっています。5月頭に行われたオークションでは、過去6回のチームの優勝を記念したデジタルの優勝リングに871,581ドル(約9500万円)、Golden Ticketにも85,875ドル(約940万円)の値が付くなど、大きな反響を呼びました。
スター選手がNFTを発行するケースも少なくありません。共にNFLのスター選手だったEli ManningとPeyton Manningの兄弟は、それぞれの歴史的な瞬間を描いたデジタルアート作品をNFTとして販売すると発表しています。一部のNFTの購入者には、実物のアート作品が届けられるほか、Manning兄弟と交流する機会等も付与されると公表されています。このように、チームや選手がNFTを販売する場合には、NFTとともに、フィジカルな商品(記念品等)を受け取ったり、チームや選手との特別な体験ができる権利が付与されたりするケースが少なくないようです。
3.法的観点から見たスポーツNFT
短期間で巨大なマーケットとなりつつあるスポーツNFTですが、法的観点から検討しておくべき点は少なくありません。
スポーツNFTの価値を高めるためには、購入者の購買意欲(あるいはコレクターのコレクター魂)に訴えかけられるような希少性等が必要になりますが、NFTとしてどのようなデジタル商品を販売するか、換言すれば、どのような権利を購入者に付与することになるかが、一つ目の大きなポイントです。
また、その裏返しになりますが、NFTの発行主体が、NFTに化体された権利やNFTとともに販売・提供される権利を付与し得る正当な権限を有しているかどうかが、二つ目の大きなポイントです。
①スポーツに関するNFTの場合も、NFTアートと同様にNFTデータの著作権を取得するわけではありません。スポーツNFTを取得することによってどのような権利内容を取得することになるかは、それぞれのスポーツNFTによって異なります。NFT取得者がどのような権利を取得するかについては、マーケットプレイスの規約等をもとに慎重に確認することが求められます。
たとえば、NBA Top Shotでは、利用規約においてMomentに含まれる写真や映像の著作権は購入者に譲渡されないことが明記されており、非商業的な私的使用の目的あるいは適法な転売目的でのみ使用する非独占的なライセンスが付与されると記載されています。Moment内の写真や映像を加工したり、第三者の商品やサービスを宣伝する目的でこれらを使用することは禁止されています。
このようにNFTを購入したからといって、写真や映像を自由に処分できるわけではなく、一定の制約が課されるのが一般的ですので、購入者はNFTを購入することで具体的にどのような権利を取得することになるかを事前に確認することが重要ですし、販売者(発行者)もNFTとしてどんな権利を付与するのが妥当かを慎重に検討することが重要といえます(権利を与えすぎればその後の自身の権利行使を制約することになりかねませんが、不十分な権利しか付与しないのであればそもそもNFTとしての価値は高まらないおそれがあります)。
②このように一定の権利をNFTに化体させて、あるいはNFTとともに付与するとして、非常に重要になってくるのが、そもそもそのような権利を付与し得る権限を販売者(発行者)が有しているかという点です。
スポーツ分野で発行されているNFTには上で挙げたもの以外にも多種多様なものがあります。そこでNFTに化体されている(あるいは付加されている)権利も様々ですが、典型的に問題になるのは、「著作権」と「肖像権(パブリシティ権)」です。NBA Top Shotでいえば、Momentのサムネイル画面で使用されている写真やMoment内で閲覧できる映像はそれぞれ著作物として保護されています。したがって、それらの著作物に係る著作権が適切に処理されているかが問題になります。また、各Momentはそれぞれ1名の選手にフォーカスしたものになっていますが、Moment内で選手の氏名や肖像を使用することについては、選手の肖像権(パブリシティ権)が及ぶことになりますので、かかる肖像権が適切に処理されているかどうか、という点も重要になります。
この点、まず著作権についていえば、NFTで使用を予定している写真や映像の権利の帰属を確認する必要があります。プロスポーツにおいては、公式戦の映像に係る権利はリーグに帰属する場合、チームに帰属する場合、映像制作者に帰属する場合、複数の者で共有する場合等、さまざまなバリエーションがあり得ます。そのため、例えばリーグが公式映像に関する著作権を保有している場合に、チームが勝手に公式映像を使用したNFTを発行することはできません。チームがリーグから映像の使用許諾を得るか、リーグと一緒になってNFTを発行するか、いずれにしても映像の著作権を有するリーグとの間で合意を得た上で進めることが肝要です。また、若干細かな論点になりますが、著作権者とは別に著作者が存在する場合、当該著作者から著作者人格権を行使されてしまうリスクがないかという点も確認しておくべきでしょう(著作者との間の契約で著作権の不行使が約束されているか等)。
次に肖像権です。肖像権の使用許諾(ライセンス)をする権限が誰に帰属するかは、スポーツの分野において非常にセンシティブな問題といえます。肖像権について判例は、「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する」としたうえで、そのような肖像等の一態様として顧客吸引力を排他的に利用する権利である「パブリシティ権」を正面から認めています。
パブリシティ権は元来選手個人に帰属するものですが、特にプロスポーツ選手の場合は権利関係が複雑になるケースが少なくありません。所属チームとの契約において、肖像使用に関する権利の全部又は一部(プロスポーツ選手としての活動に関連する肖像使用のみ等)をチームに委任されているケース、チームの所属するリーグの規約において一定の場合においてはリーグが選手の肖像使用をリーグ自ら又は第三者を通じて行うことができるとされているケース等、競技によっても状況が異なります。日本においてもっともオーソドックスなケースでいえば、選手としての活動に関連する肖像(試合中や練習中の肖像、ユニフォームを着用した肖像等)についてはチームやリーグが管理し、その他の肖像については選手個人が管理している形かと思います。海外(特にアメリカ)では、選手が選手としての活動に関連する肖像の管理を選手会に委託し、委託を受けた選手会がリーグやチームその他の第三者に選手の肖像使用を許諾するケースが多いかもしれません。いずれにせよ、選手としての活動に関連する肖像を使用する権限はリーグやチームに帰属しているケースが多く、だからこそこれらの肖像を使用したNFTの発行者はリーグやチーム、あるいはこれらの者からライセンスを受けた第三者であるケースが一般的です。逆に言えば、選手個人がNFTの発行を思い立ったとしても、選手としての活動に関連する肖像は使用できないケースが少なくありません。
さらに、大学スポーツを含むアマチュアスポーツにおいては、肖像権(パブリシティ権)の使用権が誰に帰属しているのかが曖昧なケースも少なくありません。また、JOC(日本オリンピック委員会)の「シンボルアスリート」等に選ばれた場合、肖像権(パブリシティ権)についてはJOCが管理することになるなど特別ルールが適用されることになります。
以上のとおり、選手肖像の使用権原が誰にあるかは簡単な問題ではありません。NFTの販売(発行)に際して選手の肖像を使用する場合には、この点について詳細に検討したうえで、これを使用する権限がない場合には選手個人その他の選手の肖像権(パブリシティ権)を管理する者から適切な使用許諾(ライセンス)を受けることが必要になります。
上記2の通り、アメリカではチームや選手個人がNFTを発行するケースも増えておりますが、以上で述べた通り、チームや選手は選手の選手としての活動に関する肖像の使用権原を有さない(あるいは契約上認められない)ケースが多いからか、選手肖像や公式映像等を使用することなく、各自が自由に処分できる権限をうまく組み合わせながら希少価値の高いNFTを生み出していることが見て取れます。
4.小括
スポーツの分野においてはNFTが登場する以前から、特に海外においては記念品や公式トレーディングカードが高額で取引されており、NFTを利用したビジネス展開が浸透しやすいバックグラウンドが存在していたといえます。
今年の年明けから2月末にかけてのNBA Top Shotでの「超」高額取引はさすがにブームの要素が大きいと言えますが(現にその後のNBA Top Shotの取引額は減少傾向にあります)、依然としてスポーツ分野でのNFTの広がりはとどまるところを知りません。前述した通り、コロナ禍でスポーツ界も大きな打撃を受ける中、NFTが一筋の光明となる可能性は小さくありません。
日本でもJリーグがいち早くNFT市場に打って出ましたが、今後日本の他のスポーツでも同様の動きが出てくる可能性はあるでしょう。ただし、NFTの発行に際しては、上述の通り、自らが使用権原を有する権利の範囲内でうまくNFTを組成することが求められます。選手が所属するチームやリーグ、協会の規約や規程を十分に精査し、権利関係がどうなっているかを慎重に検討することが肝要です。自らが権限を持つ権利をうまく組み合わせて希少価値が高くファン心理やコレクター魂に訴えかけるようなNFTの登場に期待したいところです。
まとめ
以上、近時急速に関心が高まっているNFTに関し、その仕組みと共に、特に現状多くの取引が行われているアート、ゲーム、スポーツの分野について、法律上の問題点や、取引上の注意点についてまとめました。NFTは、コンテンツ流通の新たなプラットフォームとして、大きな可能性を秘めています。一方で、NFTの仕組みや法的な位置づけは必ずしも周知されているとはいえない状態です。本ブログで触れたNFTに関する法的論点は、ごく一部に過ぎません。今後も新しい論点が議論されていくことでしょう。本ブログでも、追って様々な角度からNFTについてご紹介していきたいと思います。NFT市場の健全な拡大をはかるためにも、明確なルールと提供者・利用者による正確な理解が必要です。本ブログがその一助になれば幸いです。