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【景表法ブログ】おとり広告
2022.06.22
はじめに
2022年6月9日、消費者庁は、株式会社あきんどスシローに対し、同社の料理に係る表示について景品表示法上のおとり広告に該当する行為が認められたとして、措置命令を行いました。公表資料によれば、同社は、自社ウェブサイトにおいて、「新物!濃厚うに包み100円(税込110円)」、「9月8日(水)~9月20日(月・祝)まで!売切御免!」など、あたかも同実施期間において当該料理を提供するかのように表示していたにもかかわらず、同実施期間中に材料の在庫が足りなくなる可能性があると判断して、「スシロー」の一部店舗において、一部期間、当該料理を提供しなかった行為などが問題視されたようです。
2022年6月9日付消費者庁「株式会社あきんどスシローに対する景品表示法に基づく措置命令について」
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms208_220609_01.pdf
今回のケースは、違反行為者が著名な企業であることもあり、テレビ・ネットなどで広く報道され、特に社会的注目を集めましたが、おとり広告は過去に何度も措置命令が発出されています。おとり広告関連の苦情は、消費者からの広告・表示に関する苦情のうち相応の割合を占めるといわれており、当局に申告されるリスクも高く、一般消費者向けビジネスを行う企業においては、特に注意が必要な類型の一つです。
そこで、今回はおとり広告の概要と留意点についてご紹介いたします。
おとり広告とは
おとり広告とは、一言でいえば、実際には事業者が表示された商品又は役務を提供できない(提供しない)にもかかわらず、一般消費者がこれを購入できると誤認するおそれのある広告表示を意味します。
景品表示法には、同法自体に要件を定めている不当表示規制(優良誤認表示、有利誤認表示)に加え、内閣総理大臣が指定する不当表示規制があり(景品表示法第5条第3号)、おとり広告は、この指定告示の一類型になります(平成5年公取委告示第17号)。なお、おとり広告をはじめとする指定告示については、優良誤認表示や有利誤認表示と異なり、課徴金納付命令は発令されません。
おとり広告に関する指定告示では、おとり広告の4つの類型が規定されており、本件は、そのうち1号又は4号に違反するとされています。そして、おとり広告に関する運用基準(「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」(平成5年公取委通達第6号)、以下「運用基準」といいます。)においては、おとり広告の4つの類型について解説がなされています。
以下では、おとり広告の4つの類型について順に見ていきます。
告示第1号
告示第1号の規制対象は以下の表示です。
取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示 |
「取引を行うための準備がなされていない場合」の具体例としては、①店舗において通常は店頭展示販売されている商品について、広告商品が店頭に陳列されていない場合や、②引渡しに期間を要する商品について、広告商品については当該店舗における通常の引渡期間よりも長期を要する場合などが挙げられています(運用基準第2・1-(1))。「取引に応じることができない」は、中古自動車情報誌上で、ある中古車を販売するかのように表示していたが、実際には発売日よりも前に当該中古車の売買契約が成立していた事例などが該当し(平成26年3月20日株式会社くるまや・LeOに対する措置命令)、主として美術品や中古車等の特定物がその対象として想定されています。
告示第2号
告示第2号の規制対象は以下の表示です。
取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 |
「商品又は役務の供給量が著しく限定されている」とは、広告商品の販売数量が予想購買数量の半数にも満たない場合を指し、予想購買数量とは、当該店舗において、従来、同様の広告、ビラ等により同一又は類似の商品又は役務について行われた取引の申出に係る購買数量、当該広告商品の内容、取引条件等を勘案して算定するものとされています(運用基準第2・2-(1))。特定の業界においては公正競争規約等により、そもそも供給量が予想購買数量に対して極端に限定されている場合には広告を行うこと自体が禁止されています。また、「その限定の内容が明瞭に記載されていない場合」とは、広告商品等の実際の販売数量が商品名を特定するとともに明瞭に記載されていないことを意味し、販売数量が限定されている旨のみが記載されていることでは、「明瞭に記載されている」とはいえないとされています(運用基準第2・2-(2))。
告示第3号
告示第3号の規制対象は以下の表示です。
取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 |
「その限定の内容が明瞭に記載されていない場合」の解釈は告示第2号の場合と同様です。
告示第4号
告示第4号の規制対象は以下の表示です。
取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示 |
このうち、「合理的理由」がある場合とは、例えば、未成年者に対して酒類を販売しない場合などが例示されています(運用基準第2・4-(2))。この場合は、一般消費者は事業者が取引に応じないことが当然と認識でき、購入可能性の誤認を生じさせないため、おとり広告には該当しません。また、「取引の成立を妨げる行為」の具体例としては、広告商品に関する難点を殊更に指摘する場合や、広告商品の取引を事実上拒否する場合などが挙げられています(運用基準第2・4-(1)②、③)。過去においては、広告を見てA商品を注文した顧客に対して、販売員が同商品を配達する際に、収益の上がる別のB商品を持参し、同商品の性能等をA商品と比較して説明するなどしてA商品の購入意欲を削ぎ、B商品を購入することを長時間かけて強く説得していた行為が違反とされたケースがあります(平成7年7月17日九州ミシンセンターこと池永憲治に対する措置命令)。
おわりに
おとり広告は、意図的に行われる場合に限られません。例えば、仕入・購買部門と販売・広告部門が分かれており、両部門間での連携がとれていないことにより、広告した販売商品の仕入れが十分に確保されていないことや仕入れ数量が限られていることが販売部門に伝わっていなかった場合には、意図せず、結果的におとり広告に当たる事態が生じ得ます。そのため、おとり広告を防ぐためには、キャンペーン等での広告表示に関し、仕入・購買部門と販売・広告部門の間で連携をとれる体制を確保すること(そしてその確認を行うこと)が重要です。
また、十分な数量を仕入れることができないといった事情が判明した場合には、早期に広告表現やキャンペーン方法の見直しも検討する必要があります。
加えて、前述のとおり、おとり広告は課徴金納付命令の対象とはなりませんが、措置命令が発令されることにより企業の社会的評価を低下させるという一般消費者を取引相手とする企業にとっては甚大な損害が発生し得ます。そのため、平時より、キャンペーンや広告表示の内容について、景品表示法に詳しい弁護士も交えて法的検討をしておくことが肝要です。