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【米国】【商標】2020年米国商標近代化法(The Trademark Modernization Act of 2020[TMA])
2022.04.28
はじめに
2021年12月18日に商標近代化法(Trademark Modernization Act [TMA])が施行され、米国商標法(Lanham Act.)が改正されました。TMAは、近年増加していた1.詐欺的出願(fraudulent trademark filing)や不使用の連邦登録商標の排除をより簡単に行うことができる手続きの導入を主な柱の1つとしているほか、2.情報提供制度の明文化や、3.オフィスアクション応答期間の短縮化による、健全でスピーディーかつ効率的な権利化を図るための改正となっています。
不使用商標排除のための新たな査定系の取消手続の導入
取引上使用されている商標を保護する、いわゆる使用主義に基づく米国では、一定時期に使用証拠を添付した使用宣誓書の提出が求められます。しかしながら、近年、虚偽の使用宣誓書に基づく登録の増加が大きな問題となっており、USPTOも使用証拠の追加提出要求や米国代理人による手続きの強制といった様々な対策を講じてきました。
従来も、商標審判部(TTAB)において、不使用を理由として当事者系の取消審判で争うことも可能でしたが、審判手続は訴訟に準じた手続となり一定の時間と費用を要します。
今回のTMAでの改正では、商標登録前に求められる使用事実の証明に疑義がある場合において、以下の2つの新たな査定系の登録の取消の手段が設けられ、これまであった当事者間の審判手続を経なくても、登録の取消が可能となりました。これにより、より迅速で効率的かつ低廉な費用で不使用商標を排除することができるようになります。
これらの2つの手続きは、誰でも(USPTOによる職権によっても)登録の一部または全部について請求が可能となっていますが、請求人は「対象の商標が使用されていないこと又は使用されていなかったこと」について事前に調査(reasonable investigation)を行い、その結果を陳述書(verified statement)として提出することが求められます。但し、事前の調査は、調査会社を用いての調査までは求められていません。また、一旦請求した後は、取り下げることはできません。
登録取消または再審査手続開始後、権利者には、3ヶ月間の反証の期間が与えられますが、請求者は、その後の手続きに関与することはありません。
新たな査定系取消手続と出願基礎の関係は以下のようになります。
a)抹消手続(査定系商標登録取消手続:Ex Parte Expungement proceeding)(ランハム法16条A)
商標権者が登録商標を指定商品・役務について商業的に使用したことが一度もない場合に、何人も取消を請求することができます。
請求可能な期間は登録日から3年経過後、10年経過前となります。ただし、TMA施行後3年以内の2023年12月27日までは、登録から10年を経過した登録についても請求可能です(three-year window)。
特に登録時に使用宣誓書をしない、日本企業の利用が多いマドプロ日本指定(§66)及び本国登録に基づく登録(§44)などがこの抹消手続の対象となると考えられますので、留意が必要です。
b)再審査手続(査定系再審査手続:Ex Parte Reexamination proceedings)(ランハム法16条B)
使用(§1(a))又は使用意思(§1(b))に基づく出願を対象とする規定で、その登録商標が、以下のそれぞれの時点で指定商品・役務について商業的に使用されていなかった場合には、登録日から5年以内に、何人も再審査手続を請求することができます。
特に審査の段階で提出された使用証拠に疑義がある出願について、この再審査の対象となると考えられます。
c)利用状況(2022年4月28日現在)
USPTOのデータベースによると、2022年4月28日現在、75件の請求(再審査手続:34件、抹消手続:41件)がなされています。
また、USPTO長官による請求についても、再審査手続・抹消手続についてそれぞれ1件ずつ請求(合計2件)がなされています。
取消審判の請求理由(不使用)の追加(ランハム法14条(6))
ランハム法14条は、商標登録の取消事由を規定していますが、ここに「登録後3年の不使用」を理由とする取消事由が追加されました。
15 U.S.C. § 1064(6)
(6) At any time after the three-year period following the date of registration, if the registered mark has never been used in commerce on or in connection with some or all of the goods or services recited in the registration
ランハム法45条において、再開しない意思を有する3年間不使用の商標については、「放棄(abandonment)と推定される」ところ、これまでも、かかる「放棄」を理由とする取消事由は存在していました。しかし、「再開の意図」を示すことにより、放棄の推定が覆る場合があり、その場合には取消されないことになっていましたが、今後は訴えの利益を有する場合(先行商標を引用されて取消したい出願人など)には、登録後3年の不使用を根拠に商標審判部(TTAB)に対して、登録の一部または全部について取消審判請求が可能となりました。
情報提供制度(Letter of Protest)の明文化
従来から運用として認められていた情報提供制度が、TMAにおいて明文化(1条に(f)が追加)されました。
情報提供は誰もが可能で、先行商標との混同を理由とする証拠や疑義のある使用証拠についても指摘が可能です。USPTOは情報提供がされた場合、60日以内にその内容を検討し審査官へ送付するかが決定されます。送付された場合には、審査官が必要に応じてOffice Actionを出すことになります。
審査期間の短縮化
オフィスアクションに対する応答期限が、従来の6カ月から3カ月に短縮(但し、延長費用の支払いによって3カ月の延長が可能)されることになります。これにより審査の更なる迅速化が期待されます。
なお、本改正は米国直接出願のみが対象となり、マドプロ出願の米国指定(§66(a))については対象外となり、従来通り6カ月の応答期間が確保されます。
また、システム改修が必要となるため施行は本年(2022年)12月1日の予定です。
まとめ
いわゆる使用主義を採用する米国では使用により権利が発生し、権利の維持にも使用していることが前提となります。
しかし、近年、虚偽の使用証拠に基づく権利維持が問題視されており、既に登録後5-6年に提出が義務づけられている8条宣誓書について使用証拠の登録後検査制度(Post-Registration Proof Use Audit Program)の運用が開始され、商標権者が不使用の商品・役務を含んだ使用宣誓書を提出していないかについての抜き打ち的なチェックがされるなどの施策が行われてきました。
今回のTMAによって、第三者の登録に対する取消手続が多様化したことにより、手続きや費用等の負担が軽減されることが期待される一方、その内容に応じた適切な手続を選択していくことの重要性が高まるものと思われます。また、権利者にとっても、従来に比べて不使用を理由とした取消手続を受ける可能性が高まったことを踏まえ、使用宣誓書へ記載する商品・役務の正確性や、使用証拠の保管方法などに、より一層の留意が必要です。日本企業においても無用な紛争に巻き込まれないように米国での使用証拠について定期的に確認、収集し、適切な権利維持が望まれます。
参考資料
・USPTO implements the Trademark Modernization Act
・116TH CONGRESS 2d Session, HOUSE OF REPRESENTATIVES, REPORT 116–645
・Changes To Implement Provisions of the Trademark Modernization Act of 2020
・Examination Guide 1-21
・“Insights into Trademark Modernization Act nonuse cancellation petitions,” Amy P. Cotton, Deputy Commissioner for Trademark Examination Policy, USPTO (March 29, 2022)
・Letter of protest practice tip
―以上―