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【中国】実施細則・審査基準改正(2023.12.21)-1特許期間調整
2024.01.05
本改正の概要
中国国務院は、2023年12月21日、専利法実施細則の改正条文を公表しました。また、同日、中国国家知的財産局(CNIPA)は、専利審査基準の改正内容を公表しました。
この実施細則及び審査基準の改正は、2021年6月1日から施行されている第4回改正専利法に対応したものであり、長期に渡り、正式な改正内容の公表が待たれていたものです。
先日の実施細則改正内容の速報に続き、本稿では、改正専利法で導入されたものの、運用の詳細が不明となっていた特許期間調整(PTA)制度について、改正後の専利法、実施細則、審査基準、及び、同日に公表された「改正後の専利法及び実施細則の施行に関連する審査業務処理に関する過渡弁法」の内容を総合し、関連する規定の全体像をご紹介します。
特許期間調整制度の概要
特許期間調整制度については、2021年6月1日に施行された改正専利法第42条第2項において、以下のように規定されています。
専利法 第42条第2項:
発明専利の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門は、専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与過程における不合理的な遅延について専利権存続期間の補償を与えるが、出願人に起因する不合理な遅延は除く。
これは、米国のPTA(Patent Term Adjustment)及び日本の特許権の存続期間の延長制度(特許法第67条第2~3項)に対応する制度です。中国知的財産局(上記条文では「国務院専利行政部門」と記載)は、審査の遅延により登録の遅れた特許権に対し、審査のために登録が遅れた日数に相当する期間だけ、特許権存続期間の延長を認めることが規定されています。なお、改正実施細則第78条によれば、いわゆる特実同日出願制度を利用して取得された特許権については、本制度による調整の申請を行うことができません。
特許期間調整の申請方法
改正実施細則第77条の規定によれば、特許期間の調整を受けるには、特許権の設定登録の日から3カ月以内に出願人が申請書を提出する必要があります。過渡弁法第13条第1項によれば、この際にオフィシャルフィーの納付が必要です。ただし、このオフィシャルフィーの金額はまだ公表されておらず、過渡弁法第13条第4項によれば、オフィシャルフィー金額の公表前に提出された申請については、金額公表後の指定期間内にオフィシャルフィーを納付できるとのことです。
また、審査基準改正案によれば、共同出願の場合には、代表者が申請することができます。ただし、共同出願の場合を含め、代理人を選任している場合には、代理人が特許期間調整の申請を提出しなければなりません。
延長期間の計算方法
(1)基準日の設定
専利法第42条第2項によれば、「発明専利の出願日から起算して満4年、かつ実体審査請求日から起算して満3年後に発明専利権が付与された」場合に特許期間調整が適用されます。ここでいう「出願日」は、「優先日」ではなく「出願日」を意味します(専利法実施細則第11条)。ただし、改正審査基準によれば、PCT国際出願から中国国内移行した出願の「出願日」は中国国内移行日、分割出願の「出願日」は分割出願の出願日を指します。また、出願公開前に実体審査請求がなされた場合の「実体審査請求日」は、出願公開日を指すと規定されています。よって、これらの規定に従った、各出願の「出願日」から起算して満4年の日、及び「実体審査請求日」から満3年の日をそれぞれ求め、そのいずれか遅い方の日が、「基準日」となります。
(2)控除期間について
専利法第42条第2項では、「発明専利の権利付与過程における不合理的な遅延について専利権存続期間の補償を与えるが、出願人に起因する不合理な遅延は除く」と規定されています。
これについて、改正実施細則第78条では、存続期間の延長が認められる期間は、上記(1)で算出された基準日から設定登録の日までの日数から、「合理的な遅延の日数」及び「出願人に起因する不合理な遅延の日数」を控除(減算)した期間であると規定されています。
改正実施細則第78条によれば、このうちの「合理的な遅延の日数」は、以下の通りです。
1)拒絶査定不服審判請求時に補正を行い、その後に特許査定となった場合の、不服審判手続きに要した期間
2)特許権の帰属に関する紛争が発生し、国家知的財産局(CNIPA)による調停又は人民法院による訴訟のために関連手続きの中止を申請した期間、及び特許民事訴訟のために人民法院による保全措置を受けた期間
3)その他の合理的な状況に起因する遅延
また、改正実施細則第79条、及び改正審査基準の規定によれば、「出願人に起因する不合理な遅延の日数」は以下の通りです。
1)庁通知への応答期限を延長した場合の本来の指定期限日から実際の応答日までの期間
2)遅延審査を請求した場合の実際の遅延期間
3)優先権基礎出願の援用による補充により生じた遅延期間
4)権利回復措置を請求した場合の本来の期限日から権利回復を認める通知の発行日までの期間
5)優先日から30カ月以内に国内移行したPCT出願について出願人が早期処理(Early Processing)を請求しなかった場合の、国内移行日から優先日の30カ月経過後の日までの期間
(3)延長期間の計算方法
以上より、延長期間の算定には、まず上記(1)の基準日を決定し、基準日から設定登録の日までの日数を求めた上で、そこから、(2)で規定された控除期間を減算します。ここで、減算後の日数が0又はマイナスになる場合には、特許期間調整の申請はできないことになります。
特許期間調整申請の審査
申請の審査について、改正実施細則第84条には、国家知的財産局(CNIPA)が申請を審査した上で、条件を満たすと判断した場合には登録及び公告を行い、条件を満たさないと判断した場合には権利者に通知すると規定されています。また、改正審査基準によれば、国家知的財産局(CNIPA)が申請条件を満たすと判断した場合には、申請者に延長される日数を含む通知書が発行され、条件を満たさないと判断した場合には、権利者にその旨を通知し、少なくとも1回の意見陳述・補正の機会を与えるとされています。
更に、国家知的財産局(CNIPA)は2023年12月21日付にて「特許期間調整及び特許解放式許諾に関する行政復議事項の公告」を出しており、それによれば、権利者は特許期間調整を行うか否かに関する決定に異議がある場合、更に、知的財産局(CNIPA)に対し行政復議の提起が可能とされています。
一方、2021年6月の改正専利法施行時に知的財産局から公表され、現在まで使用されている特許期間調整の申請用紙には、特許番号、発明の名称、及び特許権者を記入する欄のみが設けられており、調整を求める期間の日数を記入する欄はありません。
従って、現行の申請方法が継続される場合、延長期間は国家知的財産局(CNIPA)により計算及び決定され、期間調整が認められた場合に、日数について権利者が不服を申し立てる機会は設けられていないようです。
コメント
特許期間調整制度については、2021年6月の改正専利法施行後、約2年半にわたり、延長期間の計算方法や申請費用等が不明な状況が続いていました。その間、特許権者としては、期間延長の対象となる可能性がある特許について、とりあえず申請書を提出しておく以外に選択肢がない状況でした。
今般の実施細則・審査基準改正内容の公表では、延長期間の計算方法が明確となり、また申請時にオフィシャルフィーの納付が必要なことも明らかになりました。オフィシャルフィーの金額は追って公表され、既に提出されている申請については、公表後の指定期間内にオフィシャルフィーを納付した申請のみが、正式受理されることになるものと考えられます。
特許期間調整の申請に対する実際の審査は未だ始まっていないため、期間延長が認められる場合に、延長期間がどのように算定され、どの程度の詳細が出願人に通知されるか等は不明です。しかしながら、対象となる特許権の判断基準が明らかになったことは、制度利用者にとって大きな前進と言えます。
とは言え、近年、中国知的財産局の特許審査期間は短縮の一途をたどっており、2022年の平均審査期間は16.5カ月でした。この点を考えると、特許期間調整の対象となる特許は、今後かなり限定されていくことが予想されます。
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