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【労働法ブログ】問題社員に対する業務指導とパワーハラスメント
2022.10.05
はじめに
パワーハラスメントの問題は、企業から相談を受ける労務相談の中でも、多い相談類型の一つです。
パワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、上記①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます(労働施策総合推進法30条の2第1項参照)。
上司が「バカ」「死ね」等と部下に怒鳴りつける事例は論外ですが、昨今、実際に相談を受ける事例は、素行不良の問題社員に対してやや行き過ぎた(かもしれない)業務指導の事例、一つ一つのエピソードは些細なものであるが、継続性があり、全体としてみてパワーハラスメントに該当するか否かの判断が悩ましい事例、部下らによる上司に対する反抗がエスカレートした、いわゆる逆パワーハラスメントの事例、パワーハラスメントには到底該当しないにもかかわらず、パワーハラスメントである旨、コンプライアンス違反である旨を強行に主張する為に、上司や関係者が疲弊してしまう事例など、問題は多様で複雑です。
そのような中、2019年の労働施策総合推進法の改正により、2020年6月から事業主が職場におけるパワーハラスメントを防止する措置を講じることが義務化され、今年4月からは中小企業も対象となっています。
パワーハラスメント問題の重大性
1 不正、不祥事案件の調査報告書でも、しばしばパワーハラスメントの問題は登場する
パワーハラスメントが横行する職場においては、使用者側の問題意識が足りていないように感じられます。パワーハラスメントは、それ自体重大な問題である上、労務の問題に留まらない点も認識すべきです。失敗やミスを相談できる環境ではなくなり、ミスを隠したまま異動、退職に至るケース等、不祥事が明るみにならなくなったり、対応が遅れたりすることがあります。不正の隠蔽体質は、パワーハラスメントが多い職場にみられる現象であり、パワーハラスメントと不祥事案件は決して無縁ではありません。パワーハラスメントの防止は、あかるい職場づくり、生産性の向上、労働者の心理的安全性の確保のみならず、隠蔽体質にならない職場環境づくりのためにも重要です。
2 レピュテーションリスクの深刻化
近時、被害者が、提訴時に記者会見をするケースは増えています。また、求人・転職の口コミ掲示板、インターン・エクスターン生による口コミ等により広がるケースもあります。さらに、事件が社名入りで報道され、また、ハラスメント事例を収集しているホームページ等に掲載されることによる影響もあります。
深刻化・多様化する問題社員に対する業務指導のあり方
1 多様化・深刻化する問題社員
他方において、以下のように、昨今、問題社員が多様化、深刻化しており、その為に業務指導がエスカレートした事案もよく見聞します。
■ 指導・注意をしても、ミス等を繰り返し、真摯な改善の意思や態度が見られない。但し、解雇にまでは至っておらず、受け入れ部署の確保にも苦慮している。
■ 協調性を欠き、他の労働者とうまくいかないが、一つ一つのエピソードだけを見ると、直ちに懲戒処分をするほどでもなく、また、事実認定上も、上司や同僚間でのコミュニケーションの問題は、一方的にどちらが悪いとも評価しづらい場合もあり、対応に苦慮する。
■ 心身の体調が不安定で、本人の体調等を考慮すると、厳しく指導を行うことが躊躇される。
■ 正しい事実や法律の理解に基づかずに、会社の“コンプライアンス上の問題”をしきりに言明し、対応・処遇を巡って対応する側が疲弊する。
2 業務指導における注意点
そのような中、問題社員に対する業務指導に苦心している事例は非常に多く見受けられます。とはいえ、パワーハラスメントと言われるリスクを恐れるがあまり、必要な業務指導もできずに委縮してしまい、かえって、職場の秩序や仕事の質を維持できなくなるようでは本末転倒です。
その為、業務指導とパワーハラスメントの境界線をできる限り明確化したいという想いがあります。以下の行為は、パワハラに該当しないと考えられる例とされていますが、「一定程度」「少し高い」は程度・評価を伴う問題であり、明確な線引きが難しいのが実状です。
□ 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意をしてもそれが改善されない労働者に対して、一定程度強く注意をすること
□ その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること
□ 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること など
そこで、私は、業務指導においては、以下の点に注意して行うことを社内セミナー等でお伝えしております。
■ 問題社員の言動に対して、「いい加減にしろ!」と思っても、カッとすぐに言動に移さずに、数秒沈黙する(アンガーマネジメント)。
■ 不適切な行為は、個別具体的に事実を指摘して注意する。その注意を記録に残す。
■ 他の労働者の面前や他の労働者をCC等に入れての注意を避ける(≒公開処刑を避ける)。
■ 短時間で端的に行う(長時間、ネチネチとやらない)。
■ 使用する表現・言葉の選定に気を付ける(人格否定の言葉は使わない)。指導に必要な言葉かを自問自答する。
■ 業務指導の目的と手段を意識して指導内容、指導方法を検討する。
■ 「叱る・成長や改善を促す≠怒る・人格を否定する・さらし者にする」を認識する。
■ 指導を受ける側においても「厳しい指導・必要な指導≠パワハラ」という点を認識できるよう、日ごろから周知する。
後々、問題社員を解雇したい、懲戒処分にしたいという場合でも、問題行為を適時に注意し、フィードバックをしてきた記録がないと、希望する処分ができない場合があります。上記に注意し、適時に注意指導をしましょう。
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