ブログ
【デジタルプラットフォームと法】第5回 デジタルプラットフォームと物流(運送)規制
2022.01.24
はじめに
ブログ連載「デジタルプラットフォームと法」の第5回では、デジタルプラットフォームビジネスにおける物流(運送)規制に関する論点について取り上げたいと思います。
デジタルプラットフォームビジネスと運送規制については一見何ら接点は無さそうにも思えますが、実は、デジタルプラットフォームビジネスを展開する上では、運送規制が密接に関わってくるケースも少なくありません。
例えば、ウーバーイーツや出前館等のデジタルプラットフォーム型フードデリバリーサービスにおいては、配達員(キャリアー)がプレイヤーとして必須です。そして、配達員は貨物自動車運送事業法上の許認可の取得(一定の場合は届出)が必要であるのか、レストランと消費者をマッチングさせ、配達員をもマッチングさせるプラットフォーマーは貨物自動車運送事業法又は貨物利用運送事業法上の許認可の取得(一定の場合には届出)が必要であるのか等といった問題点があります。
また、Amazon等のオンライン・ショッピングモールのような類型であっても、消費者が出店者から商品を購入する際に、オンライン・ショッピングモール事業者(プラットフォーマー)が当該商品の運送に何らかの形で関与する場合であっても、上記運送規制(貨物自動車運送事業法、貨物利用運送事業法や道路運送法等)の適用の有無についてはそのスキームによって結論が変わり得るところです。
特に、後述するとおり、ウーバーイーツの配達員が貨物自動車運送事業法違反の疑いで摘発された事例もあるところであり、配達員のみならず、プラットフォーマーにおいても、こういった運送規制については目配りしておく必要があります。
そこで、本ブログでは、デジタルプラットフォームと運送規制の関わりについて、QA形式でご説明したいと思います。なお、配達員(Q(1))及びプラットフォーマー(Q(2))が留意すべき運送関連許認可について説明し、飲食店に関する点は割愛いたします。
Q&A
(1)例えば、ウーバーイーツのようなデジタルプラットフォーム型フードデリバリーサービスにおいて配達員をする場合、どのような運送規制の適用を受けますか?
●貨物自動車運送事業法の規制対象
配達員は「一般貨物自動車運送事業」や「貨物軽自動車運送事業」を営む者として、貨物自動車運送事業法による規制を受ける可能性があります。
「一般貨物自動車運送事業」(貨物自動車運送事業法2条2項)とは、平たく言えば、他人の貨物を有償で自動車(トラック等)を用いて運送することを事業内容とするものです。例えば、日本郵便やヤマト運輸(クロネコヤマト)などがこれらの事業を営んでいます。かかる事業を営む場合、国土交通大臣の許可を受ける必要があります(貨物自動車運送事業法3条)。仮に、営む事業が「一般貨物自動車運送事業」に該当する場合は、上記許可の取得が必要になるほか、当該許可の申請基準として、自らが使用権原のある営業所や、5台以上の事業用自動車を保有しておく必要があるなど(※1)、非常にハードルが高く、配達員自身がこれらを満たすのはあまりに非現実的です。
なお、配達員が使用する車両がどのようなものかによって許認可の要否や種類が変わってきます。使用する車両が「三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車」(貨物自動車運送事業法2条2項)、つまり軽自動車やバイクであれば、一般貨物自動車運送事業には該当せず、代わりに、「貨物軽自動車運送事業」(貨物自動車運送事業法2条4項、同法36条1項)への該当性を検討することになります。この「貨物軽自動車運送事業」については、「一般貨物自動車運送事業」とは異なり、許可ではなく、届出となっているなど、「一般貨物自動車運送事業」よりも緩やかな規制となっています。
さらに、自転車や排気量が125cc以下の原動機付自転車であれば「自動車」(貨物自動車運送事業法2条5項、同法2条3項及び4項)に該当せず、貨物自動車運送事業法の規制を受けないことになります(※2)。
街中でウーバーイーツの配達員が自転車に乗って配送している光景を多く見るのも、このような許認可の仕組みが影響しているものと考えられます。
●違反した場合の罰則
貨物自動車運送事業の無許可営業については、一般貨物自動車運送事業については3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれの併科(貨物自動車運送事業法70条1号)、貨物軽自動車運送事業については100万円以下の罰金という刑事罰が定められているため(貨物自動車運送事業法76条9号)、自身の事業がこれらの許認可を必要とするのか事前に検討する必要があります。
なお、後述するとおり、場合によっては、配達員の上記違反行為について、プラットフォーマーが共犯としての責任を負う余地もあり、留意が必要となります。
(2)フードデリバリーサービスを営むプラットフォーマーはどのような運送関連規制の適用を受けますか?
●貨物利用運送事業法の規制対象
フードデリバリーサービスを営むプラットフォーマーは貨物利用運送事業法による規制を受ける可能性があります。
貨物利用運送事業とは、平たく言えば、他人の貨物を有償で、(自らが実運送事業者としてではなく)クロネコヤマトのような実運送事業者を利用して運送することを事業としており、自らが荷主に対して運送責任を負う場合を指します(貨物利用運送事業法2条6項~8項等)。
デジタルプラットフォーム型フードデリバリーの場合、自らが実運送事業者となることは基本的に想定されないと考えられ、通常は実運送事業者を利用することになると思われるところ、その場合には、「貨物利用運送事業」(貨物利用運送事業法2条6項)への該当性を検討する必要があります。
貨物利用運送事業に該当するとして、第一種貨物利用運送事業を営む場合には、国土交通大臣の行う登録を受ける必要があり(貨物利用運送事業法3条1項)、第二種貨物利用運送事業を営む場合には、国土交通大臣の許可を受ける必要があります(貨物運送利用事業法20条)。細かい異同は割愛させていただきますが、例えば、貨物を自動車だけで輸送するのであれば第一種貨物利用運送事業、自動車に加え、航空や鉄道等をも輸送に使用するということであれば第二種貨物運送事業となります。
また、貨物自動車運送事業法と同様、利用する車両がどのようなものかにより、適用法令が変わり得ることになります。貨物利用運送事業は「実運送事業者」の利用が要件となっており、軽自動車や自転車等で運送を行う事業を経営する者はそもそも「実運送事業者」には該当しないため、かかる運送機関を利用する運送事業は「貨物利用運送事業」に該当しないことになります(貨物利用運送事業法2条1項、貨物自動車運送事業法2条2項等)。
●違反した場合の罰則
貨物利用運送事業の無許可営業については、第一種貨物利用運送事業については1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれの併科(貨物利用運送事業法62条1号)、第二種貨物利用運送事業については3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれの併科(貨物利用運送事業法60条1号)という刑事罰が定められています。
(3)オンライン・ショッピングモールを運営して商品を発送するプラットフォーマーにも運送関連規制が適用されますか?
オンライン・ショッピングモールにおけるプラットフォーマーに運送関連規制が適用されるか否かは、その行っている事業が貨物利用運送事業(許認可必要)と貨物取次事業(許認可不要)のいずれに該当するかによります。
例えば、オンライン・ショッピングモールにおけるプラットフォーマーが、消費者が出店者から購入した商品について運送契約を実運送事業者と締結する場合、当該運送契約締結に係る手数料を当該プラットフォーマーが収受する契約内容であれば、当該プラットフォーマーとしては、実運送事業者を利用して有償で他人(消費者)の貨物を運送することを事業としているため、「貨物利用運送事業」に該当するのではないかという疑問が生じます。
この点、国土交通省のウェブサイト(※3)に、許認可が必要な貨物利用運送事業と不要な貨物取次事業の違いについて、記載されております。
Q2.貨物利用運送事業と貨物取次事業は何が異なるのか。 A2.貨物利用運送事業は荷主と運送契約を締結し、荷主に対し運送責任を負う事業ですが、運送取次事業は、荷主に対して運送責任を負うものではなく、他人(荷主)の需要に応じ、有償で、自己の名をもってする運送事業者の行う貨物の運送の取次ぎ若しくは運送貨物の運送事業者からの受取(運送の取次ぎ)又は他人(荷主)の名をもってする運送事業者への貨物の運送の委託若しくは運送貨物の運送事業者からの受取り(運送の代弁)を行う事業です。 なお、貨物取次事業は、平成15年より規制が廃止されています。 〔…略…〕 (TMI注:太字下線はTMIによります。以下、同様です。) |
上記のとおり、「荷主に対して運送責任を負う」か否かで許認可の要否が変わってきます。
例えば、コンビニエンスストアでも荷物の配送を取り扱っている場合がありますが、確かに消費者から受け取った荷物を実運送事業者(佐川急便やクロネコヤマトなど)に渡し、配送料を受け取っているので、貨物利用運送事業を営んでいるかのように見えますが、送付状も実運送事業者発行のものを消費者に記入させ、そして運送責任は当該実運送事業者が負い、コンビニエンスストアは負わない内容になっているものと考えられ、この場合は上記のとおり許認可が不要な貨物取次事業として整理されることとなります。
プラットフォーマーとしては、オンライン上で取引された他社の商品等について、消費者の下に(実運送事業者を介して)配達することまでをサービスの一環とする場合、当該サービスについて貨物利用運送事業に該当しないよう、消費者との関係では、運送責任を自らが負わない内容の契約内容(利用規約)とするなどの方法を検討する必要があります。
例えば、貨物取次に係るサービスを提供している事業者の利用規約(「スタロジ」利用規約)(※4)の一例を見ますと、以下のとおり、運送契約の当事者はあくまでも消費者と運送事業者であって、プラットフォーマー自身が当事者となるわけではない旨を明確にしています。
第4条(当社の役割) 1 本サービスにおける当社の役割は、お客様に対して貨物取次事業を行うことであり、お客様との運送契約の当事者は、運送事業者であって当社ではありません。 |
(4)実際に配達員やプラットフォーマーが運送規制違反で摘発された事例はありますか?
プラットフォーマーが運送規制違反で摘発された事例は現時点で把握はしていないものの、配送員が貨物自動車運送事業法違反(無届け経営)により書類送検(摘発)されたという事例はございます。報道(※5)によれば、ウーバーイーツの配達員2名が国への届出や許可を受けずにバイクや車で料理を有償で配達したとして、貨物自動車運送事業法違反(無届け経営)の疑いにより2021年8月2日付けで地検に書類送検されたとのことです。
当該報道によれば、排気量125cc超のバイクや普通乗用車を使って、有償で、料理を他人(消費者)のために運んだとのことであり、①「一般貨物自動車運送事業」、すなわち「他人の需要に応じ、有償で、自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く。〔…略…〕)を使用して貨物を運送する事業」(貨物自動車運送事業法2条2項)又は、②「貨物軽自動車運送事業」、すなわち「他人の需要に応じ、有償で、自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車に限る。)を使用して貨物を運送する事業」(貨物自動車運送事業法2条4項)を無許可で営んでしまったものと考えられます。
この報道によれば、実際に無許可営業を行った期間については「今年1~2月に複数回」と、期間で見れば比較的短期間での行為であったにもかかわらず摘発されている点において、決して軽く考えられないと思われます。配達員は当然として、配達員の関与を前提とするデジタルプラットフォーム型フードデリバリーサービスを提供するプラットフォーマーにおいても、事案によっては共犯として刑事責任を問われかねず、(5)で説明するような手当てを施すなどして、違反が起きないように予防する必要があります。
国土交通省からも、以下のような「飲食物等のデリバリーに係る貨物自動車運送事業法の遵守について」と題する通知(※6)が出されています。
……飲食物のデリバリーに際して、配達員が貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第36条第1項に基づく事前の届出をせずに二輪の自動車を使用したため、当該配達員が同項違反により検挙されるという事案がございました。 ……つきましては、飲食物等のデリバリーサービスのプラットフォームを提供する事業者の皆様におかれましては、上記の事例を踏まえ、デリバリーに際して同法(TMI注:貨物自動車運送事業法)に基づく必要な許可の取得又は事前の届け出をせずに自動車を使用することが決してないよう、サービスを利用する配達員に対してあらゆる機会を捉えて強く働き掛けていただきますよう、貴団体傘下会員への周知をお願い申し上げます。…… |
なお、配送員が事故を起こした場合にプラットフォーマーが当該事故に係る責任を負うかなどの責任の所在論についてはまた別の記事(デジタルプラットフォームと労働関連法)で取り上げたいと思います。
(5)プラットフォーマーとしてはどのような点に留意すべきでしょうか?
以上見てきたとおり、配送(デリバリー)をサービスの一内容とする場合、契約内容によっては、プラットフォーマー自身が運送関連許認可を取得する必要が出てきたり、配送員の行為によりプラットフォーマーも当該行為の責任を負ったりする可能性があります。
上記リスクを可能な限り減少させるためにも、例えば、以下のような方策を講じることが考えられます。
|
上記のとおり、プラットフォーマーとしては、適切に利用規約を整備し、実態も当該規約に合わせる必要があるため、詳しくは法律の専門家にご相談下さい。
さいごに
このブログでは、プラットフォーマー(及び配達員)に適用され得る運送関連規制について説明いたしました。プラットフォーマーと配送員との法律関係及び配達員の行為に係るプラットフォーマーの責任については、別途、デジタルプラットフォームと労働関連法の回で取り上げたいと思います。
次回は、プラットフォーム上になされるレビューコメントなどの書き込みに関連する法的問題として誹謗中傷コメントなどに関する問題、誹謗中傷コメントが発生した場合のプラットフォーマーの責任等を取り扱いたいと思います。
(※1)「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可申請の処理方針について」
https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/kamotu/kamotu_jigyoukaisi/date/syorihousin_191101.pdf
(※2)貨物自動車運送事業法の「自動車」の定義は道路運送車両法で定めるものと同義であり(貨物自動車運送事業法2条5項、道路運送車両法2条2項)、道路運送車両法上の「自動車」から除外される「原動機付自転車」の定義には、総排気量が125cc以下であるとされています(道路運送車両法2条3項、同法施行規則1条1項1号)。
(※3)国土交通省ウェブサイト(Q2.貨物利用運送事業と貨物取次事業は何が異なるのか。)
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_fr3_000002.html
(※4)「スタロジ」利用規約 https://stalogi.com/terms.html
(※5)読売新聞オンライン「許可なくバイク・車で料理配達、ウーバー配達員2人書類送検『法に触れるとは知らなかった』」(2021年8月3日)
(※6)国土交通省等「飲食物等のデリバリーに係る貨物自動車運送事業法の遵守について」と題する通知(ただし、リンク先の発信主体は「徳島県労働基準協会連合会」である。)
http://www.t-roukiren.or.jp/wp-content/themes/lsaumt/pdf/delivery.pdf
(※7)ウーバーイーツウェブサイト https://www.uber.com/jp/ja/deliver/getting-started/