ブログ
【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション②】落札、容量確保契約、他市場収益の還付
2023.10.27
長期脱炭素電源オークションにおいては、蓄電池は、揚水式水力ともに、募集上限内電源として決定された後、他の電源の比較で落札されます。落札した後、広域機関との間で容量確保契約を締結し、これに基づき、原則20年の制度適用期間にわたり毎月、容量確保契約金額が交付されます。容量確保契約は原則として解約は認められず、解約する場合も経済的ペナルティが発生します。
他方、運転開始後、卸電力市場や需給調整市場等で得られた他市場収益の約90%を広域機関に還付しなければなりません。他市場収益も監視の対象であり、規律を満たしていない場合、他市場収益・還付額が修正されます。
落札電源・約定価格の決定方法
1-1 落札電源の決定方法(募集要綱28頁以下)
(A) 蓄電池等の募集上限内電源の決定
募集上限のある「揚水式水力・蓄電池」(2023年度募集上限100万kW)、「既設火力の改修」(アンモニア・水素混焼、バイオマス専焼、同年度募集上限100万kW)の電源について、「揚水式水力・蓄電池」、「既設火力の改修」ごとに応札価格が低い電源から選定され、合計応札容量が募集上限を超える電源までを、募集上限内電源とします。
同じ応札価格の電源が複数存在し、かつ当該電源を全て募集上限内電源とすることで募集上限内電源の合計応札容量が募集上限を跨ぐ場合は、当該電源の中から、募集上限を超える容量が最小となる組合せにより募集上限内電源を決定します。それでもなお、最小となる組合せが複数存在する場合は、当該組合せの中からランダムに決定します。
(B) 募集上限のない電源との比較
(a) 上記(A)で募集上限内電源となった「揚水式水力・蓄電池」、「既設火力の改修」と、「募集上限のないその他電源」を応札価格が低い電源から選定していき、合計応札容量が募集量(2023年度400万kW)未満となる電源までを落札候補とします。なお、合計応札容量と募集量が一致した場合は、募集量以下の電源が落札電源となります。
(b) 上記(a)で、募集量を跨ぐ電源(「限界電源」)がある場合、限界電源を落札とした場合の「超過量」が限界電源を非落札とした場合の「不足量」の10倍以下の場合は落札電源とします。一方、「超過量」が「不足量」の10倍を超過する場合は非落札とします。
(c) 上記(b)の結果、「揚水式水力・蓄電池」、「既設火力の改修」の募集上限内電源が非落札となり、募集上限内電源の合計応札容量が募集上限を下回る場合、非落札とされた電源以外を対象に再度上記(A)から実施します。
他方、上記(b)の結果、募集上限内電源の合計応札容量が募集上限を下回らなかった場合、非落札とされた電源以外を対象に再度上記(a)から実施します。
(C) 募集上限内電源に選定されなかった電源の追加落札処理
上記(A)及び(B)の結果、募集上限内電源及び募集上限のないその他電源の全電源が落札候補又は非落札となり、かつ、落札候補の合計応札容量が募集量未満となった場合、募集上限内電源とならなかった「揚水式水力・蓄電池」、「既設火力の改修」の応札価格が低い電源を募集量に達するまで落札とし(ただし、限界電源となる場合は、「超過量」が「不足量」の10倍を超過する場合は当該電源のみ非落札とする)、落札候補を落札電源とします。
上記のとおり、蓄電池は、「揚水式水力・蓄電池」の中で上限100万kWまでに入れば落札されるというわけではなく、まず募集上限内電源に入る必要があり、その上で、募集上限のないその他電源との間で応札価格の競争が行われることになる点、注意が必要です。
1-2 約定価格の決定方法
落札された電源の応札価格が約定価格となります(マルチプライス方式)。
1-3 約定結果の公表
広域機関は、応札受付期間終了時点から3か月後を目途に、脱炭素電源における落札電源ごとの、事業者名、案件名、電源種、落札容量を公表します(募集要綱9頁、31頁)。
容量確保契約の締結
落札後、容量提供事業者は、広域機関との間で、容量確保契約を締結します。契約期間は、約定結果の公表日から制度適用期間の末日までです(広域機関「長期脱炭素電源オークション 容量確保契約約款(2023.9)」(以下「約款」といいます。)4条1項)。
2-1 容量確保契約金額の算定
容量確保契約金額とは、容量確保契約に基づき、広域機関から容量提供事業者に対して支払われる年間の予定金額です。次の算式に基づき、契約期間中の年度(4月1日から翌年3月31日)ごとに、物価変動に応じて算定されます(約款6条1項)。
容量確保契約金額(各年)=契約単価×契約容量-約款18条に基づき調整不調電源に科される容量確保契約金額の減額
「契約単価」は、約定単価から、応札価格に含めた見積額を下回った分の系統接続費を差し引いた値(「【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション①】長期脱炭素電源オークションの概要と応札」の2-2-1-2をご参照願います。)に対し、応札年度前年と対象実需給年度前年の間の物価変動分を補正します(対象実需給年度前年の消費者物価指数(コアCPI)を、応札年度前年の消費者物価指数(コアCPI)で除して得られた値を乗算)。
調整不調電源については、「【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション③】リクワイアメントとペナルティ」の2-2-1をご参照願います。
容量確保契約金額(各年)を12で除して、円未満の端数を切り捨てて得られた金額が容量確保契約金額(各月)です。3月分の容量確保契約金額(各月)は、容量確保契約金額(各年)から、当月以外の容量確保契約金額(各月)の合計額を差し引いたものです(約款6条4項)。
2-2 各月の容量確保契約金額の支払・請求
対象実需給年度の9月(4月分の対価が9月に支払われます。)から翌年8月までの間、各月末日までに、容量確保契約金額(各月)から、対象実需給年度のペナルティ(約款21条)と、容量確保契約解除による契約解除の経済的ペナルティ(約款33条4項)を減じた金額が正値である場合、算定された金額が容量提供事業者に支払われ(約款7条1項)、負値であれば容量提供事業者が支払います(7条3項、4項)。
対象実需給年度のペナルティについては、「【系統用蓄電池と長期脱炭素電源オークション③】リクワイアメントとペナルティ」3-2をご参照願います。
契約解除の経済的ペナルティは、容量提供事業者が支払停止、倒産手続開始申立て等により容量確保契約を解除された場合(約款33条1項)や容量市場の公正を害する行為をしたとして解除された場合(同条2項)に、市場退出時の経済的ペナルティ(約款12条)のほか、契約解除となった年度において市場退出までに交付された容量確保契約金額を上限に科せられる場合があります(約款33条4項)。
2-3 容量確保契約の解約
容量確保契約については原則として解約は認められません(約款11条1項)が、以下の場合は、契約容量の全部又は一部の容量を市場退出として扱います(同項)。
(A) 契約電源による供給力の提供が不可能となり、市場退出を希望する場合(契約容量の全量又は一部)
(B) 提出すべき書類の未提出、提出した情報の不備、不足又は虚偽の場合(契約容量の全量)
(C) 属地一般送配電事業者(以下「属地TSO」といいます。)との給電申合書の期限までの未締結又は解約の場合(契約容量の全量)
(D) 属地TSOとの余力活用に関する契約の期限までの未締結又は解約の場合(契約容量の全量)
(E) 容量提供事業者の左右できない事由により、応札時点における接続検討回答書の系統接続費の最新の見積額(見積額よりも実際に応札価格に織り込んだ系統接続費が高い場合は、この系統接続費)よりも実際の工事費負担金が高くなることで経済性が悪化し、供給力提供開始前に辞退する場合(契約容量の全量)
(F) 契約電源が、応札年度の本オークション募集要綱の参加登録した事業者が登録可能な電源等に記載の要件を満たさない場合(契約容量の全量)
契約電源の契約容量の全量が市場退出した場合、容量提供事業者と広域機関は解約合意書を締結して、容量確保契約を合意解約により終了します(同条3項)。契約電源の全部又は一部(蓄電池の劣化に伴い一部市場退出する場合等(広域機関「容量市場 長期脱炭素電源オークション容量確保契約約款に関する意見募集に寄せられた意見および本機関回答」(以下「パブコメ回答(約款)」といいます。)51番))が市場退出する場合、以下の経済的ペナルティが科せられます(約款12条2項)。
・経済的ペナルティ=市場退出した電源の容量×契約単価×10%
(契約単価は、容量確保契約金額(各年)を契約容量で除したもの)
但し、上記(E)の事由により市場退出となった場合、不可抗力事由として、経済的ペナルティは科されません(約款12条2項)。また、天災地変や事後的な法令改正等の不可抗力事由により、コストが著しく上振れした場合は、経済的ペナルティを適用しない場合があります(約款29条1項、パブコメ回答(約款)37番)。他方、単に想定以上に建設費等が増加したことのみをもって不可抗力に該当し、市場退出の経済的ペナルティが免責されることはありません(同)。
他市場収益の還付
本オークションにおいては、運転開始後、他市場収益(卸電力市場、需給調整市場等での収益)を事業者の利益としてしまうと、固定収入として容量確保契約金額を得るほか、収入のアップサイドを制限なく享受することとなり不適切であるため、一定の還付が必要になるとしています(第八次中間とりまとめ21頁)。
3-1 還付割合
容量提供事業者は、応札時の本オークションに参加可能な設備容量(送電端)から生じる実際の他市場収入と、当該部分の設備容量(発電端)から生じる実際の可変費(蓄電に係る電力料金の一部等)(注)から算出される他市場収益がプラスである場合、他市場収益に以下に定める割合を乗じて得られた金額を広域機関に還付します(約款28条1項)。
(A) 応札価格に織り込まれている事業報酬(円/年)までの他市場収益:95%
(B) (契約単価×契約容量)と対象実需給年度における(容量市場メインオークション価格(契約電源が立地するエリアの約定価格)×契約容量)の差額を超える部分の他市場収益:85%
(C) (A)と(B)の間の他市場収益:90%
(広域機関「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2023年度)」(2023.9)79頁)
(注)充電に要する電力調達費用は、応札時に固定費(基本料金)と可変費の割合を決め、その比率に従って、応札価格に含める固定費と、他市場収益の計算における可変費にそれぞれ算入することが可能です(パブコメ回答(約款)197頁)。
3-2 他市場収益の監視
kWh収入(需給調整市場からの収入を含む)や非化石価値収入を相対契約で得ようとする場合、意図的に他市場収益を発生させずに還付を回避するという行為を防止する必要があります。このため、かかる契約締結時に、以下のいずれかの規律を満たしているか、監視等委員会の監視を受けることとなります。満たしていない場合、他市場収益の計算は、スポット市場の当該エリアプライスの単純平均価格と高度化法義務達成市場の単純平均価格の合計額を基に行われます。(ガイドライン11頁以下)
- 内外無差別規律
社内外、グループ内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に電力販売を行い決定された価格であること - 市場価格規律
市場価格の水準以上であることを基本として設定した価格であること
以上
Member
PROFILE