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【自己託送】自己託送の要件の厳格化
2024.01.05
自己託送においては、他者が開発・設置した発電設備の貸与(リース)を受け、需要家が当該設備の名義上の管理責任者となって自己託送を行うケースや、一括受電を通じて各テナントに供給するケースが増加しています。これに対し、自己託送の要件が厳格化され、需要家が原則、発電設備を所有すること、電力の供給を受けるテナントにも自己託送を実施する需要家との間に密接な関係性等があること、が求められるようになります。
資本関係等がない第三者に自己託送を行うスキームとして組合型が認められていますが、その要件についても明確にする必要があると考えられます。
自己託送とその要件の厳格化
自己託送とは、太陽光発電設備等の非電気事業用電気工作物を維持し、及び運用する他の者(需要家(需要家と密接な関係を有する者を含む。))から、一般送配電事業者が、当該非電気事業用電気工作物の発電に係る電気を受電し、同時に、その受電した場所以外の場所において、当該需要家に対して、当該需要家があらかじめ申し出た量の電気を供給すること(当該需要家又は当該需要家と密接な関係を有する者の需要に応ずるものに限る。)をいいます(電気事業法第2条第1項第5号ロ)。
発電設備を「維持し、及び運用する者」については、従来、発電設備を所有することは必要とされておらず、発電設備の維持運用業務について一義的な責任及び権限を有していれば足りると解されています。電源の所有及び機器の操作は子会社が担い、日々の発電計画の作成等の意思決定を親会社が行っている場合は、親会社が「維持し、及び運用する者」に当たると解されています(経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部 産業保安グループ編「2020年度版電気事業法の解説」(2021、経済産業調査会)83-84頁)。
2023年12月26日の第68回電力・ガス基本政策小委員会において、自己託送の要件の厳格化が審議されました。
1-1 発電設備の所有に係る要件
小委員会の資料(資料3の11頁)では、以下のように記載されています。
① 自己託送は、需要家が保有する自家用発電設備による余剰電力の有効活用を目的としたものである。
② 最近は、他者が開発・設置した発電設備の貸与(リース)を受け、需要家が当該設備の名義上の管理責
任者となることにより、自らの需要に応ずる電気を送電するものとして自己託送を利用している場合が
ある。
③ 他者が開発・設置した発電設備の譲渡(自社で開発投資を行い、発電設備の完工に伴って請負契約等に
基づく所有権の移転が行われる場合を除く)又は貸与(所有権移転型リース契約を含む)等を受けて、
名義上の管理責任者となるような場合は、自己託送の対象ではないことを明確化することが考えられる
のではないか。
1-2 電気の最終消費者に係る要件(テナント需要家への供給)
小委員会の資料(資料3の15頁)では、以下のように記載されています。
① 最近は、需要場所における受電設備を保有していること等をもって自身の需要とみなし、需要場所内で
テナント等の他者に電気を供給(融通)する形式をとり、従前から設定されている密接な関係性要件を
満たしていない当該他者が実体的に電気の最終消費者となっている場合がある。
② 一の需要場所内における電気のやり取りを行うことそのものについては、いわゆるマンション一括受電
等の供給形態が認められているように、現行の電気事業法においては否定されるものではない。
③ 自己託送においては、従前から設定されている密接な関係性要件を満たしていない他者への電気の供給
(融通)を実体的に認めることは、制度趣旨等に反するものであり、このようなケースを認めないこと
には一定の合理性があるのではないか。
④ したがって、自己託送の活用に当たっては、一の需要場所内で他者に電気を供給(融通)する場合に
は、当該他者にも自己託送を実施する需要家との間に密接な関係性等の要件を求めることとしてはどう
か。
1-3 対象案件・適用時期
発電設備の系統連系の手続中(特別高圧・高圧:接続検討申込後、低圧:契約申込後)においては、検討料等が発生します。このため、新たな要件を適用する時点で、自己託送を前提に系統連系の手続中の状態に達していない案件(既存の自己託送における接続供給契約の変更(発電設備の増設等)を含む。)については、厳格化後の要件を適用する対象としてはどうか、としています(小委員会の資料(資料3の17頁))。
また、厳格化後の要件の適用開始時期については、駆込み案件の増加による実務的な混乱を防ぐため、2023年12月末までに系統連系手続を行っていない案件とするのが適当ではないか、としています(小委員会の資料(資料3の17頁))。
今後、「自己託送に係る指針」の改正に向けた所要の手続を進める(小委員会の資料(参考資料2の1頁)によれば、「令和6年2月12日改正」とあります。)とともに、令和6年1月1日以降、改正後の指針が施行されるまでの期間において、一般送配電事業者において、自己託送における接続供給契約の新規申込みの受付を停止することとしてはどうか、としています(小委員会の資料(資料3の19頁))。
密接関係性と組合
上記1のとおり、需要家と「密接な関係を有する者」が維持し、及び運用する発電設備(非電気事業用電気工作物)からの供給も自己託送に含まれますが、密接な関係を有する者としては、以下の者が挙げられます(電気事業法施行規則第2条)。
① 生産工程における関係、資本関係、人的関係等を有する者
② 取引等(前号の生産工程における関係を除く。)により一の企業に準ずる関係を有し、かつ、その関係
が長期にわたり継続することが見込まれる者
③ 共同して設立した組合の組合員である者
③においては、資本関係等のない全くの第三者が維持し、及び運用する発電設備からの電気を自己託送することができ、組合型と呼ばれています。
2-1 組合型
組合型の自己託送に関する要件は、以下のとおりです(電気事業法施行規則第2条第3号、第3条第1項第3号)。
① 非電気事業用電気工作物を維持・運用する者と需要家が共同して設立した組合が、長期にわたり存続す
ることが見込まれ、かつ、組合契約書に次に掲げる事項が定められていること
イ 非電気事業用電気工作物の発電又は放電に係る電気の供給に係る料金(当該料金の額の算出方法を
含む。)
ロ 電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用の負担に関する事項
② 発電設備(非電気事業用電気工作物)が、当該組合員である者が維持し、及び運用するものであること
③ 発電設備(非電気事業用電気工作物)が、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第
2条第2項で定める再生可能エネルギー発電設備(同条第5項で定める認定発電設備を除く。)その他原
油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品以外のエネルギー源を電気に
変換する設備及びその附属設備であること
④ 発電設備(非電気事業用電気工作物)が、当該組合の組合員の需要に応ずるための専用の設備として新
たに設置するものであること
さらに、特定供給との関係で、以下に定める需要「に応じ電気を供給するための発電等用電気工作物により電気を供給するとき」に該当する必要があります(電気事業法第27条の33、電気事業法施行規則第45条の22)。
(a) 専ら一の建物内の需要
(b) 柵、塀等の客観的な遮断物によって明確に区画された一の構内(このような一の構内が、複数で隣接
していて、それぞれの構内において営む事業の相互関連性が高いものを含む)の需要
つまり、需要家である組合員が複数、又は、需要場所が複数である場合は、特定供給に当たり、経済産業大臣の許可が必要になります。また、特定供給においては、自らが維持し、及び運用する電線路(自営線)を介して電力を供給する必要があります(電気事業法施行規則第45条の24第3号)。
2-2 組合契約とは
組合型においては組合契約(民法第667条)を締結することになります。組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約するもので、これにより、各当事者を構成員(組合員)とする組合という団体が成立します。
組合は、その名前で契約することができ、財産を取得することもできます。組合財産は、総組合員の共有に属します(民法第668条)が、組合員は組合財産についてその持分の処分をしても組合や組合と取引をした第三者に対抗することはできず(民法第676条第1項)、清算前に組合財産の分割を求めることもできません(同条第3項)。
2-3 組合という団体がどのような役割を果たすか
組合という団体を組成するものの、法令上、この団体が電力の供給にどのように関与するか、その役割が明確ではありません。太陽光発電設備等の非電気事業用電気工作物を維持・運用しているのは組合ではなく、組合員であると定めています。(電気事業法施行規則第2条第3号)。
また、組合契約で料金や費用負担について記載するとしています(同号イ・ロ)が、組合が電力供給に関わらないのであれば、この組合契約は電力供給契約と変わりがないことになります。実質的に電力供給契約を締結しているのに過ぎないのに、密接な関係があるといえるのか明確ではありません。組成された組合が、非電気事業用電気工作物を保有し又は借り受けるなど、電力供給にどのように関与するのかを法令上明確にすることが求められるように思われます。
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