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【スタートアップPG連載ブログ】第1回:株主総会や取締役会の手続は、どこまでメールやSlackで処理できるか
2021.08.10
会社法上必須の機関である株主総会。業務執行の決定を担う取締役会。それぞれ会社を運営していくには避けて通れない法定の会議体です。
ところが、管理系のリソースが不足しているスタートアップの中には、株主総会や取締役会を実際に開催することはもちろんのこと、招集通知や書面決議における書面作成と回収などの事務手続は、想像以上に重たい負担に感じられることがあると思います。特に、コロナ禍で在宅が中心となっている状態だと、郵送物を受け取ることですらなかなか思うように行かないところです。我々も日々バイク便をお願いして色々な書類をお届けしていますが、送り先が当然に会社であったときとは隔世の感があります。
(つぶやき)
最近はWEBミーティングの形式で取締役会を開催している会社も非常に増えているところですが、取締役会と業績報告会等の他の会議が連続して行われ、人が出たり入ったりする場合には、アカウントの連携が上手くいかずに困ってしまうようなことも少なくありません。OutlookやGoogleカレンダーなどもそうですよね。異なるプラットフォームの外部の方が入る会議体の場合には、なおさらです。シームレス、と言うは易しで、なかなか難しいところであります。
そんな中、株主総会や取締役会の手続をメールやメール添付のPDF、はたまた株主や外部の取締役を含めたSlackのチャネル上のやりとり等で済ませているスタートアップも多くありますが、このような処理は適法なのでしょうか。
今回は、「株主総会や取締役会のような会社法上の会議体の開催プロセスはどこまでメールやSlackで代替可能か」という問題を中心に、会社法上のルールのアレコレを確認してみましょう。
キーポイント・サマリー
本ブログで扱う内容を簡単に要約すると、以下のとおりです。
Ⅰ 株主総会招集通知
類型 |
ネットによる手続の可否 |
取締役会非設置会社(※) |
メールやSlackでの株主総会招集通知を発出することができる |
取締役会設置会社 |
株主から、あらかじめ、「電磁的方法による承諾」を得ていないと、メールやSlackで株主総会招集通知を発出することができない |
(※)厳密には、書面投票又は電子投票(ほとんどの上場会社で採用されている、「議決権行使書面」という書面やネット投票で議決権を行使することができる場合です。)ができることとされている株主総会では、取締役会非設置であってもメールやSlack等による招集手続は不可です。もっとも、スタートアップ、というか非公開会社でこの方式が採用されていることはほとんどないので、ここでは省略します。
Ⅱ 取締役会招集通知
メールやSlackでの発出が可能 |
Ⅲ 書面決議
類型 |
ネットによる手続の可否 |
株主総会書面決議 |
メールやSlackでの同意取得可能 |
取締役会書面決議(※) |
(※)取締役会の書面決議は、そもそも定款にその定めを置いていないと実行できないことに注意が必要です。
株主総会の開催方法
株式会社で必要となる株主総会の開催方法は、
①招集手続を経て行われる実開催方式(296条) |
の3種類があります。②は①の亜種ですから、実質的には①と③の2つと言っても良いでしょう。
スタートアップではむしろ③の方が多く活用されているかもしれませんね。
なお、②の同意が取れるのであれば通常は③の同意も取れるでしょうから、②により招集手続だけを省略するインセンティブは低いのだと思われます。
(※)③書面決議を行うためには全株主からの同意取得が必要であるため、協力してくれない株主がいる場合には、この方法は使えません。
(※)ちなみに、定時株主総会も、③書面による方法で開催することができます。事業報告のように定時株主総会に報告しなければならない事項(438条3項)についても、書面によることができるとされているためです(320条)。
では、株主総会の①招集通知や③書面同意の取得のためには、必ず「書面」を作成しなければならないのでしょうか。どこまで、メールやSlackで代替することができるのでしょうか。
株主総会の招集通知における「書面」の要否
(1)招集通知を「書面」で行わなければならない場合
会社法は、以下の場合には、株主総会の招集通知を「書面」で行わなければならないとしています(299条2項)。
① 招集決定時に、書面投票又は電子投票ができる旨を定めた場合 |
上記のとおり、①は、通常、スタートアップを含む閉鎖会社で利用されることはありませんから(よくあるのは「委任状を返送してください」と頼み頼まれるタイプだと思いますが、これは議決権の代理行使といって、「書面投票」とは別の制度になります。)、要するに、その会社が②取締役会設置会社のときには、招集通知を書面で行う必要がある、ということになります。なお、これらの場合に招集通知に記載しなければならない事項は、会社法298条1項各号記載の事項です(299条4項)。
(2)電磁的方法によることができる場合
一方、会社法は、本来は紙で招集通知を送らなければいけない①(書面投票等ができる)又は②(取締役会設置会社)に該当する場合であっても、
政令で定めるところにより、「株主の承諾を得」た場合
には、「電磁的方法」により招集通知を発することができるとしています(299条3項)。
では、この「電磁的方法」とは何でしょうか。
会社法は、「電磁的方法」を、「電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるもの」と定義しています(2条34号)。
そして、これを受けた法務省令として、会社法施行規則は、(原文は読みにくいので意訳すると)
・「インターネット等を通じて電子メールを送信する方法」
・「ホームページ(ウェブサイト)に情報を掲示」して閲覧させ、あるいはダウンロードできるようにする方法
・「DVD、CD-ROM、ICカード等」やメモリの情報を保存した媒体(ハード)を交付する方法
が、電磁的方法に該当しますよ、と定めています(規則222条。上記のカギ括弧内の表現は弥永真生先生の「コンメンタール会社法施行規則・電子公告規則」に依ります。なお、プリントアウトできるようにする必要があります。)。「DVD、CD-ROM、ICカード等」やメモリの情報を保存した媒体(ハード)を交付、はなかなかワイルドです(なら書面で送るわ!という声が聞こえてきそうです)。
(※)ちなみに、FAXは電磁的方法に当たらないとされているので、注意が必要な人も、中には居る可能性が否定しきれません。
ということは、会社法上「電磁的方法」と書いてあるモノは、メールやSlackなどのコミュニケーションにより代替可能、ということになりますね。
なのですが、取締役会設置会社などの場合、総会招集通知を電磁的方法で送って良いのは、
「政令に定めるところにより、株主の承諾を得」た(299条3項)
場合、でした。これが、なかなかやっかいなのです。
この「政令」には、会社法施行令と呼ばれるものが該当します。会社法施行令はわずか4条からなる小さなルールですが、電磁的方法で何かができるかを検討するときには常に参照する必要がある、今回のテーマとの関係ではそれなりに大切なルールです。
その会社法施行令は、株主総会招集通知を電磁的方法により行おうとする場合には、
法務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該通知の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない
と定めています(令2条1項2号)。
つまり、取締役会設置会社において、株主総会の招集通知を電子メールで送付しようとする場合、あらかじめ、株主に対し、「メールで総会の招集通知を送りますよ」ということをお伝えした上で、書面又はメール(電磁的方法)で、承諾を得ておかなければならない、ということになります。
とんちのような話になってきますが、言い換えると、
「メールで送るよ」
「いいよ」
というやりとりをした後であれば(しかもそれは口頭ではダメです)、メールにPDFを添付する等の方法で手続を進めることが出来る、ということになるわけです。
しかも、その承諾は「あらかじめ」得ておかなければなりません。
この「あらかじめ」が招集通知の送付と同時に行うことで良いのかというのは悩ましい問題で、通常の日本語の意味では、同時に送付することは「あらかじめ」ではありませんから、やはり、「当社は取締役会設置会社になりました、これから当社の総会の招集通知はメールで送りますからね」と総会前に連絡をして、承諾を得ておかないといけない、ということになりそうです(もちろん、「あらかじめ」であれば直前であっても構わないと考えられますので、何週間も前に送らなければいけないわけではありませんが。)。
ここで、より一歩進んで考えると
この「承諾」は、総会の都度取得し直す必要があるのだろうか
という疑問が出てきます。
色々な考え方があり得るところですが、実務上は、当該「承諾」を包括的に取得しても差し支えないと考え、そのようにしていることも多いところです。
すなわち、
いったん株主から包括的な「承諾」を得ておけば、以後の招集通知は電子メールの送信で済ますことができ、都度承諾を得る必要はない
という考え方です(非常に信頼の高い研究者の先生の見解として、そのような対応も許容される、という見解も示されており、理論的にも、問題ないと考えて良いのではないかと思われます。)。
更に進んで、とりわけスタートアップの場合には、
株主間契約や優先分配の合意書など、株主全員の合意により締結される契約書面において、株主からこの「承諾」を取得しておく
という方法も考えられるところです。
この方法は未だ実務に完全に定着・浸透している方法とは言えませんが、デジタルな方法でこれらの手続を実施できることは、通常は、スタートアップにも株主にもメリットがあるところです。
今後普及するといいな、ということで、弊所スタートアップ・プラクティスグループは、この方法も推奨していこうと考えています。
(3)そもそも招集通知を「書面」で行わなくて良い場合
だいぶ長くなってきましたが笑、改めて、
取締役会設置会社である場合
書面投票、電子投票ができる場合
以外の場合には、株主総会の招集通知を書面で行う必要はありません。
更にこの場合、法文の解釈上は、メールで単に「今度株主総会をやります。」とだけ送信することも、直ちに違法の問題を生じるわけではありません(299条4項は「前二項の通知には」としており、法文上は、議題すら通知することを要しない)。
ただ、常識の問題として、「今度株主総会をやります」とだけ連絡してこられても、なんじゃそりゃという話です。したがって、株主に参加の機会を与えるという招集通知の趣旨から、最低限、①日時、及び、②場所は通知しなければならないと考えるのが通常です(※)。
(※)岩原紳作編「会社法コンメンタール7-機関(1)」85頁[青竹正一](商事法務、2013年)
また、必須ではないとしても、会議体の原則として出席の要否を検討させるという招集手続の趣旨からして、通常は、株主総会の目的事項(議題)を通知することが望ましいでしょう。
いわゆる株主総会書面決議における「書面」の要否
以上の議論は、株主総会を実際に開催するときの「招集手続」、特に「招集通知」をメールで送れるか、という話でした。
一方、上記のとおり、株主総会の開催方法には、いわゆる書面決議という方法も用意されています(319条1項)。
これは、
取締役又は株主が株主総会の目的事項を提案し、それに対して議決権を行使することができる全株主が「書面」又は「電磁的記録」により同意した場合に、株主総会決議があったものとみなす
という制度です。
お気づきのとおり、ここでは、「電磁的記録」という、「電磁的方法」とは違う文言が使用されています。
電磁的記録とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるもの」をいいます(26条2項)。
そして、これを受けた会社法施行規則は、「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの」と定義しています(規則224条)。
なんだかよくわかりませんが、要するに、会社法上「電磁的記録」として認められるためには、一定程度しっかりとした保存が可能な記録媒体を用いてね、ということです。
具体的には、磁気テープ、ICカード、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスクなどがこれに該当しますので、株主総会書面決議の手続において、株主が同意の意思表示をメール等で送信することは、当該メール等がハードディスク、サーバー、クラウドなどの「一定の情報を確実に記録しておくことができる物」に保存されることになるため、メール等による意思表示も「電磁的記録」に該当すると考えられます。
したがって、株主総会の書面決議は、取締役会設置会社であるか否かにかかわらず、株主全員から、書面はもちろんのこと、電子メール等によって同意を取得することによって実施することができる、ということになります(※)。
(※)岩原紳作編「会社法コンメンタール7-機関(1)」314頁[前田重行](商事法務、2013年)
なお、この株主からの同意の取得は、ある株主からは書面で、別の株主からはメール等で同意を取得する方法によることもできると考えられており(始関正光「平成十四年改正商法の解説[Ⅳ]」旬刊商事法務1640号7頁)、海外に株主がいらっしゃる場合などには色々な方法の組み合わせで便宜に使うこともできるかもしれません。
取締役会書面決議
これまで検討した株主総会の招集通知、株主総会の書面決議とは異なりますが、取締役会設置会社における取締役会の書面決議(議決に加わることができる取締役全員の同意により取締役会決議があったものとみなす制度。370条)も、「書面」又は「電磁的記録」によることとされています。
したがって、株主総会の書面決議と同じく、取締役会の書面決議も、議決に加わることができる取締役全員から、書面又はメール等によって同意を取得する方法により、行うことができるということになります。
まとめ
以上をまとめると、
1.取締役会非設置の会社の場合、株主総会招集通知をメール等で送ってよい
2.取締役会設置会社の場合、あらかじめ株主から承諾を得れば、株主総会招集通知をメール等で送ることができる
3.2.の承諾は、包括的に取得しておくことができると考えられ、総会の都度に取得しなければならないわけではない
4.株主総会も取締役会も、書面決議はメール等で行うことができる
ということになります。ポイントは2.ですね。シリーズA後くらいから取締役会設置会社に移行されるスタートアップは多いですが、従前メールで株主総会の招集手続を行っていたときには、「今後は、一手間かけてからだな」とアンテナを伸ばしていただければと思うところです。
初回から非常に長くなってしまいました!