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メタバースに関する一考察~仮想空間 今昔話
2021.11.15
2000年代の仮想空間ブームと法的論点
近時「メタバース」という言葉をよく見聞する。メタバースとは、オンライン上に構築された3DCGを利用した仮想空間をいうが、2000年代から仮想空間に興味をお持ちの方は「セカンドライフ(Second Life)」をご存知の方もいらっしゃるだろう。セカンドライフは、米国サンフランシスコに本社を置くLinden Lab社が、2003年に開発した仮想空間サービスであり、日本でも2000年代後半にブームが起きた(現在でも、そのサービスは継続している。)。
仮想空間サービスについては、当時から様々な法律問題が指摘、検討されてきた。以下は、筆者が米国留学した2009年当時のvirtual worldの法的論点に関する項目のうち、現代でも馴染みのありそうなものを列挙したものである。
① 仮想空間サービスの運営営社と利用者との契約 *いわゆる利用規約の有効性の問題。 ② 仮想空間内における土地や仮装通貨等の財産の取り扱い *現在では、ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨やNFTも問題となろう。 ③ 仮想空間内における知的財産権の取り扱い *当時は、Consumer Generated Contentsの著作権の帰属の問題等が議論されていた。現在では、AIによる生成物の権利帰属も問題となろう。 ④ プライバシー ⑤ セキュリティ ⑥ 仮想空間内における不法行為、刑法違反行為 *仮想空間内における財産のRMT(Real Money Trade)の問題の他、それに伴う犯罪行為、いわゆるギャンブル規制など。 ⑦ 税務 |
社会状況の変化と現代的課題
10年一昔という言葉もあるが、これらの項目は、以下のようなその後の社会状況の変化により、色褪せるどころか色を変えて輝きを増しているように思われる。
1 通信環境の整備・発展、AI技術の浸透
まず、WiFi等の通信環境の整備、5G等通信技術の発達が挙げられる。これにより、大量の情報のタイムリーな伝達、共有が可能となるが、このような状況は、仮想空間内における、文章や視覚的コンテンツの創作など、複数の者によるタイムリーなクリエイティブな作業を可能とする。コロナ禍を経てテレワークが常態化した社会において、メタバースを許容する土壌形成に寄与するものであり、いわゆる「仕事」と比較的無縁な世界で発展していた「仮想空間」を身近なものにする。
また、2010年代の、ディープラーニングを起爆剤とするAI(人工知能)の第三次ブームを経て、AIがその言葉と共に社会に浸透しつつある現代では、仮想空間におけるAI利用も期待されるところである。
2 VR(Virtual Reality:仮想現実)の普及、テレワークへの発展
次に、VR技術の発達、普及が挙げられる。VR機器やVR対応の映像を通して得られる体験が仮想空間への没入感を高め、無機質になりがちなデジタル社会への門戸を広げ、仮想空間とVRの相乗効果が期待できよう。
家にいながら、旅行、スポーツ観戦などのライブエンタテインメントが楽しめるようなVRビジネスは既に存在するが、視聴覚からの情報だけでは補えない情報の取得や体験の必要性は、テレワークにおいても指摘されるところである。リアル会議では、話し相手や参加者の表情を観て、その人の思惑等を感じながら、自らの発言を投入することが可能であるが、現状のウェブ会議ではそのようなことは難しい。しかしながら、VR機器の軽量化など、VRと仮想空間を上手く連携させる他、仮想空間のUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上などにより、リアル会議よりも便利で可視化された会議や、(時として新規ビジネスなどのネタ・起源となりうる)雑談も気軽に可能になるかもしれない。このように、VRと仮装空間との効果的な連携が、仮想空間とリアル世界の境界をより低いものとし、テレワークの発展も期待できる。
3 巨大プラットフォーム・コミュニティの登場
また、巨大なプラットフォームやコミュニティの出現も挙げられる。ゲームアプリのストア、SNS、Eコマース市場では、巨大なプラットフォームやコミュニティが出現し、新たな法律問題(独占禁止法、消費者保護の観点からの問題など)も出てきているが、このような大きなプラットフォームやコミュニティの形成という事象それ自体は、今後の仮想空間ビジネスの実現可能性・成功可能性を示唆し、後押しするものといえよう。
4 ビッグデータへの注目の高まり、リアルデータの補足
ビッグデータへの注目の高まりも、仮想空間を表舞台に立たせる要因の1つと思われる。すでに、リアル世界から収集したデータを、コンピュータ上にデジタルで再現することで、リアル世界での予測を立てシミュレーションを行うという手法(デジタルツイン)は存在するが、今後、人々が仮想空間で費やす時間が増えれば、仮想空間における人のライフログなどのデータは、リアル世界をシミュレーションするにとどまらず、リアル世界で不足する情報を補うものとして、さらに重要な役割をもつことになる。
そのため、データの保護や利活用に関する法規制は、仮想空間で生成されるデータについて今まで以上に意識されるようになり、特にプライバシー保護の問題が先鋭化することになろう。
「選ばれる仮想空間」を目指して
このように、仮想空間が、リアルとネットの世界を結びつけ、我々の日常生活に身近なツールになりうるという土壌は、2000年代のころとは比較にならないほど形成されてきた。しかしながら、1日24時間という誰しも平等に与えられた時間の中で、個々人がどのような目的で仮想空間に身を置くのかを考えると、今後、仮想空間ビジネスは、テレワークが普及した現在社会における、仕事とプライベートの調和を可能とするツールとしての役割が期待されつつも、①テレワークなどの業務遂行目的のための、いわゆる企業向けのもの(B2B)と、②プライベート目的等での一般ユーザー向けのもの(B2C。ここにも広告宣伝のために企業は登場するが)に大別され、それぞれ多様な仮想空間を形成し、融合が進んでいくと思われる。
特にB2C市場において「選ばれる仮想空間」となるには、既存の法的問題点の解決、仮想空間のUIやUXの向上、世界観の確立といった観点と併せて、空間内のガバナンス体制、ルール・倫理観の構築とその内容の納得感が重要になると思われる。具体的には、サービス運用時の法的観点から適法なのは当たりまえで、さらにその先の適正さに関するルールをどのように定め、どのように運用するかが重要となろう。また、仮想空間の利用目的や構成員次第ではあるが、空間内における憲法的統治の発想が求められる他、仮想空間内における表現規制、コンテンツ規制、未成年規制も重要となろう。
仮想空間ビジネスは新たなステージへと突入した。法的問題点についても、新たな角度からの検討が必要となる。
以上
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