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【労働法ブログ】労働法ブログ開始/新型コロナワクチン接種と配置転換
2021.12.24
はじめに
今年、弊所では、弁護士30名以上で、労働法プラクティスグループを組織しました。その中には元東京地裁労働部の裁判官、厚生労働省出向経験者、元主任労働基準監督官もおり、クライアントの皆様のニーズに応えるために、人事労務に精通したメンバーをそろえております。その労働法プラクティスグループのメンバーで、クライアントの皆様に少しでもお役に立つことができればと思い、今月から労働法に関連するブログを連載していこうと思います。もしご意見等ありましたら、ご遠慮なくご連絡ください。
コロナワクチン
現在、日本では、新型コロナウイルスのワクチン(以下「コロナワクチン」といいます。)の接種が進んでいます。
現時点で、既に全国民の7割以上が2回目のワクチン接種を終えたとされており、ワクチン接種を受けた医療従事者に対し、3回目の接種が始まっております。
このようなワクチン接種状況もあり、日本国内における新規感染者数の増加は抑えられていますが、今後ワクチンの効果が落ちてきた場合や、新規感染者数が増加した場合には、会社経営者としては、社内において「クラスター」が発生すること・新型コロナウイルス感染症に感染した従業員が顧客に感染させてしまうことなどを防ぎたい、そのために従業員に対してコロナワクチンの接種を義務付けたい、と考えられることが想定されます。
そこで、このブログでは、使用者が労働者に対してコロナワクチンの接種を義務付けることができるか、コロナワクチンを接種しない労働者に対して配置転換を命じることはできるかなどについて、解説したいと思います。
労働者に対して新型コロナワクチンを接種するよう業務命令を行うことができるか
まず、労働者に対して接種を義務付ける業務命令を行うことはできるのでしょうか。
この点、今回のコロナワクチンの接種に関しては、①接種が努力義務とされていること、②接種により副反応が発生しうることに留意する必要があります。
すなわち、①コロナワクチンの接種の根拠法である予防接種法では、対象者において「接種を受けるよう努めなければならない」と定められているにすぎず(予防接種法第9条第1項)、コロナワクチンの接種を受けることは、いわゆる「努力義務」にとどまります。
厚生労働省のQ&Aでも、コロナワクチンの接種は強制ではなく、あくまで本人の意思に基づき接種を受けるものであること(※1)、勤務先の会社等で接種を求められても、本人が望まない場合には接種しないことを選択することができることが明らかにされていることからも分かるように(※2)、コロナワクチンの接種は、労働者が自らの判断で受けるべきものです。
さらに、②コロナワクチンの接種により、注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛みなどの副反応がみられることがあり、まれにアナフィラキシーなどの重篤な副反応が発生することもあります。
以上を踏まえると、重篤な副反応も引き起こす恐れのあるコロナワクチンの接種は、労働者本人の判断に委ねられるべきであり、労働者に対して接種を義務付ける業務命令を行うことはできないと考えられます。
なお、コロナワクチンの接種を義務付ける業務命令を行うことはできないと考える以上、労働者が当該業務命令に従わなかったことを理由として行われた懲戒処分は、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、無効になると考えられます。
新型コロナワクチンを接種しない労働者に対して配置転換を命じることはできるか
サービス業などの接客が必要になる業種においては、顧客への感染を防止し、また、顧客に対し“接客する者がコロナワクチンを既に接種済みであるという安心感”を与えるために、コロナワクチンを接種していない労働者を接客業務から外すことも考えられます。このように、コロナワクチンを接種しないことを理由に、接客業務に従事していた労働者を顧客と接することのない業務に配置転換することはできるのでしょうか。
一般に、個別契約又は就業規則等において業務上の都合により労働者に転勤や配置転換を命ずることのできる旨の定めがある場合には、職務内容や勤務地を限定する特別の合意があるときを除き、使用者は、労働者の個別の同意なくして配置転換を命じることができるとされています。ただし、労働者の同意なく配置転換を命じることができる場合であっても、配置転換が無制限に認められるわけではなく、①業務上の必要性がないときや、②不当な動機・目的があるとき、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配置転換命令が権利濫用に当たると判断されることがあります。
なお、厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染防止のために配置転換を実施するにあたっては、上記①ないし③に加え、④配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重な検討を行うとともに、配置転換について労働者の理解を深めることに努めるべきとしていますので(※3)、コロナワクチンを接種しない者に対して配置転換を命じる際には、この点にも留意する必要があります。
ここで、特にサービス業などにおいては、顧客への感染を防止し、自社に対する顧客の信頼を損なわないようにするため、コロナワクチンを接種しない労働者に対して配置転換を命じることには、業務上の必要性があると考えられます(①)。
したがって、パーテーションの設置・マスク着用の徹底・PCR検査の実施などの感染防止対策で代替可能かを検討し、そのうえで配置転換の必要性について労働者に説明するなどの努力を行った場合には(④)、嫌がらせや退職に追い込む目的など不当な動機・目的がある(②)、従業員の家庭環境などから配置転換によって従業員に著しい不利益を負わせる(③)などの事情がない限り、接客業務に従事していた労働者を顧客と接することのない業務に配置転換することは適法であると考えられます。
なお、当該労働者との労働契約が職種や勤務地を限定したものである場合には、当該職種・勤務地の限定に反する業務命令を行うことはできませんので、ご注意ください。
おわりに
以上のとおり、コロナワクチンを接種しない労働者に対しては、接種を義務付けることはできませんが、一定の配慮を行うことによって配置転換を行うことは可能であると考えられます。
もっとも、従業員によるコロナワクチンの接種を推進するためには、
- 付き添いが必要な家族が接種する際の付き添い時間や接種会場への往復時間などを労働時間として扱う
- 家族に副反応が発生した場合に、特別休暇を付与する
- 副反応の程度が軽い場合に、在宅勤務を認める
など、従業員にとってコロナワクチンを接種しやすい職場環境を構築することもご検討ください。
※1 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」「Q今回のワクチン接種の『努力義務』とは何ですか。」(https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0067.html)
※2 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」「Q新型コロナワクチンの接種を望まない場合、受けなくてもよいですか。」(https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0053.html)
※3 厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」「10 その他(職場での嫌がらせ、採用内定取消し、解雇・雇止めなど)」「問12 新型コロナウイルスワクチンを接種していない労働者を、人と接することのない業務に配置転換することはできますか。」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q10-12)