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共同所有私道又は相互持合私道への水道管の設置
2023.06.09
今回は、「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~(第2版)」のうち、水道管の設置を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2023年4月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第193回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
水道事業(上水道)について
水道事業とは、一般の需要に応じて、水道により水を供給する事業をいうとされており、水道法では、水道事業は、原則として市町村が経営するものとされています。水道事業に供される水道設備は、取水施設、貯水施設、導水施設、浄水施設、送水施設及び配水施設から構成され、これら設備は水道事業者が所有・管理を行います。水は、水道事業者が設置する配水施設である配水管を通り、配水管から分岐して設けられる給水管を通って、各戸に引き込まれることになります(図表1)。
【図表1】水道事業の概要
※東京都水道局のHPより
上記のとおり、需給者に対しては、配水管の分岐部分から需要者の蛇口までをつなぐ給水装置によって供給されます。給水装置は、水道メーターを除いて需要者が所有・管理を行いますが、給水装置の設置工事は、水の需要者から申込みを受けた水道事業者又は水道事業者の指定を受けた工事業者が行うことになります(図表2参照)。
【図表2】給水装置の概要
※京都市上下水道局のHPより
配水管の多くは公道の地下に設置されていますが、私道の地下に配水管が設置されることもあります。私道の地下に水道事業者が所有・管理する配水管を設置する場合、水道事業者は、私道の所有者から、配水管を設置するために地下を利用する権利の設定を受けることが一般的です。設定される権利の法的性質は、使用貸借等の契約に基づく利用権、区分地上権等、様々な形式があり、また、期間についても、相当の長期間とされる場合も見られます。
共同所有私道に給水設備を設置する場合
私道を複数の土地所有者が所有している場合において、当該私道において給水設備を設置する場合を想定します。たとえば、図表3の場合、①から⑤の土地を各所有者が所有しており、真ん中の部分を①から⑤の所有者がそれぞれ持分1/5で共有しているとします(図表3)。
【図表3】共同所有私道に給水設備を設置する場合
※所有者不明私道への対応ガイドラインより
この事案では、①から④の土地はそれぞれ配水管に接続しています。今般、⑤の所有者が自宅を新築したために、共有私道に新たに給水管を設置する必要が生じました。給水管の設置工事は、私道部分のアスファルトを剥がして路面を掘削して給水管を設置し、その後に路面まで埋め戻し、再度アスファルト舗装して行います。このような工事を行うの場合、⑤の所有者は、①から④の所有者の承諾を得るのが一般的ですが、②の所有者が所在不明のため承諾を得られない場合に、どのように対応すべきかが問題となります。
この点、所有者不明私道への対応ガイドラインによれば、⑤の所有者は、②の所有者の承諾を得ることなく、給水管の設置工事を行うことができるとされています。その理由としては、民法上、共有私道の各共有者は、共有私道の全部について持分に応じた使用をすることができるからです。⑤の所有者は、その持分に応じて私道を全部使用することができることから、掘削工事を行うことについて ②の共有者の同意を得る必要はありません。また、給水管を設置することにより、⑤の共有者が自己の持分を超えて共有私道を使用するものではないことから、⑤の共有者は①~④の共有者に対し、対価の支払いを行う義務も負わないと解されます。
相互持合の私道に給水管を設置する場合
私道を構成する複数の土地が、私道の周囲の土地の所有者によって相互に所有されている場合を想定します。たとえば、図表4の事例において、私道を構成する5筆の土地は、周囲の土地の所有者である①から⑤の所有者によって所有されています。この事案では、①から④の所有者は、それぞれ配水管に接続しています。今般、⑤の所有者が、自宅を新築したために、共有私道に新たに給水管を設置する必要が生じました。⑤の所有者は、①から④の所有者の承諾を得るのが一般的ですが、②の所有者が所在不明のため承諾を得られない場合に、どのように対応すべきかが問題となります。
【図表4】
※所有者不明私道への対応ガイドラインより
改正民法では、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ水道水の供給等の継続的給付を受けることができないときは、他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、当該継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができるとされました。
本事例では、⑤の所有者は、①から④の所有する通路敷の下に給水管を設置する以外に自らの所有地に水を引き込む方法がないため、①~④の同意を得なくとも、通知を行った上で、給水管を用いた水道の継続的給付を受けるために必要な限度で、給水管を①~④の所有する土地に設置することができます。この場合、所在等不明である②の所有者に対しては現実の通知ができないため、公示による意思表示をもって通知を行うことになります。また、⑤の所有者は、設備を①~④の所有者の土地に設置するために、当該①~④の所有者の土地を使用することができます。
別の法律構成として、私道下に給水管が設置されている場合、私道を構成する①から⑤の各土地の提供者は、相互に、地上の通行だけではなく、通路の地下に、公道に設置されている配水管に接続するための給水管を設置することを明示又は黙示に承諾していたものと解されています。この場合、新たに給水管を設置する⑤の所有者に対する関係においては、私道の地下に給水管の設置を目的とする地役権が明示又は黙示に設定されていると解され、⑤の所有者は、給水管を設置することができると考えられます。
以上
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