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【中国】【不正競争防止法】最高人民法院による「中華人民共和国反不正競争法」の適用における若干問題に関する解釈
2022.03.31
最高人民法院による「中華人民共和国反不正競争法」の適用における若干問題に関する解釈(*1)
(最高人民法院 2022年3月16日公布、2022年3月20日施行)
(TMI 総合法律事務所中国最新法令情報‐2022 年 3 月号‐)
https://www.tmi.gr.jp/uploads/2022/04/11/TMI_China_News_March_2022.pdf
はじめに
中国共産党第18回全国代表大会以降、中国においては、知的財産権の保護をより徹底すべく、2019年に反不正競争法(以下「不競法」という。)(*2)を改正し、最高人民法院は、2020年12月29日に特許権、商標権、著作権等の紛争案件に関する18の知的財産権関係の司法解釈を改正した(*3)。また、経済の成長、市場主体の増加、EC市場の発展等により、市場における競争関係に急激な変化が生じ、企業間で新しい競争問題や法的紛争が現れたため、かかる紛争に関する事実、責任の認定、法令の適用等について法律の運用に対する新たな課題が露見してきた。
このような背景の下、2022年3月16日に最高人民法院は「中華人民共和国不競法」の適用における若干問題に関する解釈(以下「本解釈」という。)を公布した。本解釈は、不競法が改正されて以降の司法実践に鑑み、最高人民法院による不正競争の民事案件の審理における法律適用の若干問題についての解釈(*4)(以下「旧解釈」という。)により判断、解決できない法的問題、社会問題について新たに解釈を示すものである。
本解釈は、主に不競法第6条、第12条等に定められている混同行為、インターネットでの不正競争等の社会的に注目されている不正競争行為を細分化し、不正競争紛争に関する裁判基準を明確にしている。本解釈は2022年3月20日より施行され、各市場主体による健全な投資、事業運営のためにより公平、透明な競争環境を構築し、公平競争に関する政策と制度を完備することが期待される。
要点とコメント
本解釈は全29か条で構成され、その主な内容は以下のとおりである。
(1) 商業道徳違反の認定
不競法が施行されて以降、同法第2条は(*5)、人民法院が不競法に定められた以外の新たな類型の不正競争行為を認定するにあたって、また、競争行為が正当なものであるか否かの判断をするにあたって重要な法的基準となっており、事業者の経営活動が商業道徳に違反しているか否かという点は重要な判断要素となっている。
この点、本解釈においては、不競法にいう「商業道徳」について、日常の道徳基準だけではなく、特定の商業分野において普遍的に遵守、認可されている行動規範と定義付けている(*6)。
そして、人民法院が商業道徳に違反しているか否かを判断するにあたっては、案件の具体的な状況に鑑み、業界規則又は商習慣、経営者の主観的状況、取引先における選択意思、消費者の権利、市場の競争秩序、公共利益等への影響等の要素を総合的に勘案するものとして(*7)、具体的な判断要素が明確にされた。
(2) 一定の影響力を有する標章の認定要件
不競法第6条では、一定の影響力を有する商品名称等の標章、企業名称、個人の氏名、ウェブサイト名称等に対する混同行為を禁止している。本解釈では、旧解釈における「知名商品」及び「特有の名称、包装、装飾」に関する解釈(*8)を踏襲し、一定の影響力を有する標章について「一定の市場知名度を有し、かつ、商品の出所を区別する顕著な特徴がある標章」と定義している(*9)。
そのうえで、一定の市場知名度の有無に関する認定基準については、基本的に旧解釈第1条における「知名商品」に関する認定基準を踏襲しつつ、さらに中国国内の関連公衆が知る程度を強調している。すなわち、中国国内の関連公衆が知る程度、商品販売の時期、区域、販売額及び販売対象、宣伝の継続時間、程度及び地域範囲、標章として保護を受ける状況等の要素を総合的に考慮するものとした(*10)。
なお、一定の影響力を有する標章と同一又は類似するかを判断する場合は、商標と同一又は類似することに関する判断原則及び方法を参照することができるとされた(*11)。
(3) 不競法に保護されない標章
不競法第6条に定められている一定の影響力を有する標章は、商標と同様の機能を持つものであるため、商標法令上の原則及び規定を参照しながら当該標章の使用を規制する必要があるといえる。
この点、商標法(*12)では、商標として使用できない標章が列挙されているところ(*13)、本解釈は、商標法上商標として使用できない標章に該当する標章又はその顕著に識別される部分は不競法第6条に基づき保護されないことは明確にされている(*14)。したがって、このような保護されない標章を無断で使用したような場合には混同行為に該当せず、不正競争行為を構成しないと判断される可能性が高い。
(4) 不競法の保護を受ける主体の細分化
不競法第6条第2項では、一定の影響力を有する企業名称は不競法の保護対象となり、当該企業名称について混同行為を行ってはならないことが定められている。
上述のとおり、市場主体登記管理条例が施行され、一般の会社、個人独資企業、パートナーシップ企業、個人事業者、農民専業合作社等の各市場主体の名称を含む各登記事項について、市場主体登記管理部門により登記された場合、それらの名称は上記にいう「企業名称」に含まれることが明示された(*15)。これに加え、一定の影響力を有する個人事業者、農民専業合作社及びその他の市場主体の名称(略称、商号を含む。)も、一定の影響力を有する企業名称と認定されることも明記した(*16)。
個人事業者については、厳密に言えば企業に該当しないため、従前の裁判実務上は、一定の影響力を有する個人事業者の名称について不競法第6条に基づき混同行為を禁止することは可能か(すなわち、不競法第6条の適用可否)をめぐって見解が分かれていた。
しかし、個人事業者であっても、中国の市場経済の重要な一員であり、市場競争への参加度という点では、企業やその他の組織との間に本質的な違いはない。そのような考え方に基づき、市場主体登記管理条例においては、個人事業者、そして農民専業合作社も市場主体に含めることを明確にし、これと平仄を合わせるように、本解釈では個人事業者、農民専業合作社の名称についても、一定の影響力がある場合には不競法による保護対象となることが示されたものといえる。
(5) その他の混同行為に該当する事項
不競法第6条第4項では混同行為に関する包括条項が定められており、人々に他人の商品と誤認させ又は他人と特定の関係が存在すると誤認させるのに十分なその他の混同行為を禁止している。
本解釈第13条では、当該包括条項の意義をより具体化し、事業者が以下のいずれかを行った場合は、不競法第6条第4項に定められているその他の混同行為に該当するとされている。
- 不競法第6条第1項~第3項に規定されているもの以外の一定の影響力を有する標章を無断で使用すること
- 他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称における商号として使用し、公衆を誤認させること
特に上記の第2項が定めるような、他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称における商号として使用する行為は、明らかな商標使用行為であり、商標法の関連規定により直接的に規制されており、不競法の適用場面ではない。
しかし他方で、商標法は、他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称における商号として使用し、公衆を誤認させ、不正競争行為を構成した場合は、不競法に従い処理するとされているにとどまり(*17)、不競法におけるどの条文が適用されるかを明確にしていない。
この点について、これまでの裁判例では、不競法第2条の原則規定に基づき判断するケースも少なからず見られていた。しかし、他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業の商号として使用することについては、他人の商標に対する公衆の信用を利用する行為であり、他社の商標の良好な信用を借り、両会社間の関係性について公衆を混乱させることによって、企業のビジネスの認知度の向上又は取引機会の増加を図るというのがその本質である。その意味では、不競法上の不当な混同行為と捉えることがよりその本質に則したものといえる。
(6) 混同行為に協力する場合の処理
民法典において、他人を教唆し、又は幇助して、権利侵害行為を実施させた場合は、行為者とともに連帯責任を負わなければならないとされている(*18)。これを受けて、本解釈では、他人による混同行為の実施のため、故意に倉庫保管、輸送、郵送、印刷、隠匿、経営場所等の便宜を供与する行為を混同行為への協力行為として掲げており(*19)、これらを行った場合には、民法典の規定に基づき、混同行為の行為者とともに連帯責任を負うものと解される。
商標法では、登録商標専用権の侵害行為について明確な規定があり、他人の商標専用権を侵害する行為のために、故意に他人による商標専用権の侵害行為の実施を幇助した場合は、登録商標専用権の侵害に該当するとされている(*20)。そして、商標法実施条例(*21)では、他人の商標専用権を侵害するために倉庫保管、輸送、郵送、印刷、隠匿、経営場所、インターネット商品取引プラットフォーム等を提供することは、商標法第57条第6項に定める登録商標専用権侵害行為に便宜を与えることに該当すると定めている(*22)。
本解釈では、このような商標関連法令における商標侵害行為への協力行為の認定基準を参考にし、混同行為に協力する行為を規定したと考えられる。
(7) インターネットでの不正競争行為の判断基準
不競法が2017年に改正された際、事業者によるネットワーク妨害行為の禁止に関する規定が新たに設けられたが、旧解釈において同条の内容を解釈する規定は置かれていなかった。
しかし、近年中国においてデジタル経済が急成長し、インターネットにおける不正行為も著しく増加している現状に鑑み、これらの行為に係る解釈基準の明確化は必要なものとなっていた。この点、本解釈においては、不競法第12条第2項第1号(*23)及び2号(*24)に定めるネットワーク妨害行為の判断基準を以下のとおり明確にした。
ア 強制的な特定ページへの移動
まず、不競法第12条第2項第1号に定める「強制的に特定のページに移動させること」について、「他の事業者及び利用者の同意を得ていないこと」を判断基準としている(*25)。リンクを挿入し、強制的に特定のページに移動させる目的は、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを利用し、利用者を自社経営の製品に「ハイジャック」し、取引機会の増加を図るものであり、「トラフィックハイジャック」と呼ばれている。この場合は、他の事業者の権利を損なうとともに、ネットワーク製品又はサービスの提供者について利用者を誤認させることになることから、他の事業者及び利用者両方の同意を得ない限り、上記のような行為をすることができないこととされた。
事業者がリンクだけを挿入し、特定のページへの移動は利用者の判断により行われる場合に、上記の禁止行為に該当するかという点の判断については、リンクの挿入に関する具体的な方法、合理的な理由の有無及び利用者と他の事業者の権利への影響等の要素を総合的に判断するとされている(*26)。
イ ネットワーク製品、サービスに対する妨害
また、本解釈では、事業者が事前に明示せず、且つ、利用者の同意を得ずに、修正し、終了し、アンインストールするよう利用者を誤導、欺罔、強迫するなどの方法により、悪意を持って、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを妨害し、又は破壊する場合は、不競法第12条第2項第2号に該当するとされている(*27)。
すなわち、同号の適用においては、事業者が事前に明示せず、利用者の同意を得ていないという前提要件及び悪意を持って、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを妨害し、又は破壊するという目的の双方の有無を検討し、判断されることになる。
(8) 中国国外の不正競争行為に対する訴訟管轄の明確化
不競法では、事業者の合法的権利が不正競争行為により損害を受けた場合は、人民法院に訴訟を提起することができるとされているが(*28)、中国国外で行われる不正競争行為に対して訴訟を提起する場合の裁判管轄について、不競法及び旧解釈においては明確な規定が定められていない。中国国外の不正競争行為に関する訴訟を提起する場合は、民事訴訟法の関連規定に基づき人民法院の管轄権を判断する必要があるかと考えられる。
民事訴訟法(*29)では、権利侵害行為訴訟の管轄について、権利侵害行為地又は被告の住所地の人民法院が管轄するとされており(*30)、また、最高人民法院による民事訴訟法の適用に関する解釈(*31)では、民事訴訟法第29条に定める権利侵害行為地には、権利侵害行為実施地及び権利侵害結果発生地が含まれるとされている(*32)。
この背景には、本解釈では、上記の民事訴訟法の規定に基づき、訴えられた不正競争行為が中国国外に発生したものの、権利侵害の結果が中国国内に発生した場合に当該不正競争行為に対して提起された訴訟について権利侵害結果発生地の人民法院により管轄することが明確にされている(*33)。
(*1) 「最高人民法院关于适用〈中华人民共和国反不正当竞争法〉若干问题的解释」
(*2) 「反不正当竞争法」
(*3) 「最高人民法院关于修改《最高人民法院关于审理侵犯专利权纠纷案件应用法律若干问题的解释(二)》等十八件知识产权类司法解释的决定」
(*4) 「最高人民法院关于审理不正当竞争民事案件应用法律若干问题的解释」
(*5) 内容としては、事業者は生産経営活動の過程で、自由意思、平等、公正、誠実信用の原則に従い、法律及び商業道徳を遵守しなければならないというものである。
(*6) 本解釈第3条第1項
(*7) 本解釈第3条第2項
(*8) 旧解釈第1条、第2条
(*9) 本解釈第4条第1項
(*10) 本解釈第4条第2項
(*11) 本解釈第12条第1項
(*12) 「中华人民共和国商标法」
(*13) 商標法第10条第1項
(*14) 本解釈第7条
(*15) 本解釈第9条第1項
(*16) 本解釈第9条第2項
(*17) 商標法第58条
(*18) 民法典第1169条第1項
(*19) 本解釈第15条
(*20) 商標法第57条第6項
(*21) 「中华人民共和国商标法实施条例」
(*22) 商標法実施条例第75条
(*23) 他の事業者の同意を得ずに、当該事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスにおいて、リンクを挿入し、強制的に特定のページに移動させること。
(*24) 他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを修正し、終了し、アンインストールするよう利用者を誤導し、欺き、強迫すること。
(*25) 本解釈第21条第1項
(*26) 本解釈第21条第2項
(*27) 本解釈第22条
(*28) 不競法第17条第2項
(*29) 「中华人民共和国民事诉讼法」
(*30) 民事訴訟法第29 条
(*31) 「最高人民法院关于适用《中华人民共和国民事诉讼法》的解释」
(*32) 最高人民法院による民事訴訟法の適用に関する解釈第24条
(*33) 本解釈第27条