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【ヘルスケア】再生医療等安全性確保法の改正について
2024.02.16
はじめに
再生医療等安全性確保法は、再生医療等技術の安全性の確保等に関する措置等を定めた法律として、平成26年11月25日に施行されました。
同法の附則2条では、①法施行後5年以内に、法の施行状況、再生医療等を取り巻く状況の変化等を勘案し、法の規定に検討を加える旨、及び、②必要があると認められるときは、当該検討の結果に基づいて所要の措置を講じる旨が定められています。
上記の定めを受けて、厚生科学審議会再生医療等評価部会では、令和元年7月から法の施行状況等の検討を始め、令和元年12月25日には「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討の中間整理」を、令和4年6月3日には「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」を公表しています。
さらに、令和6年1月17日に開催された再生医療等評価部会では、「再生医療等安全性確保法の見直しについて」と題する資料が公表され、いよいよ、令和6年1月に召集された第213回国会に、再生医療等安全性確保法の改正法案が提出されると推測されます。
そこで、本稿では、再生医療等安全性確保法の改正に関して、①どのような点が改正される見込みであるのか、及び、②法改正のスケジュールの見込みについて、概要をご紹介します。
なお、本稿の意見にわたる部分は執筆者の個人的見解であり、当事務所及び厚生労働省その他の機関の公式見解・方針を示すものではありません。また、説明の分かり易さの観点から、引用する条文等について、適宜省略している部分があります。あらかじめご了承ください。
再生医療等安全性確保法の改正点(見込み)
1.法改正事項について
本稿執筆時点で、再生医療等安全性確保法を改正する法案は公表されていません。もっとも、具体的な改正点については、令和6年1月17日の第91回再生医療等評価部会における公表資料が参考となります。
【出典】厚生労働省の再生医療等評価部会に係るウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001191348.pdf)
上記の資料によれば、今般の再生医療等安全性確保法の法改正事項は、以下の3点です。
① 細胞加工物を用いない遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)に対する規制の検討 |
以下では、各法改正事項の概要をご紹介します。
2.法改正事項①の概要について
現行の再生医療等安全性確保法は、「再生医療等」をその適用対象としているところ、「再生医療等」とは、「再生医療等技術を用いて行われる医療(中略)をいう。」とされています(同法2条1項)。
また、「再生医療等技術」とは、人の疾病の治療又は予防の医療等に用いられることが目的とされている医療技術であって、「細胞加工物を用いるもの」と定められています(同条2項)。
そして、「細胞加工物」とは、「人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの」をいうとされています(同条4項)。
つまり、現行の再生医療等安全性確保法は、人や動物の「細胞」を人に投与・移植する場合に適用されるとされており、遺伝子治療に関していえば、遺伝子を改変した細胞を人の体内に投与する、あるいは、遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与するといった、いわゆるex vivo遺伝子治療のみが適用対象とされています。
これに対して、遺伝子そのものを人の体内に投与する、あるいは、特定の塩基配列を標的として人の遺伝子を改変するといった、人又は動物の「細胞」が介在しない、いわゆるin vivo遺伝子治療については、再生医療等安全性確保法の対象とはされていません。
しかしながら、人又は動物の「細胞」が介在しない、いわゆるin vivo遺伝子治療であっても、再生医療等安全性確保法が適用されるex vivo遺伝子治療と同等、同種のリスクがあると考えられます。
再生医療等安全性確保法が施行された平成26年当時は、広く実施はされていなかったin vivo遺伝子治療技術ですが、昨今では脊髄性筋萎縮症という致死的な神経難病に対してゾルゲンスマⓇという遺伝子治療用製品が製造販売承認を取得したことなどにもあらわれているように、in vivo遺伝子治療技術が発展し広く普及することが想定されることから、今般、再生医療等安全性確保法の適用範囲を拡大し、安全性の確保をした上で、普及の促進を図ることとしたものと思われます。
なお、再生医療等安全性確保法は、研究だけでなく、治療についても、その適用範囲に含んでいる法律です。
したがって、法改正後は、研究としてin vivo遺伝子治療を行う場合だけでなく、治療としてin vivo遺伝子治療を行う場合も、提供計画を作成して認定再生医療等委員会の審査を受けるなどの対応が必要となりますので、現在in vivo遺伝子治療を提供している医療機関は、改正法や改正法の委任を受けた省令の改正を注視する必要があるでしょう。
因みに、今般の法施行後5年後見直しでは、in vivo遺伝子治療だけでなく、その関連技術についても法の適用範囲に含むことを検討するとされ、ワーキンググループ等で法の適用範囲とする関連技術の具体化についても議論がなされており、「ゲノム編集技術を応用した技術」や「mRNAを利用した技術」は、再生医療等安全性確保法の適用対象に加えられる見込みです。
そのため、in vivo遺伝子治療に関連した技術を用いた治療・研究を行う医師・研究者等においても、再生医療等安全性確保法における規制の範囲については、十分に注意する必要があると思われます。
3.法改正事項②の概要について
認定再生医療等委員会とは、再生医療等技術や法律の専門家等の有識者からなる合議制の委員会で、一定の手続により厚生労働大臣の認定を受けたものをいいます(再生医療等安全性確保法26条参照)。リスクの程度が比較的低いと考えられる第3種再生医療等は、再生医療等提供計画について認定再生医療等委員会の審査を受ける必要があります。
また、認定再生医療等委員会のうち、特に高度な審査能力や第三者性を有するものを特定認定再生医療等委員会といい、リスクの程度が比較的高い第1種再生医療等及び第2種再生医療等は、再生医療等提供計画について特定認定再生医療等委員会の審査を受ける必要があります(再生医療等安全性確保法7条及び11条)。
認定再生医療等委員会及び特定認定再生医療等委員会は、再生医療等提供計画について意見を求められたときは、その提供の適否及び提供に当たって留意すべき事項について意見を述べることとされ、再生医療等の安全性を確保する中心的な役割を担っています。
しかしながら、本稿執筆時点で、認定再生医療等委員会は87委員会が、特定認定再生医療等委員会は77委員会が認定を受けており、これだけ多数の委員会があれば当然ともいえますが、その審査の時間や質にバラつきが生じているというのが実態です。
再生医療等安全性確保法の目的に鑑みれば、どの委員会で審査を受けたとしても一定の安全性の確保がなされる必要があります。ところが、現行の再生医療等安全性確保法には、審査の質を一定とする前提として各委員会の審査の状況を把握するための、立入検査等を行う規定がありませんでした。
そこで、委員会の審査の質のバラつきをなくし、どの委員会で審査を受けたとしても一定の安全性が確保できるよう、認定再生医療等委員会に対する立入検査等の規定が追加されるものと思われます。
また、法改正とあわせて、認定再生医療等委員会の適切な審査業務等を確保するために、一定のガイダンスが示されるとのことであり、各認定再生医療等委員会においては、当該ガイダンスに沿った審査を実施することができるよう、体制の見直しなどが必要となるでしょう。
4.法改正事項③の概要について
再生医療等製品を人に対して用いることにより、当該再生医療等製品の有効性又は安全性を明らかにする研究は、臨床研究法上の「臨床研究」に該当します(臨床研究法2条1項)。
また、「臨床研究」のうち、承認を受けていない再生医療等製品を用いる場合や、承認を受けた再生医療等製品を承認に係る用法・用量等と異なる用法・用量等で用いる場合は、「特定臨床研究」に該当します(同条2項2号ホ及びヘ)。
しかしながら、こうした臨床研究のうち、再生医療等製品を用いることが再生医療等安全性確保法上の再生医療等に該当する場合については、臨床研究法の第2章が適用されないこととされています(同法22条)。
つまり、再生医療等製品を人に対して用いる研究のうち、再生医療等に該当する場合は主に再生医療等安全性確保法が、再生医療等に該当しない場合は臨床研究法が適用されるよう、棲み分けがなされていました(なお、再生医療等に該当する場合でも、臨床研究法の第4章等は適用されます。)。
こうした中で、臨床研究法に関して、再生医療等製品を承認に係る用法・用量等と異なる用法・用量等で用いる場合であっても、既承認の用法・用量等とリスクが同程度のものについては、特定臨床研究の範囲から除外する旨の法改正が検討されています。
すなわち、「物」の有効性・安全性を明らかにすることを目的とした研究については、そのリスクの程度が低いことに鑑みて、臨床研究法における特定臨床研究からは外れることとなります。
そこで、リスクの程度が同程度と考えられる、「医療技術」の科学的妥当性・安全性を明らかにすることを目的とした研究についても、再生医療等安全性確保法による規制対象からは外れるように改正するものと考えられます。
再生医療等安全性確保法の改正スケジュール(見込み)
法律案は、憲法に特別の定めがある場合を除き、衆議院及び参議院の両議院で可決されたときに成立し、後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されます。
「公布」は、成立した法律を一般に周知させるものであり、法律の効力が現実的に発動し、作用することとなる「施行」がいつ行われるかは、その法律の附則で定められることとなります。
令和6年1月に召集された第213回国会において、再生医療等安全性確保法の改正法が成立した場合も、その時点から改正法が効力を有するのではなく、公布の日から1年~2年を超えない範囲内で、政令で定める日から効力を有する(施行される)と考えられます。
法改正が行われた場合、当該改正された法律に従った運用を行うため、改正法の施行までに、施行規則や解釈通知が策定されることが一般的です。
再生医療等安全性確保法が改正されると、in vivo遺伝子治療を法律の適用範囲に含むこととなり、再生医療実務に大きな影響が生じ得るため、改正法の施行と同時に適切なin vivo遺伝子治療の提供が行われるよう手続面を整備する必要があります。そのため、改正法の施行日までに、in vivo遺伝子治療技術のリスクの内容に応じた再生医療等提供計画の作成、認定再生医療等委員会の審査等の手続等を定めた施行規則、解釈通知が策定されるでしょう。
また、再生医療等評価部会では、今般の法改正事項以外にも、様々な項目について検討しており、以下の赤枠で囲った部分については、施行規則や解釈通知によって実現されると考えられます。こうした施行規則や解釈通知の策定は、法改正事項の運用面を定める施行規則や解釈通知の策定と同時期に実施されることが多く、再生医療等安全性確保法についても、法改正事項とならなかった検討事項は、改正法の施行日までに、施行規則や解釈通知によって実現されると思われます。
【出典】厚生労働省の再生医療等評価部会に係るウェブサイト(000946672.pdf (mhlw.go.jp))
以上
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