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【英国法ブログ】国際相続-転ばぬ先の杖
2023.10.11
日本では超低金利が長期間続いていることを背景として、資産運用のために海外で金融資産を保有することを検討される方も多いと思います。金融資産には様々なものが考えられますが、不動産とそれ以外(銀行預金や債権など)に分けられると思います。
日本人が海外に金融資産を残した状態で亡くなった場合、海外にある資産をいかにして流動化して日本の御遺族が利用できる状態にするかが問題となります。日本ではシンプルに済む話が海外であると思いのほか時間とコストがかかることがあります。
英国の場合、相続人を確定する手続にはプロベート(Probate office)と呼ばれる司法機関が関与します。遺産が少額の預金の場合には、プロベートでの手続に要するコストが費用倒れしてしまうこともありますので、一定金額以下の預金の場合には、相続関係を疎明することにより、銀行の裁量でプロベートでの手続を省略してもらえることもあります。このような簡易な方式をとることができる金額水準は銀行により異なりますが、実際の事件ではこの水準を優に超える場合が多いため、遺産が銀行預金だけであったとしてもプロベートでの手続をとらなければならない場合が多いのが実情です。
プロベートでの手続は、遺言がある場合と遺言のない場合に分けられます。遺言のある場合には、遺言を検認し、受遺者を確定する手続が必要となります(Grant of probate)。英国では、有効な遺言であると認められれば、遺言者の最後の意思として大変重視されます(日本のような遺留分という考え方は英国にはありません)。法域によっては、遺言の原本の提出を求められ、しかも原本を返還しないというところもあります。
遺言のない場合には、相続対象者を調査した上、法定相続分に基づいて相続人を確定する手続が必要となります(Grant of administration)。日本人が英国に財産を残して亡くなった場合、遺言があったとしても日本で遺言を作成することが多いと思いますが、これを英国のプロベートで適法な遺言であることを認定してもらう必要があります。国際私法と日本の親族相続法がからみ、かつ、それを外国で証明することが必要になります。プロベートへ申請する前には、英国歳出歳入庁(HMRC)に対して相続税の申告も行う必要があります。
不動産の場合には更に複雑です。不動産を残して亡くなられた場合にはプロベートで相続関係を確定する決定を得た後に、物件を売却しなければ現金にできませんが、日本と同じような感覚でいると戸惑うと思います。物件売却までの間の不動産の管理をどうするか(サービスチャージ、公租公課、水光熱費等の各種支払いのほか、防犯、補修、換気など文字通りの物件のメンテナンス)という現実的な問題のほか、相続対象財産の価値把握のために不動産鑑定を行うこと、売却に際して不動産業者と弁護士を選任すること、売却時に購入希望者からの質問に対応するとともに契約時交渉することなどが必要となります。英国では弁護士業界の専門特化が非常に進んでおり、プロベートだけを専門にしている弁護士がおり、不動産についても個人用住宅の売買手続を専門にしている弁護士に依頼するのが一般です(売主側と買主側の双方に弁護士を立てることが必要です)。当事務所では国際相続に際しては、具体的な案件の規模に応じて、専門性を有し信頼できる現地事務所を推薦し、現地事務所とともにクライアントのサポートをしております。
海外に多額の資産を残して亡くなることは、あまり想定したくないことではありますが、海外資産の概要、重要書類、主なコンタクト先など基礎的な情報をまとめておくとともに、あらかじめその資産に応じた相続対策を講じること、特に不動産が所在する国の要式に基づいた遺言書(Will)を作成するなどして、不測の事態が起こった際に御遺族の負担をできる限り軽減することも必要かと思います。