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【中国】【意匠】「ハーグ協定加入後の関連業務処理に関する暫定弁法」を発表
2022.05.02
中国国家知識産権局(CNIPA)は、意匠の国際登録制度であるハーグ協定(以下「ハーグ協定」といいます。)への中国の加入が2022年5月5日に発効されることに先立ち、2022年4月22日付けで、「ハーグ協定加入後の関連業務処理に関する暫定弁法」(以下「暫定弁法」といいます。)を発表しました。あわせて、2022年4月25日に、暫定弁法に関わる解説を発表しました。暫定弁法は、中国のハーグ協定への加入と同時(2022年5月5日)に施行されます。
この解説によれば、暫定弁法は、専利法の実施細則及び審査指南の改正、ならびに審査プロセスや情報システム及び料金体系の整備が完了するまでの間、ハーグ協定の運用を円滑に進めるために暫定的に定められるものであるとしています。暫定弁法については、その仮訳を、本稿末尾に掲載しますが、以下では、この暫定弁法のなかで実務上問題となる点について、ピックアップして紹介します。
[暫定弁法における実務上問題となる点]
(1)優先権主張する場合の注意
優先権主張について、暫定弁法では3条で以下の点が言及されています。
①国際出願時に優先権書類を提出していない場合、国際公表の日から3か月以内に国家知識産権局にその謄本を提出する必要があること
②優先権主張をする場合には、国際公表の日から3か月以内に国家知識産権局に優先権主張料を納付しなければならないこと
①より、中国は、ハーグ国際出願の場合において優先権書類の提出を求めていることがわかります。中国は、優先権書類の官庁間での電子的交換サービスであるWIPO DASに参加しているため、国際出願時にはDASコードを願書に記載して提出に代えることが有効と考えられます。
また、②のとおり、優先権主張料の支払いを求めていることから、仮に出願時にDASサービスを利用して優先権書類の提出を行った場合であっても、国際公表後にCNIPAに対して優先権主張料を支払う必要があるようです。DASを利用する場合でもしない場合でも現地代理人を通じた優先権主張料の支払いが必要であるならば、手続の確実のために優先権書類の提出と合わせて現地代理人に委任する方策もとり得ます。なお、ハーグ制度のe-filingシステムでは、現状、指定国が日本及び韓国である場合には優先権書類をPDFフォーマットなどでアプリケーションフォームに添付して提出することが可能ですが、CNIPAが、従前、優先権書類のスキャンコピーでの提出を認めてきたことから考えますと、アプリケーションフォームへの電子データの添付による提出を認める可能性もあり、今後の具体的な運用の発表を確認する必要があります。
(2)分割出願に関する規定
暫定弁法では、4条において、国際公表の日から2か月以内に、出願人は分割出願をすることができる旨規定されています。そして、暫定弁法の解説においては、この4条について、次のとおり記載されています。
「第四条 本条は分割出願の処理規則を明確にしている。ハーグ協定と我が国専利法の意匠出願が単一性を満たすかの定義は異なり、かつ、我が国はハーグ協定加入時に声明を行ったので、国際意匠出願は我が国の専利法の単一性要件を満たさなければならない。本条は、我が国の専利法の単一性要件を満たさない出願について、出願人は、現行の専利法及びその実施細則、審査指南の規定に従って、その出願の国際公表の日から2か月以内に、国家知識産権局に対して分割出願ができることを明確にした。当該分割出願は通常の国内出願であり、非ハーグルートの意匠の国内分割出願の処理規則と一致する。」
この点、2020年11月の実施細則改正案の中に「新設ハーグ専用章の7 1件の国際意匠出願が2つ以上の意匠を含む場合、出願人はその出願の国際公表の日から2か月以内に、国務院専利行政部門に対して分割出願を行い、料金を納付することができる。」とされています。
ハーグ国際出願では、必ずしも類似しない意匠を複数包含して出願することがあると思われますが、このような場合、中国においては、国際公表から2か月の期間内に、たとえば、ハーグ国際出願に含まれる類似意匠を1出願にまとめ、類似しない意匠を個別の意匠の出願に分けて分割するなどの対応が可能になると思われます。
ただし、いずれにしろ初歩審査においては単一性要件を判断され、要件違反を指摘する審査通知が発行されることになると考えられますので、初歩審査を待たずに分割出願を行うかどうかは、今後の案件の蓄積が待たれます。
(3)権利の変更に関する規定
暫定弁法では、7条において、「国際意匠出願の出願人又は意匠権者が権利の変更を申請する場合、国際事務局に対して関連手続を行う他に、国家知識産権局にも証明書類を提出しなければならない。」とされています。ハーグ協定では、国際登録に関する名義人は国際事務局が国際登録簿に記録することとされており、その変更等の手続は国際事務局にするものとされていますが、暫定弁法は、国際事務局への手続に加えて、CNIPAへその証明書類(及び書誌事項の中国語訳文)を提出することを求めており、さらに「証明書類を提出しない、又は証明書類が不合格である場合、国家知識産権局は国際事務局に対し、当該権利の変更は中国では効果を生じない旨を通知する。」とされている点に留意が必要です。
以上、暫定弁法のうち、実務上問題となりそうな点をピックアップしてご紹介しました。暫定弁法は、最低限のルールについて定めたものであって、運用に関する具体的な取り決めまで定めたものではありません。そのため、いずれにしても、今後の実施細則や審査指南の発表、4次改正後の動向を含めて、審査の推移及び実例の蓄積を待たなければならない点は変わっていません。したがって、引き続きCNIPAからの情報のアップデートが欠かせません。アップデートがありましたら、またこのブログでご紹介したいと思います。
(以下仮訳)
ハーグ協定加入後の関連業務処理に関する暫定弁法(仮訳)
国家知識産権局
2022年4月22日
第1条 2022年5月5日より、中国の事業体又は個人は、専利法第19条第2項の規定に従い、「意匠の国際登録に関するハーグ協定」(1999年版、以下「ハーグ協定」とする)に基づき、意匠の国際登録出願を行うことができる。
出願人は、世界知的所有権機関国際事務局(以下、「国際事務局」とする)に対し、意匠の国際登録出願を直接提出することができ、また、国家知識産権局を通した転送により、英語を使用して行った意匠の国際登録出願を提出することができる。
国家知識産権局を通した転送により意匠の国際登録出願を行う場合、「ハーグ協定」及び国家知識産権局の規定に合致した紙形式又は電子形式にて、関連資料を提出しなければならない。
「ハーグ協定」に規定の関連費用は、出願人が直接、国際事務局に納付する。
第2条 中国を指定する意匠の国際登録出願(以下、「国際意匠出願」とする)は、国家知識産権局が専利法第19条第3項、改正後の専利法実施細則及び専利審査指南に従って処理する。
第3条 出願人が優先権を主張する場合であって、国際意匠出願時に優先権基礎出願の書類の謄本を提出していない場合、出願の国際公表の日から3か月以内に国家知識産権局に優先権基礎出願の書類の謄本を提出しなければならない。
優先権基礎出願の書類の謄本に記載された出願人が、後の出願の出願人と一致しない場合、出願人は出願の国際公表の日から3か月以内に国家知識産権局に関連の証明書類を提出しなければならない。
出願人が優先権を主張する場合、出願の国際公表の日から3か月以内に国家知識産権局に優先権主張料を納付しなければならない。国際公表日が改正後の専利法実施細則の施行日より前(当日を含む)である場合、改正後の専利法実施細則の施行日から3か月以内に優先権主張料を納付しなければならない。
出願人が、期限内に優先権基礎出願の書類の謄本を提出しない、又は関連の証明書類を提出しない場合、或いは、優先権主張料を納付しない、又は優先権主張料が不足している場合、優先権主張をしていないものとみなす。
第4条 国際意匠出願の出願人は、出願の国際公表の日から2か月以内に、国家知識産権局に分割出願をすることができ、国家知識産権局は、専利法及びその実施細則、専利審査指南の関連規定に従って処理する。
第5条 出願人は、国際意匠出願に係る意匠が、専利法第24条第2項又は第3項に列記された事情を有すると認識する場合、国際意匠出願時にその旨を声明し、且つ、出願の国際公表の日から2か月以内に国家知識産権局に関連の証明書類を提出し、説明しなければならない。声明を行わない、又は証明書類を提出しない場合、その出願には専利法第24条の規定を適用しない。
第6条 出願人は、国際意匠出願の関連費用を納付する場合、国際事務局及び国家知識産権局の規定に従った金額を満額納付しなければならない。国際意匠出願の個別指定手数料の納付基準及び減額規則については別途公告する。
第7条 国際意匠出願の出願人又は意匠権者が権利の変更を申請する場合、国際事務局に対して関連手続きを行う他に、国家知識産権局にも証明書類を提出しなければならない。証明書類が外国語である場合、中国語の書誌事項の訳文を付さなければならない。証明書類を提出しない、又は証明書類が不合格である場合、国家知識産権局は国際事務局に対し、当該権利の変更は中国では効果を生じない旨を通知する。
第8条 国際意匠出願の出願人は、本弁法に規定された以外のその他の法律手続及び事務を行う場合、「ハーグ協定」、専利法及びその実施細則、専利審査指南の規定に従って申請すべきである。
第9条 本弁法は2022年5月5日から施行される。