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【労働法ブログ】副業・兼業の普及に向けて
2022.10.28
はじめに
2018(平成30)年1月に、厚生労働省が「働き方改革」の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(「ガイドライン」)を公表し、副業・兼業促進の姿勢を明確にしました。ガイドラインは、その後2度にわたり改定され、直近では2022(令和4)年7月に改定されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
ガイドラインでは、従来就業規則で禁止されていることの多かった副業・兼業について、一定の要件のもとで許容すべきとする裁判例の傾向などに触れながら、企業に対して積極的に副業・兼業を認めるよう、働きかけています。
今回は、副業・兼業の普及状況と、今後の課題について書きたいと思います。
副業・兼業の普及状況
1 2021(令和3)年10月12日公表の経団連資料
経団連は、2021(令和3)年10月12日に、「副業・兼業の促進 働き方改革フェーズⅡとエンゲージメント向上を目指して」と題する資料(「報告書①」)を公表しました。
副業・兼業を促進するという国の方針を受けて、企業サイドでどのような施策が可能であるかという点や、副業・兼業を認めるにあたっての留意点などが記載されています。
報告書①では、企業15社が、自社の働き手が副業・兼業をすることを認めているか否かについて紹介しています。これによると、15社中14社は、なんらかの形で副業・兼業を行うことを認めています。副業・兼業を認める場合、雇用形態(他社に雇用される形態)を認めている企業は8社、非雇用形態(業務委託先や個人事業主として稼働する形態)を認めている企業は14社となっており、非雇用形態での副業・兼業が、より普及していることが窺えます。その理由は明確には示されていませんが、他社での雇用となりますと、自社と副業・兼業先での労働時間の通算を行う必要が生じ、副業・兼業先での労働時間を含めて、残業時間の上限規制の対象となるなど、労務管理が複雑化することも理由になっているものと思われます。
自社従業員の副業・兼業を認めている14社の社内手続について分析すると、一部記載内容から明確に判断できない箇所が見られますが、相対的にハードルが低い届出制や申告制を採用したり、積極的に奨励したりしているとの記載のある企業は合計3社にとどまり、他の11社については、副業・兼業に前向きな姿勢は見せつつ、許可制や承認制又はそれに近い手続を必要としています。
自社の従業員が、雇用形態にせよ業務委託形態にせよ、社外で働くことについて、漠然とした不安や懸念を抱いている企業は、未だに多いように感じています。副業・兼業について、以前より要件を緩和しつつも、「許可制」や「承認制」を維持する企業が多いのは、そのためかもしれません。
不安や懸念の内容は、各社様々なのだと思いますが、私が企業からの副業・兼業関連のご相談をとおして感じるのは、①自社の業務への専念が期待できなくなるのではないか、②従業員の合計労働時間が長くなり、労働時間規制からの逸脱や過重労働、健康悪化のリスクが高まるのではないか、③自社の機密情報が社外に漏洩するリスクが高まるのではないか、といった点です。
多くの企業が副業・兼業の普及について積極的に考えつつも、慎重な考え方を残し、模索を続けているのではないかと思われます。
2 2022(令和4)年10月11日公表の経団連資料
その後経団連は、2022(令和4)年10月11日に、「副業・兼業に関するアンケート調査結果」と題する資料(「報告書②」)を公表しました。
報告書②では、経団連の全会員企業を対象に、「社外での副業・兼業の可否」、「社外からの副業・兼業人材の受入の有無」等の調査を行い、結果を公表しています。
まず、「社外での副業・兼業の可否」については、回答企業のうち、「認めている」が53.1%、「認める予定」が17.5%で、合計すると、70.6%の企業が副業・兼業に前向きな回答をしています。特に、常用労働者数が5000人以上の規模の企業に限ると、副業・兼業に前向きな回答は83.9%にのぼり、規模の大きい企業ほど、副業・兼業には前向きな姿勢を示していることがわかります。
また、5000人以上の規模の企業では、2019(令和元)年までは社外での副業・兼業を認めている企業は50%未満であったものが、2020(令和2)年に50%を超え、2022(令和4)年には66.7%にのぼるなど、肯定的な回答をする企業が増えつつあることがわかります。
一方、社外からの副業・兼業人材の受入については、「認めている」が16.4%、「認める予定」が13.8%で、肯定的な回答は合計30.2%にとどまっていますが、こちらも肯定的な回答が増える傾向にあります。
上記の結果を踏まえますと、自社従業員が社外で副業・兼業することと、社外の人材が自社で副業・兼業することの双方について、肯定的な企業が増えているものの、社外の人材を自社に受け入れることについては、未だに慎重な姿勢の企業の方が多い、ということが窺えます。まずは自社の働き手に副業・兼業を認め、その成果を見極めたうえで、他社からの副業・兼業人材の受入を進める、ということかもしれません。
今後に向けて
1 人材不足解消の一助となる期待
コロナ禍も徐々に落ち着きを見せ始めており、海外からの訪日旅行客が急速に増えるなど、経済状況の回復に伴い、サービス業を中心に、人手不足が再び顕在化しつつあります。
労働生産人口が限られる中、企業としては、正社員やパートタイムの従業員、派遣社員に加え、すでに他社で勤務している労働者の副業・兼業を広く受け入れることが、人手不足による供給能力不足回避につながると考えられます。
副業・兼業に対する意識が今後更に変わり、他社からの人材受け入れがより一般化することが期待されます。
2 働き方改革の推進への期待
副業・兼業の促進には、多様な働き方を認めることにより、働き方改革を推進する、という一面も期待されています。
上記のとおり、経団連のアンケート結果によれば、近時において自社従業員が副業・兼業を行うことに肯定的な企業は、70%を超えています。
課題としては、企業が懸念している、①自社の業務へのコミットメントの維持、②時間外労働規制からの逸脱、過重労働、健康悪化の防止、③自社の機密情報の保護、といった潜在的な問題への懸念を、どのように払しょくしていくかではないかと思います。
厚生労働省は、2022(令和4)年10月3日に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」と題する資料を公表しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
同資料では、冒頭で紹介したガイドラインの詳しい解説を行うと共に、「副業・兼業に関する届出」、「副業・兼業に関する合意書」等の実務的な書式例を紹介し、また副業・兼業先との労働時間通算について具体例に言及しつつ図解付きで丁寧に説明するなど、これらの懸念の解消に役立つ情報提供を、積極的に行っています。
5年程前までは、副業・兼業の許可に当たって参考となる書籍や資料なども少なかったのですが、国が副業・兼業の普及に主体的に取り組み、情報提供することにより、企業側の懸念が今後更に解消されるものと期待していますし、企業法務・労働法務を扱う弁護士として、我々も企業のサポートを続けたいと思っています。
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