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【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション③】リクワイアメントとペナルティ
2023.10.27
落札電源においては、原則として、制度適用期間を通じて容量確保契約金額が毎月交付される一方で、制度適用期間前、対象実需給年度前及び対象実需給年度において、供給力の確保等に関するリクワイアメント(要件)を遵守する必要があります。広域機関によるアセスメント(評価)によりリクワイアメントが遵守されていないと評価された場合には、経済的ペナルティが発生します。不可抗力事由によってリクワイアメントが遵守されなかったと個別に判断された場合には、経済的ペナルティが発生しないこともあります。
制度適用期間前のリクワイアメント・ペナルティ
1-1 リクワイアメント(約款13条)
1-1-1 供給力提供開始時期の遵守
容量提供事業者が応札時に指定した供給力提供開始時期(予定年度)を遵守すること。
供給力提供開始時期が含まれる年度の変更がなければ、ペナルティの対象となりません(約款14条1項1号)。
なお、供給力提供開始時期を早期に設定しても、入札上の評価が変わることはありません(パブコメ回答(約款)58番)。
1-1-2 供給力提供開始期限の遵守
電源種ごとに供給力の提供を開始する期限が定められております。蓄電池の供給力提供開始期限は、容量確保契約締結日(約定結果公表日(約款4条))の4年後の日が属する年度の末日です。
「供給力提供開始日」とは、試運転開始日、営業運転開始日、試運転期間のある時点など、アセスメント対象容量以上の供給力を安定的に提供できる状態となる日をいいます(約款別添の「用語の定義」)。
1-2 ペナルティ(約款15条)
アセスメントの結果、リクワイアメントが遵守されていないと確認した場合、広域機関は次のペナルティを科します。後述1-2-1については、影響を及ぼした対象実需給年度が複数ある場合、複数年度分のペナルティが科せられます。
1-2-1 供給力提供開始時期の遵守
(A) 提供開始時期変更により、容量市場メインオークションの需要曲線に影響を及ぼす場合
メインオークションの約定価格×契約容量×5%
「メインオークションの需要曲線に影響を及ぼす場合」とは、次の(i)の期間に、次の(ii)を行った場合を指します。
(i) 対象実需給年度(例:2028年度)の容量市場メインオークションの開催年度(=対象実需給年度の4年度前、上記の例だと2024年度)の4月1日以降、同じ対象実需給年度の追加オークションの実施判断に必要な容量確保契約の変更または解約の確認期限日までの間
(ii) 供給力提供開始時期を、当該対象実需給年度の翌年度以降に変更
(広域機関「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2023年度)」(2023.9)64頁)
「メインオークションの約定価格」とは、供給曲線に影響を及ぼす年度の容量市場メインオークションにおける当該電源が立地するエリアの約定価格(円/kW)をいいます。
(B) 提供開始時期変更により、容量市場追加オークションの需要曲線に影響を及ぼす場合
メインオークションの約定価格×契約容量×10%
「追加オークションの需要曲線に影響を及ぼす場合」とは、次の(i)の期間に、次の(ii)を行った場合を指します。
(i) 対象実需給年度の容量市場追加オークションの実施判断に必要な容量確保契約の変更または解約の確認期限日の翌日以降
(ii) 供給力提供開始時期を、当該対象実需給年度の翌年度以降に変更
なお、供給力提供開始時期(例:2027年度)を翌年度以降(例:2028年度)に変更した時点が、変更後の供給力提供開始時期を含む対象実需給年度向けのメインオークションの開催年度(=対象実需給年度の4年度前、上記の例だと2024年度)の4月1日以降である場合、契約電源の契約容量は、変更後の供給力提供開始年度(例:2028年度)向けのメインオークションで落札されたものとみなし、当該メインオークションの落札価格およびリクワイアメント・アセスメント・ペナルティを適用します(約款15条1項1号)。
1-2-2 供給力提供開始期限の遵守
超過した期間分、容量確保契約金額(各年)を容量収入として得られる期間は短縮されます(1年未満は1年として繰上げ)。但し、容量確保契約金額(各年)を容量収入として得られる期間終了後の制度適用期間における容量確保契約金額(各年)の契約単価は、各対象実需給年度の容量市場メインオークションにおける当該電源が立地するエリアの約定価格となります。この期間は、他市場収益の還付の必要はありませんが、供給力を提供する義務が生じるため、本オークションにかかるリクワイアメントの達成が求められます(約款15条1項2号)。
対象実需給年度前のリクワイアメント・ペナルティ
2-1 リクワイアメント(約款16条)
2-1-1 容量停止計画の調整
広域機関/属地TSOが、実需給年度2年度前に実施する容量停止計画の調整依頼に応じること。
容量停止計画とは、電源の維持・運営に必要な作業及びその他要因に伴い電源を停止または出力低下させる計画をいいます(パブコメ回答(約款)96番)。
2-1-2 余力活用契約の締結
調整機能を有するものについて、属地TSOと余力活用に関する契約を締結すること。
蓄電池は、調整機能を具備し、制度適用期間中はその機能を維持することが必要となります(募集要綱14頁)。
2-2 ペナルティ(約款18条)
2-2-1 容量停止計画の調整
調整不調の結果として生じる供給力の不足量に応じて、調整不調となった日数に対して以下の減額率を適用して、容量確保契約金額(各年)を減じます(「【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション②】落札、容量確保契約、他市場収益の還付」の2-1をご参照願います。)。
(A) 追加設備量を利用する場合
契約単価×契約容量×0.3%×調整不調の日数
「追加設備量を利用する場合」とは、電源が一定の年間停止可能量を確保するために容量オークションで追加的に確保する供給設備量をいいます。また、「契約単価」とは、対象実需給年度の契約単価をいいます。
(B) 供給信頼度確保へ影響与える場合
契約単価×契約容量×0.6%×調整不調の日数
(広域機関「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2023年度)」(2023.9)67頁)
なお、容量停止計画の調整以降に、容量提供事業者の事由による停止期間の追加、変更により供給信頼度確保へ影響を与える場合には、上記で算定される額の1.5倍のペナルティを科せられる場合があります(約款18条1号)。
2-2-2 余力活用契約の締結
余力活用契約を締結しない場合、または、制度適用期間において余力活用契約を解約した場合、当該契約容量の全てを市場退出(約款11条)とし、経済的ペナルティとして、市場退出した電源の容量×契約単価×10%(約款12条)が科せられます(約款18条1号(2))。
対象実需給年度のリクワイアメント・ペナルティ
3-1 リクワイアメント(約款19条)(注)
(注)以下の3-1-1から3-1-3までのリクワイアメントにおいて、出力抑制のコマもリクワイアメント・ペナルティの対象となりますが、不可抗力(29条)の条項により経済的ペナルティが科せられない場合があります(パブコメ回答(約款)122番)。
3-1-1 供給力の維持
契約電源を、アセスメント対象容量以上の供給力を提供できる状態に維持すること。但し、容量停止計画(上記2-1-1参照)を提出する場合は、8,640コマ(180日相当)を上限に、契約電源の停止またはアセスメント対象容量以下の出力が認められます。
「アセスメント対象容量」とは、制度適用期間での蓄電池運用のリスク(運用による劣化に伴う蓄電池の容量減を含む)を踏まえ、各月の応札出力を上限に事業者が算定したものをいいます(広域機関「容量市場業務マニュアル長期脱炭素電源オークション参加登録・応札・容量確保契約書の締結編(応札年度:2023年度」(2023.10.4)95頁)。
「供給力を提供できる状態」とは、電源等の維持・運営に必要な作業及びその他要因に伴い電源が停止又は出力低下により、電源等の供給力を提供できない状態(容量停止計画の提出が必要な状態)ではない状態をいいます(パブコメ回答(約款)133番)。
なお、容量停止計画に関し、設備トラブルによる停止は容量停止計画の提出対象であり、年間停止コマ相当数に応じて経済的ペナルティが科せられます(パブコメ回答(約款)96番)。他方、ノンファーム接続による出力抑制は、容量停止計画の提出対象外であり、8,640コマの上限にはカウントされません(同100番)。蓄電池においては、メーカーによる保証との関係で充放電サイクルに制限があるところ、充放電サイクルを行うことができない日については、電源の維持・運用のために必要な作業を行うときに提出すべき容量停止計画の対象とはなりません(パブコメ回答(約款)102番)。
3-1-2 発電余力の卸電力取引所等への入札
蓄電池の場合、1日のうち応札時に容量提供事業者が登録した運転継続時間分の供給力のうち、小売事業者等が活用しない発電余力を卸電力取引所・需給調整市場に応札すること。
但し、以下のいずれかに該当する場合、入札する量を減少することができます。
(A) 小売電気事業者等と相対契約を締結している場合で、当該契約における計画変更の締切時刻以降に入札可能な市場が存在しない場合
(B) 燃料制約等の制約がある場合(前日以降の需給バランス評価で広域予備率低下に伴う供給力提供の周知対象となったコマ(「低予備率アセスメント対象コマ」)は除く)なお、蓄電池の充電率(SOC)の管理・充放電サイクル数の管理の制約や、蓄電池の劣化は燃料制約等の制約には当たりません(パブコメ回答(約款)108番、114番)。
(C) 前日以降の需給バランス評価で平常時と判断された時間帯において、バランス停止(出力抑制を含む)からの起動が不経済となる場合
(D) 提供する供給力の最大値が、アセスメント対象容量以上の場合
(E) その他やむを得ない理由があり、広域機関が合理的と認めた場合
蓄電池においては、メーカーによる保証との関係で充放電サイクルに制限があるところ、充放電回数制限を考慮して、余力提供計画(需給調整市場システムに登録(各一般送配電事業者の「余力の運用規程」24条))を提出すれば足ります(パブコメ回答(約款)102番)。また、充電されていない場合や、同日のその後のコマで発電予定がある場合等で、発電(放電)余力がないときは、市場応札は不要です(パブコメ回答(約款)108番)。
(広域機関「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2023年度)」(2023.9)70頁)
3-1-3 電気の供給指示への対応
前日以降の需給バランス評価において、低予備率アセスメント対象コマに該当すると判断された場合、属地TSOからの供給指示に応じて、ゲートクローズ以降の発電余力を供給力として提供すること。
但し、以下のいずれかに該当する場合はこの限りではありません。
- 属地TSOとの間で給電申合書等が締結されていない場合
- 属地TSOが直接的に出力の制御することが可能な場合
- その他やむを得ない理由があり、広域機関が合理的と認めた場合
余力の提供による蓄電池の劣化については、途中で蓄電池を交換する(そのための費用を応札価格に算入する)等の対応が必要となります(パブコメ回答(約款)123番)。
3-2 ペナルティ(約款21条、アセスメントは約款20条)(「【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション②】落札、容量確保契約、他市場収益の還付」の2-2をご参照願います。)
3-2-1 供給力の維持
年間停止コマ相当数に応じて、経済的ペナルティが科せられます。
経済的ペナルティ=容量確保契約金額×(年間停止コマ相当数(※)-8,640)×0.0125%
※:対象実需給年度内の累計
年間停止コマ相当数=計画停止コマ相当数+計画外停止コマ相当数×5
計画停止コマ相当数(計画停止として扱う期間をコマごとに評価。負値の場合はゼロ)
=(アセスメント対象容量-提供する供給力の最大値)/アセスメント対象容量
計画外停止コマ相当数(計画外停止として扱う期間をコマごとに評価。負値の場合はゼロ)
=(アセスメント対象容量-提供する供給力の最大値)/アセスメント対象容量
3-2-2 発電余力の卸電力取引所等への入札
容量停止計画(出力抑制に伴う停止計画は除く)が提出されていない時間帯に、発電余力を全て卸電力取引所等に入札したか、コマごとに確認します(約款20条1項1号(2))。前日以降の需給バランス評価で低予備率アセスメント対象コマに該当すると判断された場合に、卸電力取引所等に入札していない発電余力に対して、経済的ペナルティが科せられます(約款21条1号(2))。
発電余力=アセスメント対象容量-発電計画
リクワイアメント未達成量=発電余力-卸電力取引所等に入札した容量
経済的ペナルティ=リクワイアメント未達成量×ペナルティレート
ペナルティレート=容量確保契約金額/(契約容量×Z)
Z:1年間で低予備率アセスメント対象コマに該当することが想定される時間。対象実需給年度のメインオークション募集要綱で記載される。
3-2-3 電気の供給指示への対応
前日以降の需給バランス評価で低予備率アセスメント対象コマに該当すると判断され,属地TSOから電気の供給指示があった際に、その指示に従った電気を供給していないと広域機関が判断した場合、ゲートクローズ以降の発電余力の全量をリクワイアメント未達成量とし、これに対し経済的ペナルティが科せられます(約款21条1号(3))。
経済的ペナルティ=リクワイアメント未達成量×ペナルティレート
ペナルティレート=容量確保契約金額/(契約容量×Z)
Z:1年間で低予備率アセスメント対象コマに該当することが想定される時間。対象実需給年度のメインオークション募集要綱で記載される。
3-3 対象実需給年度の経済的ペナルティの上限(約款25条)
・年間:容量確保契約金額(各年)×110%
・月間:容量確保契約金額(各年)×18.3%
不可抗力事由
以下のいずれかに該当する事象その他の事業者の予見できない事象が不可抗力に当たります。広域機関は事業者の状況を個別に確認して、例外的に市場退出時、制度適用期間前、対象実需給年度前、対象実需給年度の各経済的ペナルティを適用しない場合があります(約款29条)。
・大規模な風水害や地震等の天災地変
・戦争、内乱、暴動、革命その他の無秩序状態
・事後的な法令改正や規制適用、裁判による運転停止
・一般送配電事業者が保有する送電線故障による出力抑制等
発電設備側は供給力提供開始期限より前に完成している一方で、系統側の工事都合により当該期限内に運転開始ができないような場合も事業者に帰責性がない不可抗力事由に当たると考えられます(パブコメ回答(約款)163番)。
以上
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