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【デジタルプラットフォームと法】 第2回 デジタルプラットフォームと契約関係
2021.08.02
はじめに
ブログ連載「デジタルプラットフォームと法」の第2回では、当事者間の契約関係にスポットライトを当てて解説します。
デジタルプラットフォームビジネスにおいては、大きく分けて、2種類の取引関係が存在します。ひとつは、プラットフォーマーとプラットフォームの利用者との間の取引であり、もうひとつは複数の利用者の間の取引です。プラットフォーマーは事業者ですが、利用者同士の取引については、その一方が事業者である場合(BtoC型)と、双方が消費者である場合(CtoC型)があり、いずれであるかによっても当事者間の関係を規律する法律が変わる場合があります。また、デジタルプラットフォームが「インターネット上でサービスを提供する」という性質を有するため、インターネット上での取引に関する複数の法律が適用される場合があります。
このように、デジタルプラットフォームは、当事者が複数登場し、当事者間の契約関係が複雑になりやすい点や、多くの法律が適用される点などから、考慮すべきポイントは多岐にのぼります。
以下では、デジタルプラットフォームにおける当事者間の契約関係について解説します。
デジタルプラットフォームにおける当事者間の契約関係・責任の所在
(1)当事者間の契約関係
① プラットフォーマー/利用者間の契約関係
プラットフォーマーとプラットフォームの利用者の間の基本的な関係は、当該プラットフォームの利用規約によって定められます。
2020年4月1日に施行された改正民法では、
(ア)特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であること
(イ)その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的であるもの
を「定型取引」、定型取引において契約の内容とすることを目的として準備された条項を「定型約款」と定義しました(民法548条の2)。その上で、定型取引を行うことを合意した者は、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は定型約款を準備した者が定型約款を契約の内容とする旨を契約締結前に相手方に表示していたときは、定型約款の個別の条項についても合意したとみなされます。
一般的に、プラットフォームサービスで、プラットフォーマーと利用者の間の関係を規定している利用規約は、プラットフォーマーが不特定多数の利用者を相手方として行う取引のために準備したものであり、かつその内容は画一的であることがその双方にとって合理的であるものと言えますので、「定型約款」に該当する場合が多いと思われます。また、一般的なプラットフォームサービスでは、会員登録・利用登録時点などサービスの利用開始前に、利用者に対して利用規約を表示し、その内容に同意して初めて利用が可能となる仕組みとなっている場合が多いと思います。このとき表示される利用規約が民法上の「定型約款」に該当するときは、当該利用規約に同意しサービスの利用を開始した場合、定型約款を契約の内容とする旨の合意があったといえ、民法上、利用規約の規定が利用者とプラットフォーマーとの間のプラットフォーム利用契約の内容として組み入れられることになります。
② 利用者同士における契約関係
プラットフォーム上において、利用者同士の間で個別に契約を締結するような場合には、その契約によって当事者間の契約関係が規定されます。もっとも、実際には、利用者同士の契約条件についても、プラットフォーマーの提供する利用規約の中に組み込まれていることが多くなっています。これは、お互いに顔を合わせたことも無い利用者同士が安心して、迅速に取引を行える場を提供するというプラットフォームの役割からすれば、ごく自然なことと言えるでしょう。また、このような方法をとることにより、トラブルを防止できたり、トラブルが発生した際にスムーズに対応できたりするメリットもあります。
(2)当事者間の責任問題
① プラットフォーマー/利用者間、利用者同士の責任問題
前述のとおり、プラットフォーマーと利用者の間の法律関係は、原則として契約内容として組み込まれている利用規約によって定められています。そのため、利用規約の内容に反して相手方に損害を与えた場合は、相手方に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負います(民法415条1項)。なお、利用者が消費者の場合において、プラットフォーマーの責任の範囲を制限する条項を利用規約に設けている場合は、消費者契約法との関係で注意が必要となります(後述)。
利用者同士の場合でも、利用者間の契約の内容(契約条件が、プラットフォーマーの利用規約の中に組み込まれている場合には、当該利用規約中の対応する条項)に違反し相手方に損害を与えた場合は、同様に債務不履行責任を負うことになります。
② 利用者間の取引に関するプラットフォーマーの責任問題
次に、利用者間の取引において、一方の利用者に損害が生じた場合には誰が責任を負うのでしょうか。例えば、フリマサービスで購入した製品に不具合があった場合に、購入者が返金を要求したり、製品から生じた損害の賠償を請求したりできる相手方は誰なのでしょうか。
これに関しては、原則としてプラットフォーマーは利用者に対して責任を負わないと考えられています。プラットフォーマーはあくまでも利用者に対して取引の「場」を提供するだけで、利用者間の取引には実質的に関与しないためです。利用規約においても、利用者間の取引に関してプラットフォーマーは一切関与しない、したがって責任を負わないという条項が規定されている場合が多くみられます。
もっとも、プラットフォーマーが「場」の提供者に止まらない場合には、例外的にプラットフォーマーが責任を負うこともあり得るでしょう。
この点に関して、経済産業省作成の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「準則」といいます。)は、プラットフォーマーが単なる「場」の提供者にとどまらず、実質的に利用者間の取引に関与している場合には、その取引から生じた損害について責任を負う可能性があるとしています。そして、準則は、プラットフォーマーが実質的に利用者間の取引に関与している場合として、以下の例を挙げています(※1)。
①プラットフォーム事業者がユーザーの出品行為を積極的に手伝い、これに伴う出品手数料又は落札報酬を出品者から受領する場合
②特定の売主を何らかの形で推奨する場合
③プラットフォーム事業者自体が売主等の取引当事者となる場合
さらに、準則は、プラットフォーマーが利用者間の取引に実質的に関与しない場合であっても、プラットフォーマーは利用者間の取引行為に係る情報が仲介されるインフラシステムとしての「場」を提供していることから、一定の場合にはプラットフォーマーに責任を認める余地があるとしています。
この点に関連して、裁判例の中には、インターネットオークションサイトの運営者が、出品者による詐欺行為について責任を負うかが問われた事案について、運営者はユーザーに対して「本件利用契約における信義則上、…欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務」を負っていると判示したうえで、「本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では、利用者が詐欺等の被害に遭わないように、・・・相応の注意喚起の措置をとるべき義務があった」と判示したものも存在します(※2)。
上記のとおり、現時点においてプラットフォーマーの責任の有無についての一般的な判断基準がある訳ではなく、具体的な事実関係に基づいて一定の場合にプラットフォーマーの責任を例外的に肯定するといった傾向にあるようです(※3)。もっとも、いずれにせよ、プラットフォーマーとしては、プラットフォーム上で生じた問題点について常に免責されるとは限りませんので、プラットフォームが不正行為等に利用されないような仕組みや、監視体制を構築することが重要でしょう。
利用者によるデジタルプラットフォームの利用と契約関係
(1)総論
デジタルプラットプラットフォームにおいては、多数の利用者とのプラットフォーム利用に関する契約の締結が想定されていること、サービス利用者が消費者のケースがあること、「オンライン」でのサービス提供であること、などの要素から、当事者間における契約関係について、いろいろな法律が適用される可能性があります。以下では、一般的にデジタルプラットフォームを利用する過程で、どのような法律が関係してくるのか、考慮する必要があるのか、概説します。
なお、法律の規定上は、プラットフォーマー自体は直接の適用対象とはならず、利用者において遵守しなければならない事項を定めている場合もあります。もっとも、利用者が法律の規定を遵守できるような体制やプラットフォームの機能を整えておくことはプラットフォーマーの役目と言えますので、プラットフォーマーとして法律の規定に沿ったサービス設計にしておくことが必要です。
(2)民法
・利用規約の定型約款該当性(民法548条の2)
前述のとおり、プラットフォームの利用規約が「定型約款」に該当する場合は、当該利用規約に同意することによって、当該利用規約の内容はプラットフォーマーと利用者の間の契約内容に組み入れられることになります。
・不当条項規制(民法548条の2第2項
「定型約款」としての利用規約内の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、定型取引の態様・実情などに照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされます。例えば、利用者が利用規約に違反した場合に過大な違約罰を課すものや、あらゆる場合にプラットフォーマーの責任を免責する条項などは、不当条項として契約内容とならない可能性がありますので注意が必要です。
・定型約款の変更(民法548条の4)
「定型約款」に該当する利用規約を変更する場合、以下の要件を満たすときは、変更後の条項について合意があったものとみなされ、個別の合意は不要となります。
・定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
・定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、民法548条の4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
また、上記の規定に基づき利用規約を変更する場合には、変更後の利用規約の効力が発生する時期を定め、ウェブサイト上などで変更の内容・時期などについて周知をする必要があります。
(3)消費者契約法
・適用対象
消費者契約法は事業者と消費者の間で締結される契約に適用されます。プラットフォーマーは事業者ですので、利用者が消費者であれば、プラットフォーマー/利用者間の取引に消費者契約法が適用されます。また、利用者間の取引についても、利用者の一方が事業者で、他方が消費者の場合(BtoC型)には、消費者契約法が適用されます。
・事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効(消費者契約法8条)
まず、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害について、事業者の責任の全部を免除する条項は、無効となります(消費者契約法8条1項1号又は3号)
例:× 「当社の責めに帰すべき事由によりユーザーに損害が発生した場合であっても、当社は一切の責任を負いません。」
また、事業者に故意又は重過失がある場合は、責任の一部だけを免除する条項でも無効となります。
例:× 「当社に責めに帰すべき事由によりユーザーに損害が発生した場合は、当社はサービス利用料を上限として損害を賠償します。」
・消費者の利益を一方的に害する条項の無効(消費者契約法10条)
法律上の規定に比べて、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項で、消費者の利益を一方的に害するものは無効となる可能性があります。
例えば、民法と比べて、事業者側からの解除をしやすくしたり、消費者側の権利行使が可能な期間を短くしたりする規定は無効となる可能性があります。
以上のとおり、消費者契約法については、利用者が消費者である場合に、利用規約の内容の有効性などとの関係で留意する必要がありますし、利用規約に消費者契約法違反が疑われる条項がある場合、適格消費者団体等からその旨の指摘が入ることもあり、当該指摘に係る事業者とのやり取りについては適格消費者団体等のウェブサイトで公開されることもありますので、レピュテーションリスクを発生させないといった観点からも留意する必要がございます。
(4)電子消費者契約法
・適用対象
電子消費者契約法は、事業者と消費者がウェブサイト上で契約を締結する場合など(電子消費者契約)に適用されます。デジタルプラットフォームの場合は、消費者である利用者がプラットフォームの利用申込みをする場合に適用されるほか、BtoC型の場合には利用者間の取引にも適用される可能性があります。
・民法上の錯誤に関する特例(電子消費者契約法3条)
民法では、錯誤によって契約の申込みをした場合であっても、それが表意者(申込者)の重過失に基づく場合は、申込みを取り消すことはできないとされています(民法95条3項)。
もっとも、電子消費者契約の場合は、操作ミスなどによって誤って申し込みがされてしまうことが想定されます。そのため、原則として民法95条3項は適用されず、消費者に重過失がある場合でも申込みを取り消すことが認められています(電子消費者契約法3条1号)。しかし、これには更に例外があり、①事業者が消費者に対して、その申込みの前に申し込みの意思の有無についての確認措置を講じた場合又は②消費者から事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、重過失のある消費者は申込みを取り消すことができなくなります。
デジタルプラットフォームの利用登録の場面やデジタルプラットフォーム上で商品を購入する場合に、必要事項を入力した後に最終確認画面が表示される場合がありますが、当該画面は電子消費者契約法を考慮して構築する必要があります。
(5)特定商取引法
プラットフォーム上で実施する事業が「通信販売」(同法2条2項)に該当する場合は、特商法の規制を遵守する必要があります。特定商取引法の規制を含めた表示・広告規制については次回のブログでまとめて解説します。
(6)取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律
・新法の成立
近時、消費者庁が設置した「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」において、消費者保護政策の一環として、デジタルプラットフォームと消費者の関係を規律する新法の制定が議論されていました。そして、第204回国会において議論がなされ、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(以下「取引デジタルプラットフォーム法」といいます。)が2021年4月28日に成立し、同年5月10日に公布されました。取引デジタルプラットフォーム法は、公布から1年以内に施行されます。
・適用対象
当該法律の適用対象は、「取引デジタルプラットフォーム」(同2条1号)です。「取引デジタルプラットフォーム」とは、以下の要件を満たすものをいいます。
①次の要件を満たす「デジタルプラットフォーム」であること
・多数の者が利用することを予定して構築した「場」であること
・インターネットその他のネットワークを通じて提供されること
・利用者の増加に伴い、他の利用者の効用が増加していくという関係にあること
②次の何れかの機能を有すること
・デジタルプラットフォームを利用する消費者が、オンライン上で商品購入やサービスの申込みをすることができる機能(例:オンラインモールなど)
・デジタルプラットフォームを利用する消費者が、オークションなどの手続に参加することができる機能(例:オークションサイトなど)
・取引デジタルプラットフォームの運営者の努力義務(3条)
取引デジタルプラットフォームの運営者には、次に定める措置を講じる努力義務が課されています。
・消費者が販売業者(例:オンラインモールの店舗)と円滑に連絡することができるようにするための措置を講ずること
・販売業者による販売条件等の表示に関して消費者から苦情の申出を受けた場合において、事情を調査するなど表示の適正を確保するための措置を講ずること
・販売業者に対し、必要に応じて、その住所など、販売業者の特定に資する情報の提供を求めること
・内閣総理大臣による利用停止措置等の要請(4条)
内閣総理大臣は、販売業者が取引デジタルプラットフォーム内で表示する販売条件の表示が、次の要件をいずれも満たす場合で、消費者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、取引デジタルプラットフォームの運営者に対して、当該販売業者によるプラットフォームの利用を停止することなど、必要な措置をとるよう要請することができます。
・商品の安全性の判断に資する事項その他の重要事項について、著しく事実に相違する表示であること、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると誤認させる表示であること
・上記の表示をした販売業者が特定できないなどの理由により、販売業者によって当該表示が是正されることが期待できないこと。
・消費者による販売事業者情報の開示請求(5条)
消費者が、販売業者との取引に関する金銭債権(例えば、購入した商品が原因で怪我をした場合の損害賠償請求権など)であって、一定の金額を超えるものを有する場合には、債権行使のために必要なときに限り、取引デジタルプラットフォームの運営者に対して、当該販売業者の名称等の情報を開示するよう求めることができます。
終わりに
以上のとおり、デジタルプラットフォームにおける契約関係及びこれを規律する法律について概説しました。もっとも、上記以外にも、デジタルプラットフォームの事業内容によってはその他の法律により契約関係が規律される場合があります。プラットフォーマーとしても、プラットフォームを利用する事業者としても、どのような法律が適用されるかについて慎重に検討する必要があります。
次回は、デジタルプラットフォームにおける広告・表示規制について解説します。
以上
※1:経済産業省・2021年8月「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」103頁(https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200828001/20200828001-1.pdf)
※2:名古屋地判平成20年3月28日判例タ1293号172頁。ただし、裁判所は、結論において、インターネットオークションサイトの運営者に義務違反は認められないとし、その責任を否定しました。
※3:また、インターネットショッピングモール上で、個別の出店者が商標権を侵害する態様で商品を展示・販売していた場合に、当該インターネットショッピングモールの運営者がその責任を負うかについて、一定の場合(ウェブページの運営者が、出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至った上で、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない場合)には運営者にも侵害の責任を問い得ると述べた裁判例もあります(知財高判平成24年2月14日判タ1404号217頁)。