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令和5年特許法改正の概要
2023.06.09
はじめに
令和5年6月7日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が可決・成立しました。本法律により、以下の事項について、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法が改正されます(経済産業省「不正競争防止法等(※)の一部を改正する法律案【知財一括法】の概要」(https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230310002/20230310002-1.pdf)参照)。
※特許法の改正に関連するのは太字下線部です。
1. デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化: 2. コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備: 3. 国際的な事業展開に関する制度整備: |
本稿では、本改正のうち、特許法の改正に関わる部分(太字下線部)についてご説明させていただきます。
デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化(営業秘密・限定提供データの保護の強化)
(1) 改正の内容
「営業秘密・限定提供データの保護の強化」として、不正競争防止法が改正される(ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とする等)他、特許法も改正されます。
改正される条文:特許法184条の9第5項、186条1項3号(改正前同項3号乃至6号を1号ずつ繰り下げた上で、3号に新しい規定が挿入されます。)、同条2項
特許法186条1項は、「何人も、特許庁長官に対し、特許に関し、証明、書類の謄本若しくは抄本の交付、書類の閲覧若しくは謄写又は特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付を請求することができる。ただし、次に掲げる書類については、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めるときは、この限りでない。」と規定しています。そして、同項3号に以下の条文が挿入されます。
特許法186条1項3号 裁定に係る書類であつて、当事者、当事者以外の者であつてその特許に関し登録した権利を有するもの又は第八十四条の二の規定により意見を述べた通常実施権者からこれらの者の保有する営業秘密が記載された旨の申出があつたもの |
また、改正前186条1項3号乃至6号を1号ずつ繰り下げたことに伴う修正も行われます。
(2) 施行期日
公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
(3) 改正法の概要等
従前、裁定手続に係る書類に営業秘密等が記載されていても、閲覧等を制限することができなかったところ、本改正により、当事者等から裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された旨の申出があり、かつ、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めたときには、閲覧制限が可能となります。
なお、こちらは、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会「知財活用促進に向けた特許制度の在り方」(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/230310_tokkyo-seido/tokkyo-seido.pdf)(以下「本報告書」といいます。)20-21頁において示された方向性に沿った改正です。
コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(1) 送達制度の見直し
ア 新旧対照表
改正される条文:特許法191条1項及び2項
特許法191条 (新) 2 公示送達は、送達する書類を送達を受けるべき者に何時でも交付すべき旨を官報及び特許公報に掲載するとともに、その旨を特許庁の掲示場に掲示し、又は特許庁の事務所に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置くことにより行う。 (後略) (旧) 2 公示送達は、送達する書類を送達を受けるべき者に何時でも交付すべき旨を官報及び特許公報に掲載するとともに特許庁の掲示場に掲示することにより行う。 (後略) |
イ 施行期日
公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
ウ 改正法の概要等
本改正により、特許法192条2項の規定により書類を発送することが困難な状況が六月間継続した場合に公示送達をすることができるようになったところ、特許法192条2項は、「在外者に特許管理人がないときは、書類を航空扱いとした書留郵便等(書留郵便又は信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして経済産業省令で定めるものをいう。次項において同じ。)に付して発送することができる。」と規定しています。本改正により、戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合に、公示送達が実施できるよう改正が行われました(本報告書15頁参照)。
また、本報告書13頁において、公示送達の方法について、デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を改善し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当とされていたところ、本改正によりインターネットを通じた送達制度が整備されました。
これらの改正は、本報告書10-15頁において示された方向性に沿った改正です。
エ 経過措置
改正後特許法191条1項の規定の適用については、施行期日前の期間については、改正後特許法191条1項3号が規定する六月の期間に算入しないものとされています(不正競争防止法等の一部を改正する法律附則3条1項)。また、改正後特許法191条2項の規定は、施行期日以後に行われる公示送達について適用し、施行期日前に行われた公示送達については、なお従前の例によるものとされています(不正競争防止法等の一部を改正する法律附則3条2項)。
(2) 書面手続のデジタル化等のための見直し
ア 新旧対照表
改正される条文:特許法43条2項乃至9項、44条4項、64条の2第1項2号
特許法43条2項 (新) (旧) ※43条3項乃至9項も、電磁的方法により提供された証明書による手続を可能とする形で修正されています。また、上記の修正を踏まえ、特許法44条4項及び64条の2第1項2号にも修正が加えられています。 |
イ 施行期日
公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日
ウ 改正法の概要等
特許法43条2項は、パリ条約4条D(1)の規定により特許出願について優先権の主張をした者は、所定の期間内に特許庁長官に第一国の発行した優先権に係る証明書類(優先権証明書)の提出をしなければならないと規定しています。本改正により、優先権証明書の提出手続について、第一国の官庁が電子的に提供した優先権に係る証明書類や、優先権証明書の写しを提出できるようになりました。
これらの改正は、本報告書17-19頁において示された方向性に沿った改正です。
(3) 手数料減免制度の見直し
ア 新旧対照表
改正される条文:特許法195条の2、195条の2の2
特許法195条の2 (新) (旧)
特許法195条の2の2 (新) (旧) |
イ 施行期日
公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日
ウ 改正法の概要等
特許法195条の2及び195条の2の2、特許法施行令10条並びに特許法等関係手数料令1条の2は、生活保護法11条1項各号の扶助を受けている等の一定の要件を満たす個人、資本金の額又は出資の総額が3億円以下等の一定の条件を有する法人、中小企業者等に対する、出願審査の請求の手数料の軽減・免除について定めています。本改正により、資力等の制約がある者の発明奨励・産業発達促進という制度趣旨を踏まえ、一部の者に対する出願審査の手数料の軽減又は免除の件数制限が設けられました(経済産業委員会「不正競争防止法等の一部を改正する法律案(閣法第五四号)(衆議院送付)要旨」(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/211/pdf/580211540.pdf)2頁参照)。
おわりに
上記のとおり、令和5年の特許法改正では、営業秘密・限定提供データの保護の強化、送達制度の見直し、書面手続のデジタル化等のための見直し、手数料減免制度の見直しについて改正が行われました。また、特許法に関係する改正として、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律も今回改正されておりますので、こちらについても併せてご確認いただければと存じます。
※本報告書の内容については、こちらのブログもご覧下さい。
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