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【宇宙ブログ】衛星リモートセンシングとその活用可能性
2021.07.14
はじめに
今月6日、総務省は、衛星によるリモートセンシング(以下「衛星リモートセンシング」といいます。)の手法で月面の水や氷の含有量の推定分布を取得するための、テラヘルツ波センサーを開発する基本計画[i]を発表しました。開発されたセンサーを搭載した衛星が、月を周回しながらリモートセンシングを行うことで、月の水資源の場所を突き止め、将来の月面活動において、飲料水や、ロケットや工場等の燃料にするなど、水資源の活用が期待されます。
現在、衛星リモートセンシングは、地球を観測対象として、様々な場面で活用されていますが[ii]、この計画は、月を対象として衛星リモートセンシングを行うことを予定したものです。
そこで、今回は、この衛星リモートセンシングについてご紹介したいと思います。
リモートセンシング
そもそも、リモートセンシングとは、電磁波等を利用し、遠く離れたところから、対象物の種類や形状、性質等を観測するための技術です。あらゆる物質は、熱を帯びると、それぞれ固有の周波数(1秒間に繰り返す波の数)の電磁波を放射し、また、外部から電磁波を受けると、固有の周波数の電磁波を吸収し、それ以外を反射します[iii]。電磁波は、周波数帯により、X線、紫外線、可視光(光)、赤外線、電波[iv]等に分かれ、周波数を異なる電磁波を介せば、同じ対象物であっても、異なった見え方をします。例えば、身近なところでいうと、可視光(光)では、人間の皮膚は不透明に見えますが、X線で見ると、透き通って見えます[v]。電磁波を利用したリモートセンシングでは、このような電磁波の特徴を利用して、対象物を様々な観点から観測します。
衛星リモートセンシング
衛星リモートセンシングとは、衛星に搭載したセンサーで、天体の表層や地表を観測することを意味します。具体的には、例えば地球を対象とした衛星リモートセンシングの場合、衛星に搭載したセンサーが、地球上の海、陸地(森や都市部等)、雲等から反射され、又は自ら放射する電磁波を観測します。電磁波の周波数によって、観測できる内容が異なるため、様々な周波数帯の電磁波を用いてリモートセンシングすることで、気象はもちろんのこと、鉱物資源、農作物の生育状況、森林、大気汚染、市街地等の土地利用状況等、地表の状況を知ることができます。
総務省が今回開発しようとしているセンサーが利用するのは、テラヘルツ波と呼ばれる、光と電波の間の境界にある(一部は電波に含まれる)電磁波です。テラヘルツ波は、全電磁波領域の中で、氷や水に最も敏感な周波数帯であり、高い検出感度を有しているため、水資源の探査に適しているのです[vi]。
テラヘルツ波センサーの開発が成功すれば、月の水資源探査のみならず、大気中の水蒸気の状況を観測することで、地球規模での激甚災害の予測や、さらには、惑星における資源探査にも寄与することになります[vii]。
前回の宇宙ブログでご紹介したように、我が国でも本年6月15日に世界で4番目となる宇宙資源法が成立しており、今後、宇宙空間に存在する天然資源を採掘等した民間企業等は、所有の意思をもってかかる天然資源を占有することで、その所有権を取得することが可能となります。テラヘルツ波をはじめとする電磁波を利用した衛星リモートセンシングは、この宇宙資源探査においても大変重要な役割を果たすこととなりそうで、今後の活躍に目が離せません。
衛星リモセン法
なお、地球を対象とした衛星リモートセンシングによって得られるデータは、悪用されると国の安全保障上の利益を害するおそれがあることもあり、衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(以下「衛星リモセン法」といいます。)という法律によってルールが設けられています。衛星リモセン法の内容について、詳しくは弊所パートナー弁護士新谷美保子執筆の「衛星リモートセンシング法の概説と衛星データ活用の未来」(NBL 1109号4頁)をご参照ください。許可、認可のルールがあるということは、規制があるとみることもできますが、一方で、ルールを守ればビジネス参入ができるということも意味しており、民間企業にとって参入ルールについての明確な法律ができたことは産業振興の意味も大きいと考えています。地上の災害が続く日本でも、衛星リモートセンシングを活用した衛星画像の利用で、地上の社会課題が解決されることも期待したいと考えています。
[i] 総務省「テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査基本計画書」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000758138.pdf)
[ii] 実際の活用例については、内閣府「衛星データをビジネスに利用したグッドプラクティス事例集【第2版】」(https://www8.cao.go.jp/space/goodpractice/r02/r02_jirei_all.pdf)参照。
[iii] 国立研究開発法人情報通信研究機構ウェブサイト(https://www2.nict.go.jp/ttrc/thz-sensing/ja/about_Thz/)
[iv] 電波は、電波法上は300万メガヘルツ(3テラヘルツ)以下の周波数の電磁波と定義されており(電波法2条1号)、電波も、さらに、周波数帯によってマイクロ波、極超短波、超短波、中波、長波等に細かく分類されています。
[v] 前述ii 国立研究開発法人情報通信研究機構ウェブサイト
[vi] 前述i 総務省「テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査基本計画書」
[vii] 前述i 総務省「テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査基本計画書」
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