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【労働法ブログ】物流の2024年問題
2023.08.03
物流の2024年問題とは
物流業界では、2024年4月1日から、ドライバーの労働時間について新たな上限規制が適用されます。これにより、常態化していたドライバーの長時間労働自体は是正されることが期待されますが、他方で、従来長時間労働に頼ってきた物流の輸送能力の低下などが懸念されています。輸送能力が低下すれば、運送・物流業者の売上げやドライバーの収入、さらには荷主や一般消費者にも様々な影響が出ることが予想され、これらの問題が総称して「物流の2024年問題」と呼ばれています。
労働基準法の改正
働き方改革関連法による労働基準法の改正に伴い、既に2019年4月1日から、一般の労働者については、月45時間・年360時間の時間外労働の限度時間が設けられ、特別条項付き三六協定を締結する場合でも、時間外労働時間は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満といった制限が設けられています。
これに対し、自動車運転者については、5年間の適用猶予期間が設けられていましたが、いよいよ2024年4月1日から、自動車運転者についても、月45時間・年360時間の上限規制が適用され、特別条項付き36協定を締結する場合の時間外労働の上限は960時間となります。
改善基準告示の改正
上記の労働基準法の改正に加え、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(以下「改善基準告示」といいます。)も改正され、2024年4月1日から、自動車運転者の拘束時間や休息期間についても、その上限時間が変更されます。
改善基準告示は、自動車運転者の業務の特性を踏まえて定められたもので、拘束時間、休息期間といった、労働基準法にはない特別な概念が用いられています。「拘束時間」とは、始業から終業までの時間をいい、労働時間(時間外労働時間、休日労働時間を含む)および休憩その他の使用者に拘束されている時間をいいます。「休息期間」とは、勤務と次の勤務の間の時間であり、睡眠時間等の労働者の生活時間をいいます。改善基準告示において、拘束時間・休息期間に係るルールが規定されているため、自動車運転者の労働時間管理は、労働基準法のルールに加え、これらの規定も遵守する必要があります。
改善基準告示の主な改正点は以下のとおりです。
(1) 拘束時間
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改正前 |
改正後 |
1年 |
3516時間 |
原則3300時間 |
1か月 |
原則293時間 |
原則284時間 |
1日 |
原則13時間 |
原則13時間 |
※1 284時間超えは連続3か月まで、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努める。
※2 宿泊を伴う一定の長距離貨物運送の場合は、最大16時間まで延長可能(週2回以内)。
(2) 休息期間
改正前 |
改正後 |
継続8時間以上 |
継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない ※3 |
※3 宿泊を伴う一定の長距離貨物運送の場合は、継続8時間以上(週2回以内)。休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間が必要。
(3) 運転時間・連続運転時間
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改正前 |
改正後 |
運転時間 |
改正なし |
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連続運転時間 |
4時間以内 |
4時間以内 ※4 |
※4 サービスエリア、パーキングエリア等に駐車又は停車できないため、やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、4時間30分まで延長可能。
(4) その他の改正点
トラック運転者については、拘束時間・休息期間に関し、休息期間分割の特例、2人以上乗務の特例、隔日勤務の特例、フェリー乗船の特例が定められています。このうち、休息期間分割の特例および2人以上乗務の特例については、改正によりその内容が変更されています。
また、本改正により、予期しえない事象への対応時間に関する規定が追加されました。予期しえない事象とは、車両の故障、乗船予定のフェリーの欠航、災害や事故による道路の封鎖・渋滞、異常気象により正常な運行が困難となったことをいいます。このような場合には、当該対応時間について、1日の拘束時間、2日平均の運転時間、連続運転時間から除くことができることとされています。もっとも、当該対応時間を除くにあたっては、運転日報上の記録に加えて公的機関のHP情報等の客観的な記録が必要となっています。
実務上の対応と今後の課題
本改正に伴って、自動車運転者の事業主には、上記の上限規制を踏まえた時間外労働の削減や拘束時間等の短縮が求められることになります。全日本トラック協会の調査によれば、時間外労働の上限時間を超えるドライバーがいるトラック運送事業者は29%にのぼるとされています。労働時間の削減にあたっては、まずは現状の自動車運転者の労働時間・拘束時間・休憩時間等を正確に把握し、上記の上限規制の適用にあたって具体的に何時間の削減が必要かを確認することが必要となります。そのうえで、荷主との協議や運行計画の見直しが必要となるでしょう。
2023年6月には経済産業省・農林水産省・国土交通省から、物流事業者・荷主事業者が取り組むべき事項について、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」が公表されています。ガイドラインにおいては、荷主事業者に対して、荷待ちや荷役作業等にかかる時間の把握・短縮に努めることや、物流への負担となる商慣行の是正、運送契約の適正化などが求められています。
物流の2024年問題は、運送事業者だけで解決できる問題ではなく、荷主や消費者、行政が一体となり、社会全体で取り組むべき課題であるといえます。弊所でも、この大きな社会問題の解決に向けて今まさに尽力しているところです。