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【労働法ブログ】解雇無効時の金銭救済制度について
2022.05.02
はじめに
4月12日、厚生労働省から「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が公表されました(会の名前が長いです)。労働法の分野において、解雇や雇止めの効力を争う事案は後を絶ちません。最終的には訴訟で争われるわけですが、常々、働く人や会社にとって、もっとよい仕組みにできないものかと感じています。今回の報告書にも指摘がありましたが、裁判で解雇無効との判断が出たにもかかわらず、職場に復帰せずに終わったケースが4割程度あるのが実態のようです。
解雇事案の一例のご紹介
最近の高裁判例のうちで、紛争が長期化した事例(令和3年7月14日付の東京高裁判決)をご紹介したいと思います。時系列は以下のとおりです。
2010年11月 | 原告入社 |
2013年1月 | 能力不足で普通解雇(前回解雇) |
2015年3月 | 東京地裁で解雇無効の判決(前回訴訟) |
2015年12月 | 東京高裁で和解(復職) |
2016年1月 | 本人復職 |
2017年12月 | 本人問題行為(ストーカー行為規制法違反による警告事案) |
2018年5月 | 問題行為を理由に諭旨免職(退職届提出拒否。懲戒解雇されず勤務継続) |
2018年7月 | 人事異動としての降格及び給与減額等 |
2018年7月 | 訴訟提起(降格の無効確認等を求める訴訟)(今回訴訟) |
2019年2月 | 問題行為、問題発言等を理由に普通解雇 |
2019年3月 | 訴え変更(地位確認(普通解雇無効)等の請求追加) |
2020年7月 | 第一審判決(解雇無効) |
2021年7月 | 控訴審判決(解雇有効) |
前回訴訟はさておき、今回訴訟だけでも、2018年5月の諭旨免職から企業側が逆転勝訴する2021年7月の控訴審判決まで3年が経過しています。今回の訴訟は本人訴訟(原告には代理人弁護士がついていない)でありその分時間がかかった可能性もありますが、解雇事案の場合、訴訟提起から控訴審判決までに2年かかるというのはよくあります。
「解雇無効時の金銭救済制度」
厚労省の検討会の報告書では、「無効な解雇がなされた場合に、労働者の請求によって使用者が一定の金銭を支払って労働契約が終了する仕組み」が念頭におかれているようです。この金銭はひとまず「労働契約解消金」と呼ばれています。上記の東京高裁の事例に大まかに当てはめると、“争いの対象となる解雇がなされたあと、労働者が訴えの提起又は労働審判の申立てを行い、裁判所で算定された労働契約解消金を企業が支払うと労働契約終了効が発生する”、という考えのようです。3年もかからず解決されることが期待されます。
ただ、この制度には細かな論点がたくさんありますが、とりわけ、金額算定の仕組みの議論は難航するかもしれません。諸外国における金額算定の仕組みの違いは興味深く、イギリスやドイツでは、算定式や考慮要素は決まっているものの、最終的には裁判官の裁量により金額が決定されるようです。フランスでは、法律上の上限と下限が決まっていて、企業規模が勘案されるようです。
制度が産声を上げるか……
今回の報告書によると、「2003年検討時の案では……」との記載がありますので、少なくともその時点から19年経過しています。また、今回の報告書の目的も「制度に係る法技術的な論点に関する専門的な検討を行う」ことにあるに過ぎません。制度の導入には社会的なコンセンサスも不可欠でしょうから、さらに同じくらいの歳月が必要となるかもしれません。2003年に誕生し、今年の4月1日の改正民法で成人になった19歳の若者たちが、40歳くらいになったときに、この制度が使えるようになっているかどうか、議論を見守っていきたいと思います。
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