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【英国法ブログ:英国契約法】取引約款に埋もれた顧客に不利益な条項が契約内容には含まれないと判断された事例
2022.03.02
本ブログでは、英国契約法に関連する近時の事案を御紹介して、英国法を準拠法とする契約書のドラフティングやレビュウの御参考にしていただくことを目的としています。今回は、2021年9月30日、英国高等法院でのBlu-Sky Solutions Ltd v Be Caring Ltd [2021] EWHC 2619 (Comm)を御紹介します。
企業によっては、契約書や発注書等の中で自社の取引約款を参照することにより、取引約款に記載されている事項を契約内容に取り込もうとしていることもあるかと思います。英国高等法院は、近時、このような場合について、参考となる判断を下しています。
本件は、B2Bとの間の契約で参照されたサプライヤーの取引約款が契約内容に含まれ、当該取引約款に規定されている顧客に不利な早期解約料に関する条項が適用されるかが問題とされました。本件で顧客は、次の文言が含まれる発注書に電子署名システムで署名していました。
「本文書に署名することにより、私は、サプライヤーのウェブサイトにログオンして、契約、保護スキーム及び無料トライアル(該当する場合)に関する全ての取引約款を読み、その内容を完全に理解し、それらに拘束されることに同意します。」
本件で顧客は、署名前、実際にはサプライヤーの取引約款にアクセスせず、読んでもいませんでした。もっとも、顧客は事実上、サプライヤーのウェブサイトの一番下まで移動してリンクをクリックすれば、サプライヤーの取引約款にアクセスすることができたため、当該取引約款が契約内容に含まれないとの顧客の主張を裁判所は認めませんでした。
顧客は、さらにサプライヤーの取引約款のうち早期解約料の支払いに関する条項について、顧客側の負担が大きく、サプライヤーが顧客に対して十分な注意をしていなかったため、適用されるべきではないと主張しました。この点について、裁判所は、取引約款の当該条項は、顧客側の負担が大きく、サプライヤーとしては、顧客に注意喚起をするために特別な措置を講じるべきであったと判断しました。本件で裁判官は、当該取引約款が「法律家ではない読者はもちろんのこと、どんな読者であっても決して使いやすいものではない」と批判して上、特に本件で問題となった早期解約料に関する条項が「密林の中に巧妙に隠されているようであり、よほど熱心でなければ、それを発見して逃れることを期待できない」と述べています。その結果、当該取引約款は契約内容に含まれるものの、早期解約料に関する条項は、適用されないと判断しました。
本判決から契約書や発注書等で取引約款を参照する場合、取引約款に記載されている全ての内容が確実に適用されるようにするためには、顧客にとって特に不利な条項について、「顧客は取引約款●条に注意されたい」というような目立つ記載をして、顧客に注意喚起をしておくことが望ましいと考えます。