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【中国】事業者集中申告基準について
2024.02.08
2024年1月22日、中国国務院は「国務院による事業者集中申告基準に関する規定(2024年改正)」[1](以下「新規定」といいます。)を公布し、同日付けで施行されました[2]。
中国における事業者集中の申告基準は2008年8月1月に独占禁止法(以下「独禁法」といいます。)が施行されたのに合わせ、同年8月3日に初めて公布、施行されました(以下、2008年に施行された申告基準を「旧規定」といいます。)。
旧規定は、2018年に一度改正がされていますが、事業者集中の申告基準(以下、単に「申告基準」といい、旧規定における申告基準を「旧申告基準」、新規定における申告基準を「新申告基準」といいます。)は改正されていませんでした。2022年6月に改正独占禁止法が公布されたことに合わせ、申告基準についても改正の動きを見せ、2022年6月に旧規定の改正草案意見募集稿が公表されましたが、新規定は当該意見募集稿を踏まえて制定されたことになります。
新申告基準では、申告基準の変更に加え、申告基準に達していないものの競争を排除または制限する可能性のある事業者集中に対して、国務院独占禁止執行機関が積極的に申告を要請できることが明確にされており、より効率的かつ透明性のある市場競争環境を構築することに貢献すると期待されています。
以下では、新規定及び新申告基準の主な内容とそれが事業者集中申告に及ぼす影響について解説します。
事業者集中の状況
まず、前提として事業者集中とは、主に以下の状況を指します[3]。
①事業者の合併
②事業者が持分または資産取得の方式で他の事業者に対する支配権を取得すること
③事業者が契約などの方式で他の事業者に対する支配権を取得するか、または他の事業者に決定的な影響を及ぼすことができること。
事業者集中申告基準
事業者集中が以下の申告基準を満たす場合、事業者は事前に国務院独占禁止執行機関に申告する必要があり、申告されていない場合は集中を実施することができないとされ[4]、新申告基準では旧申告基準に比べても基準となる売上高基準が大幅に引き上げられています。
旧申告基準(2008年) |
新申告基準(2024年) |
集中に参加する全ての事業者の前会計年度の全世界における売上高の合計が100億人民元を超え、かつそのうち少なくとも2つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超えること[5]。 |
集中に参加する全ての事業者の前会計年度の全世界における売上高の合計が120億人民元を超え、かつそのうち少なくとも2つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも8億人民元を超えること[6]。 |
集中に参加する全ての事業者の前会計年度の中国国内における売上高の合計が20億人民元を超え、かつ、そのうち少なくとも2つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高いずれも4億人民元を超えること[7]。 |
集中に参加する全ての事業者の前会計年度の全世界における売上高の合計が40億人民元を超え、かつそのうち少なくとも2つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも8億人民元を超えること[8]。 |
上記のように、申告基準となる売上高基準が大幅に引き上げられたことにより、事業者集中に係る申告件数と企業の取引コストを軽減し、審査機関の審査効率を向上し、リソースを重大、複雑な案件に集中的に割けるようになることが期待されています。
競争を排除もしくは制限する場合の申告
独禁法は2022年改正において、申告基準に達していないものの、競争を排除または制限し、又はその可能性があることを証拠によって証明できる取引については同じく申告が必要とされ、また、このように申告が必要であるにもかかわらず申告がされていない場合には、審査機関が申告を要求できるとされたと共に、申告がされない場合には調査を行う権限が新たに定められました[9]。新申告基準もこれに対応して独禁法と同様の規定を定めました[10]。
なお、旧規定においては、申告基準に達しないものの、競争を排除又は制限し、又はその可能性があることを証明する証拠について、「規定の定めにしたがって収集した事実及び証拠」であることが必要とされており[11]、この定めからすると、当該証拠は審査機関が法定の手続にしたがって収集したものであることが想定されていたといえますが、新規定ではそのような限定を削除しています。その意味では、各種報道や通報、開示情報といった情報、証拠も根拠とすることが可能となりますので、申告基準に達しない事業者集中を行う事業者においては、各種の情報や資料も踏まえたうえで、当該集中行為に競争を排除、制限する可能性がないかを評価することが必要と考えられます。
なお、新申告基準の意見募集稿においては、申告基準に達しない取引であっても、①事業者集中に参加する事業者の前会計年度の中国国内における売上高が1000億人民元を超え、②買収をされる事業者の市場価値又は評価価値が8億人民元を下回らず且つ前会計年度における中国国内での売上高が全世界における売上高の3分の1以上を占める場合には、事業者集中の申告なく事業者集中をしてはならない旨が定められていました[12]。
これは、主として中国国内の大企業が、成長の可能性、見込みがあるものの申告基準に達するほどの売上のないスタートアップ企業を買収するようなケースを想定したものですが、新規定において最終的に当該規定は削除されています。
適用時期
新規定は2024年1月22日から施行されるため[13]、1月22日以降の取引は新申告基準に基づいて中国国内での事業者集中の申告が必要か否かを評価すれば足りるといえます。他方、1月22日以前に既に取引契約が締結され、旧規定及び旧申告基準に基づいた申告を行ったが未だ審査機関による決定等がされていない取引に関して、どのような処理をすることになるかについては明確な定めがありません。
そのため、上記のようなケースに該当する事業者においては、審査機関と対応方法を協議することが望ましいと考えられます。
Authors:
包城 偉豊
席 修挙
[1] 「国务院关于经营者集中申报标准的规定(2024修订)」
[2] https://www.gov.cn/zhengce/content/202401/content_6928387.htm
[3] 独禁法第25条、新規定第2条
[4] 独禁法第26条第1項、新規定第3条
[5] 旧規定第3条第1項
[6] 新規定第3条第1項
[7] 旧規定第3条第2項
[8] 新規定第3条第2項
[9] 独占禁止法第26条第2項、第3項
[10] 新規定第4条、第5条
[11] 旧規定第4条
[12] 新規定意見募集稿第4条
[13] 新規定第7条
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