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【英国法ブログ:英国契約法】Force Majeure(不可抗力)条項の合理的努力義務について判断された事例
2022.03.28
本ブログでは、英国契約法に関連する近時の事案を御紹介して、英国法を準拠法とする契約書のドラフティングやレビュウの御参考にしていただくことを目的としています。今回は、2022年3月3日、英国高等法院でのMUR Shipping BV v RTI Ltd [2022] EWHC 467 (Comm)を御紹介します。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響で契約書のForce Majeure(不可抗力)条項やFrustrationの法理の適用が注目されています。本件は、2018年に実施された米国による経済制裁に関連して、用船契約で定められていた不可抗力条項の適用が問題となった事案です。当該不可抗力条項では、不可抗力事由に該当するためには戦争や経済制裁など当事者の支配が及ばない事由により契約上の義務の履行が不能または遅滞することのほかに、当事者の合理的努力義務により当該事由を避けることができないことが要件とされていました。
本件で用船者の親会社が米国の制裁措置の対象とされたため、船主は、用船者が契約上要求される米ドル建てでの支払いができなくなることを理由に不可抗力条項を行使しました。これに対して、用船者は、ユーロ建ての支払いを申し出たものの、船主がこれを拒否したため、船主が不可抗力事由を避けるための合理的努力義務を怠ったとして、不可抗力条項に依拠することはできないと主張しました。
仲裁手続での裁定では用船者の主張が認められましたが、船主はこれを不服として英国高等法院に上訴しました。英国高等法院は、不可抗力事由を避けるため当事者が合理的努力義務を果たしたかを判断するにあたり、契約上の義務の内容は一要素に過ぎないとの用船者の主張を退け、先例に基づき、不可抗力事由を避けるための合理的努力義務は、当事者が契約で合意していない履行方法で受領することまで求められるものではないと判断しました。本件用船契約書では、米ドル建てのみの支払いが規定されており、それ以外の通貨での支払いについては特に定められていませんでした。そのため、船主が用船者からのユーロ建てでの支払いを拒否したとしても不可抗力事由を避けるための合理的努力義務を怠ったとは言えず、船主の上訴を認める判決を下しています。
Force Majeure(不可抗力)条項に関して、本件で問題となった不可抗力事由に該当するための要件のほかにも、不可抗力事由と履行不能または遅滞との因果関係、相手方への通知方法等が問題となることがあります。いざ、Force Majeure条項を利用する必要があるときには、このような点も事前に検討しておく必要があります。