ブログ
【デジタルプラットフォームと法】 第1回 デジタルプラットフォームとは?
2021.07.12
はじめに
昔から存在するショッピングモールや百貨店は、商品を販売したいテナントと商品を購入したい消費者をマッチングさせる物理的な「場」を提供してきました。しかし、近年では、特定のニーズを持った者同士をマッチングするこのような「場」を、オンラインで提供するビジネスが急速に広がっており、その種類も、オンラインショッピングモール、予約サービス、人材マッチングサービス、シェアリングサービス、フリマサービスなど、多様化しています。
そのような「場」は、いわゆる「デジタルプラットフォーム」と呼ばれ、「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazon)がその代表格ですが、巨大なオンラインショッピングモールから、小規模な人材マッチングサイトまで、その種類や規模は様々で、その裾野も拡大し続けています。
この「デジタルプラットフォーム」という用語については、統一的な定義が存在している訳ではありませんが、一例を挙げれば「情報通信技術やデータを活用し、利用者間を結びつける『場』を提供するサービスの総称」と定義するものや(※1)、「情報通信技術やデータを活用して第三者にオンラインのサービスの『場』を提供し、そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成し、いわゆる間接ネットワーク効果が働くという特徴を有するものをいう」と定義するものもあります(※2)。
こうした「場」は、個人事業主や中小企業を含む事業者にとっては市場へのアクセスの可能性を飛躍的に高めるものであり、また消費者にとっても便益向上に資するものであり、現代の人々の生活に欠かせないものとなっていますが、他方で、デジタルプラットフォームに関連する様々な法律問題も生じています。
本ブログは、このような「デジタルプラットフォーム」に関連する法律問題について複数回に亘って連載するものです。
(1)デジタルプラットフォームの特色
上記のように、「デジタルプラットフォーム」の定義の一例を挙げたものの、多種多様な「デジタルプラットフォーム」を明確に定義することは難しい状況です。そうした中で、デジタルプラットフォームの特徴を最大公約数的に挙げると以下のとおりです。
①ネットワーク効果があること、
②多面市場であること、
③インターネットを通じてサービス提供していること
(2)デジタルプラットフォームビジネスの形態
「デジタルプラットフォーム」の分類にも様々な切り口がありますが、分類方法の1つとして挙げられるのは、取引当事者の属性から、①B to C型、②C to C型、③その他、の3つに分類するものです。
(出典:https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/online_pf/doc/201904_opf_houkoku.pdf)
① B to C型
「Business to Consumer」の略で、「事業者対消費者の取引」を指します。
例えば、典型的には、アマゾンが運営しているAmazon.co.jpやヤフーが運営しているYahoo!ショッピングもオンラインショッピングモールというB to C型のプラットフォームを提供しています。また、ホテルやレストランを予約できるB to C型のプラットフォームも多く存在しており、最近では、フードデリバリーの注文者と飲食店をマッチングさせるウーバーイーツのようなB to C型プラットフォームも増えています。
② C to C型
「Consumer to Consumer」の略で、「消費者対消費者の取引」のことを指します。基本的には当事者は上記の図のとおりです。
C to C型の代表例としては、いわゆるフリマサービスを提供しているメルカリが挙げられます。個人が売りたい物をメルカリのサイト上で掲載し、これを購入したいと考える個人とをマッチングさせるプラットフォームを提供していますが、あくまでも出品者(消費者)と購入者(消費者)との間の取引であり、C to C型として整理されています。
民泊等のシェアリングサービスで、借主と貸主をマッチングするプラットフォームも、C to C型に分類されます。
③ その他
プラットフォームビジネスは多種多様であり、B to C型とC to C型の両方の要素をもった形態など、分類が難しいものもあります。たとえば、Facebook、TwitterやLINE等のSNSも利用者同士を繋げるプラットフォームという点ではC to C型の面もありますが、他方で、プラットフォーム上で広告配信を行っている点では、B to C型の側面も含んでいます。
デジタルプラットフォームに係る法的論点について
プラットフォーマーはあくまでも「場」の提供者に過ぎないことから、プラットフォーム上の取引行為の主体にはならず、原則としてサービス利用者に対して責任を負いにくい立場として考えられていました。
しかしながら、最近のデジタルプラットフォームビジネスの急速な拡大もあり、従前、あまり法律問題の当事者として議論されてこなかった「プラットフォーマー」の存在感が飛躍的に増大し、プラットフォーマーの責任論を含むプラットフォームビジネスにおける特有の又は特徴的な法的問題点も認識されるようになってきました。上で挙げたように、デジタルプラットフォームの特徴として「多面市場」があり、その特徴ゆえ、利用者ごと、そして市場ごとのそれぞれの場面において法律問題が生じ、かつ、それらが相互に複雑に関係しあう事態が生じるようになりました。個々の論点は、別のブログにて説明しますが、主として、プラットフォームビジネスとの関係で生じうる問題点(論点)としては以下のようなものが挙げられます。
① プラットフォーマーを含む当事者間の契約(法律関係)の問題
デジタルプラットフォームビジネスにおいては、大きく分けて、2種類の取引関係が存在します。ひとつは、プラットフォーマーとその利用者との間の取引であり、もうひとつは複数の利用者の間の取引です。プラットフォーマーとの関係では、同じ「利用者」であっても、利用者間では売主と買主の関係、貸主と借主の関係、求人企業と求職者の関係など、様々な関係が存在します。プラットフォーマーは多数の利用者とプラットフォームの利用に関する契約を締結することから、個々の取引ごとに交渉などをすることなく、予め制定した利用規約で取引を行うのが通常ですが、この利用規約については、改正民法上の「定型約款」該当性等の論点が生じます。また、利用者が消費者のケースも多いことから、消費者契約法や特定商取引法等の消費者関連法の適用も特に問題となるほか、「オンライン」という要素から電子契約法等も避けては通れません。
また、基本的には「場」を提供しているに過ぎないプラットフォーマーが利用者間の取引について法的責任を負うことがあるのかという点も、次回のブログで検討したいと思います。
② 表示・広告規制の責任主体の問題
上記①の責任主体論にも関連しますが、B to C型のデジタルプラットフォームビジネスにおいては、消費者へのサービスに係る訴求(表示)が頻繁に行われています。消費者誘引の関係から、サービス内容や条件について実際のものよりも著しく優良又は有利なように訴求することは景品表示法違反になりますが、この場合、そのような不当表示に係る責任を誰が負うことになるのかといった問題点も生じます。他にも、薬機法や健康増進法等との関係でも問題となり得ます。また、オンラインショッピングモールのようなプラットフォームにおいては、誰が特商法上の表示義務を負うかという問題もあります。
③ プライバシー関連の問題
プラットフォーマーは、消費者が自ら登録する氏名、住所等のアカウント情報に加えて、過去の取引履歴や位置情報等の消費者の取引や行動に関する個人情報を蓄積することが想定され、個人情報保護法の関係も問題となります。また、B to C型のプラットフォーマーである場合には、プラットフォーム上で商品・サービスを提供する事業者も消費者から個人情報を取得するため、個人情報保護法の遵守が求められます。プラットフォームにおいては、メッセージ機能が実装される場合が多いですが、これによりプラットフォーマーが電気通信事業者に該当する場合には、電気通信事業法上の通信の秘密も問題となります。また、プラットフォーマーやB to C型における事業者が、消費者に対して、広告宣伝メールを配信することも考えられ、この場合は特定電子メール法も検討する必要があります。
④ 許認可及び労働者の問題
上記①の責任主体論と関わってきますが、デジタルプラットフォームビジネスを営むに際しては、例えばウーバーイーツのようなデリバリー要素を含む形態の場合、貨物運送事業法や貨物利用運送事業法上の許認可を取得する必要があるのか、取得する必要があるとして誰が取得する必要があるのか、ライドシェアに係るシェアリングエコノミーの場合の道路運送法等の問題、求人者と求職者をマッチングさせるデジタルプラットフォームを提供する行為が職業安定法上の職業紹介事業に該当するかなど、許認可の問題も出てきます。
また、デリバリーを行う者が労働関連法上の「労働者」に該当するのかも、近時、論点の1つになっています。
⑤ 決済関連の問題
デジタルプラットフォームは、その利用者間に取引の「場」を与えるものであり、通常は、取引の重要な要素である決済についても、プラットフォームの機能の1つとして提供されます。プラットフォームの決済機能には、お互いに顔を合わせたことも無い利用者同士が安心して取引を行えるようにするための工夫が求められます。例えば、フリマサービスのような形態ですと、商品の購入代金は利用者から直接サービス提供者に支払われるのではなく、プラットフォーマーが買主から代金を受領した上で、その後売主に代金を支払うという方式が採用されることが多いですが、これは、いわゆる「収納代行」と呼ばれるものです。「収納代行」と資金決済法上の「為替取引」の関係性については、今後のブログでご説明したいと思います。また、プラットフォーム内においてのみ通用力のあるコイン等を発行する場合には、資金決済法上の「前払式支払手段」に該当する可能性があるなど、資金決済法等の決済関連の問題も生じることになります。
⑥ 独占禁止法関連の問題
公正取引委員会は、2019年に、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(※2)の中で、プラットフォーマーによる個人情報の不当な取得や利用が、一定の場合は優越的地位の濫用として問題になることを明らかにしています。また、公正取引委員会は、個人情報に関する問題のみならず、プラットフォーマーがオンラインショッピングモールから特定の出店者を排除するような行為は、場合によっては独占禁止法上の問題が生じるおそれがある旨を指摘しているほか(※3)、デジタル広告分野におけるプラットフォーム事業者の取引実態についても調査を行っています(※4)。
なお、前述の「ネットワーク効果」によるデジタルプラットフォームの急成長は、一部で、デジタルプラットフォームを運営する事業者(プラットフォーマー)とその利用事業者の間の力関係の不均衡を生み、そのような状況を受けて、両者間の取引の透明性と公正性確保のために「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が2020年5月に制定され、2021年2月1日に施行されています。この法律に関しても別途ブログにてご説明する予定です。
このように、デジタルプラットフォームビジネスを巡る法律問題は多岐に亘っており、このような問題点について今後のブログで横断的に情報提供したいと考えております。
以上
※1:安平武彦「デジタルプラットフォームをめぐる規制の到達点と実務(1)」NBL1194
※2:公正取引委員会・2019年12月17日付け「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」
※3:公正取引委員会・2019年1月29日付け「消費者向けeコマースの取引実態に関する調査について」
※4:公正取引委員会・2021年2月付け「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」