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令和4年度特許制度小委員会の報告書(案)について
2023.01.10
はじめに
産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会は、今後の特許法改正について、特許庁政策推進懇談会での議論を踏まえ、令和4年度は9月26日から特許法に関する論点について議論を行ってきました。そして、令和4年12月22日に、同委員会における議論を取りまとめた報告書(案)である「知財活用促進に向けた特許制度の在り方(案)」が公表され、パブリックコメントの募集が開始されました。今後、パブリックコメントを経て確定した本報告書の内容を踏まえつつ、特許法の改正が行われることとなります。そこで、今回は、当該報告書案の内容をここにご紹介いたします。
本報告書案4頁に記載されているとおり、令和4年度の特許制度小委員会で検討が行われた課題は、①一事不再理の考え方の見直し、②送達制度の見直し、③書面手続デジタル化、④裁定関係書類の閲覧制限、⑤ライセンス促進策の5つです。
特許庁政策推進懇談会で議論された論点のうち、特許の「実施」定義見直し、「損害賠償の過失推定規定」、「懲罰的損害賠償/利益吐き出し型損害賠償」、及び「共有特許の考え方の見直し」に関しては、特許制度小委員会での検討は行われませんでした。
この点、特許の「実施」定義見直しについては、同懇談会の報告書において、「現行制度の解釈の限界にも留意しつつ、具体的な法改正の在り方について検討を深める必要がある。」と結論づけられており(同報告書72頁)、特許制度小委員会で議論がされることが期待されておりましたが、現行制度の解釈についても議論がなされていることなどを踏まえて、今年度は特許庁において調査研究を実施することとされ、特許制度小委員会における議論は見送られました。
また、「損害賠償の過失推定規定」については、同懇談会の報告書において、「『過失』を推定することが酷といえる場合があるか、諸外国の事例等についてさらに分析を進める必要がある。」と整理されており(同報告書72頁)、スケジュールはわかりませんが、特許庁において調査をすることが予定されていると聞いております。
なお、「懲罰的損害賠償/利益吐き出し型損害賠償」については、同懇談会の報告書で「今後の国内外の裁判例等を引き続き注視する必要がある。」と整理され(同報告書72頁)、また、「共有特許の考え方の見直し」ついては、同懇談会の報告書で「モデル契約書の周知等の取組を続ける必要がある。」と整理されており(同報告書72頁)、同報告書作成当時より、特段の議論は予定されていなかったように思います。
特許法改正の方向性
令和4年度の特許制度小委員会での検討を踏まえ、本報告書案に記載された特許法改正の方向性は、以下のとおりです。
①「一事不再理の考え方の見直し」については、特許法第167条の「特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」という文言を修正し、一事不再理の客観的範囲の拡張を行うかどうかが論点となりましたが、最終的には今回法改正を行わず、現状の運用の更なる周知等を行う方針となりました(本報告書案5-9頁)。
②「送達制度の見直し」については、特許庁におけるオンライン発送の見直しの方向性として、以下の内容等が示されました(本報告書案11頁)。
(ア)オンライン発送制度の見直しの方向性 (i)対象とする書類について |
また、公示送達の方法について、「デジタル化を促進する観点から、特許公報への掲載を廃止し、特許庁ホームページに掲載することにより実施する方向で検討を進めることが適当である。」と記載されました(本報告書案13頁)。加えて、「戦争やコロナ禍の影響により現実に国際郵便の引受けが停止され、当該国に対して航空書留郵便等に付する発送ができない状況が長期間継続した場合には、公示送達を実施することができるよう、公示送達の要件を見直す方向で検討を進めることが適当である。ただし、在外者へ公示送達の内容を了知させる手段についても、ユーザー利便性等も勘案しながら、国際郵便以外の方法について引き続き検討する必要がある。」との結論も示されています(本報告書案15頁)。
③「書面手続デジタル化」については、以下の内容について検討が行われ、反対意見がなかったことが記載されています(本報告書案17頁)。
(ア)申請書類の電子化 (イ)閲覧・交付の対応 (ウ)副本の送達等 |
また、書面手続デジタル化に向けた関係手続整備を進めることが適当であること等が記載されています(本報告書案17頁)。
また、書面手続デジタル化について、特許法第43条第2項(実用新案法第11条第1項、意匠法第15条第1項、同法第60条の10第2項及び商標法第13条第1項にて準用)に規定する優先権証明書の提出手続について、その写しの提出を許容するとともに、オンライン提出を可能とすることが適当である旨記載されています(本報告書案19頁)。
④裁定関係書類の閲覧制限については、裁定請求書、答弁書、裁定謄本等の裁定に係る書類のうち、営業秘密が記載された書類は、閲覧等を制限可能とすることが適当であると記載されています(本報告書案21頁)。
⑤「ライセンス促進策」については、「現時点では、ライセンス促進策の一つと考えられる特許料の減免拡充を行うのではなく、ライセンスの実施につながる政策効果がより高いと考えられる、実際にマッチングを進める上での障害として指摘されている具体的な課題に応じた施策を講じることが適当である。」と記載されています(本報告書案27頁)。また、委員会におけるライセンス促進案についての検討内容の詳細等が本報告書案に記載されておりますので、併せてご参照いただけますと幸いです。
今後について
今後、2023年1月20日18時までの間に本報告書案のパブリックコメントが行われた上で、最終版の本報告書が公表され、その後、本報告書で示された方向性を踏まえて、具体的な特許法の法改正案がまとめられるものと考えられます。
最後に
特許制度推進懇談会に続いて、特許制度小委員会についても委員及びオブザーバとして参加をさせていただきました。各方面でご活躍の有識者たちが幅広い視点から貴重な意見を述べられており、大変貴重な場に同席し、議論に参加させていただきました。今年度の一連の議論では、諸事情を踏まえて、大きな論点は見送られたという面があるように思いますが、より良い知的財産制度のために、引き続きを弊職らも尽力したいと思います。