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【デジタルプラットフォームと法】第3回 デジタルプラットフォームと広告(表示)規制
2021.08.25
はじめに
ブログ連載「デジタルプラットフォームと法」の第3回では、デジタルプラットフォームビジネスにおける広告(表示)の責任主体を取り上げたいと思います。
例えば、小売店Aが販売する商品について「今だけ20%オフ!!」と表示をしていたものの、実際には常時このような表示を行っていた場合、消費者に、あたかも今という限定された期間であれば安く購入できると誤解を与えるものであり、このような表示は景品表示法上の有利誤認(不当表示)となります。では、このような問題のある表示が、デジタルプラットフォーム上において行われた場合、プラットフォーム上でその商品を提供する事業者だけでなく、プラットフォーマーも責任を負うことになるのでしょうか。
また、オンライン・ショッピングモールでの取引は特定商取引法上の「通信販売」に該当するところ、誰が特定商取引法上の表示義務を負うことになるのでしょうか。
最近においても、広告(表示)に関して、違法な表示をしたとして関係者が逮捕された事例もあるところであり、デジタルプラットフォーム上の表示責任を誰が負うことになるのかという問題はデジタルプラットフォームビジネスを展開するにあたっては、目配りしていく必要がございます。
以下、表示規制に係る代表的な法令を取り上げ、誰が表示責任を負うことになるのかについて、近時の事例も含め概観したいと思います。
問題となりやすい表示規制の概観
表示に関して問題となりやすい代表的な規制は以下の表に記載したとおりです。いずれの表示規制も虚偽広告はもちろん、誇大広告についても禁止しているという点では共通していますが、かかる表示規制を遵守する義務を負う主体については法律ごとに異なっていることが分かります。景品表示法はあくまで「自己の供給する商品又は役務の取引」について「表示」を行った事業者を規制しているのに対して、特定商取引法は「販売事業者又は役務提供事業者」に限定しています。他方で薬機法や健康増進法は「何人」も規制対象となっています。
このように表示の責任主体は法律ごとによって異なっていますが、果たしてプラットフォーマーはそれぞれの表示規制の対象になるのでしょうか。
法律 |
規制の概要例 |
条文 |
景品表示法 |
事業者は、「自己の供給する商品又は役務の取引」について、次のような表示をしてはならない。 ②有利誤認表示 |
5条 |
薬機法 |
「何人も」、未承認の医薬品等について効能等の広告をしてはならず、また医薬品等の効能効果等について虚偽又は誇大な広告をしてはならない。 |
66条、68条 |
健康増進法 |
「何人も」食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするとき、健康の保持増進の効果等について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。 |
65条1項 |
特定商取引法 |
「販売業者又は役務提供事業者」は所定の事項を表示する義務を負い、また誇大な広告をしてはならない。 |
11条、12条 |
法律ごとの規制内容
(1)景品表示法
景品表示法上の責任主体となるのは、①「自己の供給する商品又は役務の取引」(いわゆる「供給主体性」の問題)について、②「表示」(いわゆる「表示主体性の問題」)した事業者となります。この点、少なくとも商品のメーカー、卸、小売店のように当該商品の販売ルート上にある事業者や、役務を一般消費者に対し直接提供している事業者自らが表示の決定を行っているということであれば、上記の供給主体性及び表示主体性が認められることについては議論の余地がありません。他方で、広告代理店やメディア媒体(新聞社、出版社等)は、商品・役務の広告の制作等に関与していても、自らまたは当該商品・役務を供給する他の事業者と共同して自己の商品・役務を供給していると認められない限り、景品表示法の規制対象となる表示を行っているとは見られません。
それでは、プラットフォーマーのうち例えばオンライン・ショッピングモール運営事業者についてはどのように考えられるでしょうか。プラットフォーマーはあくまで「場」を提供しているのであって、供給主体性や表示主体性が認められないようにも思われます。しかしながら、そのように単純な問題ではないという点について以下説明していきます。
[想定事例](※1)
オンライン・ショッピングモールのトップページなど、オンライン・ショッピングモール運営事業者自身が記載内容を決定するページに、あたかもモール内の出品事業者のすべての商品・役務について適用されるかのような強調表示(例:ポイント還元、期間限定割引)をしているが、実際には一部の出品事業者には適用されないものであった場合
① 供給主体性の問題
供給主体性の問題については、「第7回 デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会 議事要旨」(10-11頁)(※2)において、以下のような問題意識が述べられています。
法律の条文で事業者は「自己の供給する商品又は役務の取引について」不当表示をしてはならない、となっているので、モールは問題の商品・役務を供給していないから問題になり得ないのではないかという問題提起であると理解している。これは、20頁の想定例1というのが典型的な例だと思うが、モールが自分のページで表示をしていて、それに根拠がなかったという場合に、モールが何らかの形で不当表示規制の対象になる場合があるということは、そのように考えたほうが適切なのではないかと思う。 表示対策課としては、これまでも共同して供給している場合等はという言い方をしてきていたと思う。法律の「供給する」という言葉を広く解釈して、このような場合には少なくとも景品表示法違反になり得ると考えていくということでいいのではないかとされていた。 また、表示対策課の考えとしては、法律を改正するのではなく、現行法の解釈でいける、これまでもやってきたというものである。今般、閣議決定されて表示対策課だけの考えではなくなったということも御紹介されたが、その方向でよいのではないか。そうすると、あとは具体的に共同あるいは関与というものがどれぐらいあれば違反になり得るのかというところを詰めていくことになると思う。 (注:下線部・太字は引用者によります。) |
上記の検討会での発言のとおり、プラットフォーマー(オンライン・ショッピングモール運営事業者)であっても、直ちに景品表示法上の責任を免れることができる訳ではなく、一定の場合に表示責任を負うことを示唆しています。どのような場合にプラットフォーマーが表示責任を負うかについて具体的な基準は現時点では存在しないものの、「オンライン・ショッピングモール運営事業者…も供給主体性を有しているといえるかについては、当該商品の販売について運営事業者がどのように関与しているかといった、当該商品の提供・流通の実態を見て実質的に判断することになる。したがって、当該オンライン・ショッピングモールの事業形態やシステム(例えば、出店者と購入希望者とのマッチング、受注、決済等に関するシステム)の態様、当該商品に関する販売キャンペーンの企図・実施状況(例えば、運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施しているか)等に鑑みて実質的に判断した結果、運営事業者が出店者と共同して供給主体性を有するとみられる場合があると考えられる。」(※3)とされています。
具体的な判断基準については今後事例の集積を待つしかありませんが、例えば、オンライン・ショッピングモール運営事業者(プラットフォーマー)と出店者がコラボ商品を提供することや、オンライン・ショッピングモール運営事業者(プラットフォーマー)が商品の注文窓口となったり、商品の製造過程等において費用を負担していたりすることは、オンライン・ショッピングモール運営事業者(プラットフォーマー)の供給主体性を肯定する一要素になるものと考えられます。
② 表示主体性の問題
上記①で取り上げた例のように、オンライン・ショッピングモール運営事業者(プラットフォーマー)と出店者がコラボ商品を販売するということであればプラットフォーマーには供給主体性が肯定されるものと考えられますが、問題となる表示について出店者が決定した場合、当該プラットフォーマーは問題となる「表示」をしたとは言えず、表示責任を負わないのではないかが問題となります。
この点、表示主体性を有するのは表示をした事業者となります。表示をした事業者とは、表示内容の決定に関与した事業者であり、具体的には以下の事業者とされています。
①自ら又は他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者
②他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者
③他の事業者にその決定を委ねた事業者
このうち、②の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい、また、③の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは、自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者を指します(※4)。
したがいまして、仮にオンライン・ショッピングモール運営事業者(プラットフォーマー)が対象となった表示に係る直接的な意思決定をしていなくても、「自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者」に該当する場合は表示主体性が認められ、表示責任を負う可能性があることになります
(2)特定商取引法
オンライン・ショッピングモールにおける商品の販売については「通信販売」(特定商取引法2条2項)に該当すると考えられるところ、「販売業者又は役務提供事業者」に該当すれば、氏名や住所、商品等の販売価格や商品の引渡時期等について表示義務を負うことになり(特定商取引法11条)、また誇大広告等をしてはならない義務を負うことになります(特定商取引法12条)。この点、「販売業者又は役務提供事業者」とは、販売又は役務の提供を業として営む者を意味しますが、オンライン・ショッピングモール上で商品を販売する事業者(出店者)が「販売業者又は役務提供事業者」に該当することは異論がないところです。それでは、プラットフォーマーは「販売業者又は役務提供事業者」に該当するのでしょうか。
この点、プラットフォーマーはあくまでも「場」を提供しているに過ぎない立場であるため、基本的には「(消費者に対して)販売又は役務の提供を業として営む者」には該当しないものと考えられます。
しかしながら、プラットフォーマーが利用者(消費者)に対してプラットフォームを有償で提供している場合は、プラットフォーマーは、自らのプラットフォームサービスという役務提供に関して、「役務提供事業者」として特定商取引法の規制を受け、表示義務が課され、また誇大広告が禁止されます(※5)。
(3)薬機法及び健康増進法
上記の「2.問題となりやすい表示規制の概観」の表で記載したとおり、薬機法や健康増進法は景品表示法等とは異なり、一定の広告については「何人も」それを表示することを禁止しており、表示責任を負うのは何も販売業者等に限定されるものではなく、プラットフォーマーであっても、その文言上、責任を負い得る立場であることについて留意が必要となります。
例えば、インターネット・ショッピングモール上において出店者が販売する清涼飲料水について、何らの合理的な根拠がないまま「3か月飲み続ければ10kg痩せます!」といった表示をした場合に、プラットフォーマーが当該表示について責任を負うかが問題となります。
この点に関連して、消費者庁は広告媒体事業者等の責任について、以下のように説明しています(※4)。
虚偽誇大表示を禁止している健康増進法第 65条第1項は、景品表示法とは異なり、「何人も」虚偽誇大表示をしてはならないと定めている。そのため、「食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をする者」であれば規制の対象となり、食品の製造業者、販売業者等に何ら限定されるものではない。したがって、例えば、新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体社等の広告媒体事業者のみならず、これら広告媒体事業者に対して広告の仲介・取次ぎをする広告代理店、サービスプロバイダー(以下、これらを総称して「広告媒体事業者等」という。)も同項の規制の対象となり得る。 もっとも、虚偽誇大表示について第一義的に規制の対象となるのは健康食品の製造業者、販売業者であるから、直ちに、広告媒体事業者等に対して健康増進法に基づく措置をとることはない。しかしながら、当該表示の内容が虚偽誇大なものであることを予見し、又は容易に予見し得た場合等特別な事情がある場合には、健康増進法に基づく措置をとることがある。したがって、例えば、「本商品を摂取するだけで、医者に行かなくともガンが治る!」、「本商品を摂取するだけで、運動や食事制限をすることなく劇的に痩せる!」など、表示内容から明らかに虚偽誇大なものであると疑うべき特段の事情がある場合には、表示内容の決定に関与した広告媒体事業者等に対しても健康増進法に基づく措置をとることがある。 (注:下線部・太字は引用者によります。) |
このように、薬機法や健康増進法上の上記表示規制については、一義的に、製造業者や販売業者が規制対象となるものの、「何人も」とされていることから、上記(1)②で述べた「表示主体性」を有することが認められるのであれば(すなわち、景品表示法とは異なり「自己の供給する商品又は役務の取引」との要件がありません。)、プラットフォーマーであっても責任を負い得るという点に留意をする必要があります。
さいごに(近時の摘発事例等)
このブログでは、単なる「場」を提供するプラットフォーマーであっても、表示責任を負う場合がありうること、表示責任を負う具体的な基準については今後の事例の集積を待つ必要があることを説明しました。
近時においては、広告主(メーカー)の広告について薬機法違反があったとして、当該広告主の関係者のみならず、当該広告に関与していた広告代理店の役職員も摘発された事例が発生しています。広告代理店の関係者が摘発された事例は私どもの知る限り初めてであり、今後、広告主以外の関係者の摘発が進む可能性も否定できません。プラットフォーマーも、当局や消費者からの広告表示に関する通報・クレームに迅速に対応するなど、適切な対応をとることが求められます。
次回は、個人情報を含むプライバシー関連の論点について解説します。プラットフォーマーは、多数の利用者(消費者)から個人情報を収集することになりますので、プライバシーの問題は避けて通れない重要な論点です。
以上
※1:消費者庁作成に係る令和2年6月12日付け「消費者を誤認させる表示の是正等について」と題する資料11頁
https://www.caa.go.jp/about_us/about/plans_and_status/digital_platform/pdf/consumer_system_cms101_200615_03.pdf
※2:「第7回 デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会 議事要旨」10-11頁
https://www.caa.go.jp/about_us/about/plans_and_status/digital_platform/pdf/consumer_system_cms101_200911_01.pdf
※3:西川康一編『景品表示法〔第6版〕』(商事法務、2021年)48頁
※4:消費者庁作成に係る令和2年4月1日改定の「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」6頁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/pdf/extravagant_advertisement_200331_0001.pdf
※5:同旨の指摘をするものとして、平成 31 年4月消費者委員会オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会「オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会報告書」33頁
https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/online_pf/doc/201904_opf_houkoku.pdf