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【米国】【商標】第15条宣誓書における虚偽の宣誓が商標登録の取消の根拠にならないと判断した事件(Great Concepts Management Group v. Chutter, Inc.)
2024.02.19
はじめに
2023年10月、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、Great Concepts Management Group v. Chutter, Inc.(注1)において、商標登録の取消事由を規定するランハム法第14条の解釈に関して、新たな判決を下しました。本判決では、商標登録の不可争性を取得するために提出された宣誓書に虚偽の宣誓が含まれる場合であっても、商標審判部 (TTAB)は、その商標登録を取消すことはできないと判断されました。これまでとは異なる見解が示されたこともあり、今回の判決には注目が集まっています。
事案の概要
控訴人であるGreat Concepts, LLC(以下、「Great Concepts」といいます。)は、2005年に、指定役務「steak and seafood restaurant」について商標「DANTANNA’S」の商標登録(Reg. No. 2929764)を取得しました。2006年、被控訴人であるChutter, Inc.(以下、「Chutter」といいます。)は、TTABに対して、この商標登録の取消を請求しました(注2)。その理由は、自らがレストランサービスに使用している商標「DAN TANA」と混同を生じる可能性があるというものでした。また、Chutterは、ジョージア州北部地区において、商標権侵害を理由に提訴しました(注3)。これらの事件がともに係属しているタイミングで、Great Conceptsは、商標登録の維持のために要求されるランハム法第8条(注4)に規定される宣誓書(以下、「第8条宣誓書」といいます。)と商標登録の不可争性を得るために要求されるランハム法第15条に規定される宣誓書(以下、「第15条宣誓書」といいます。)を米国特許商標庁に提出していました。この第15条宣誓書には、「米国特許商標庁や裁判所のいずれにおいても、当該権利に関する係争中の手続きはなく、最終的な決定もない」との虚偽の宣誓が含まれていました。それにも関わらず、Great Conceptsの弁護士は、その内容に充分な注意を払うことなく、この第15条宣誓書に署名し、提出しました。
2015年、Chutterは、再び、TTABに対して、Great Conceptsの商標登録の取消を請求しました。その理由は、Great Conceptsの提出した第15条宣誓書は虚偽(Fraud)であるというものでした。TTABは、この請求を認め、ランハム法第14条に基づき、Great Conceptsの商標登録を取り消しました。このTTABの決定を不服として、Great ConceptsがCAFCに控訴したのが本件です。
ランハム法第14条と第15条について
ランハム法第14条は商標登録の取消事由を規定しています。例えば、商標が普通名称化している場合、商標が機能的である場合、商標権が放棄されている場合、虚偽によって商標登録が取得された場合には、いつでもその商標登録を取り消すことができるとされています。
ランハム法第15条は商標登録の不可争性を規定しています。具体的には、登録から5年を経過した場合、特定の要件を満たすことを条件として、その商標登録は不可争性を取得することができます。商標権者は、「米国特許商標庁や裁判所のいずれにおいても、当該権利に関する係争中の手続きはなく、最終的な決定もない」等の宣誓を含む第15条宣誓書を提出する必要があります。この第15条宣誓書は、第8条宣誓書と組み合わせてひとつの書面として提出することもできます。この不可争性が取得されると、それ以降は、限定的な事由でしか、その商標登録の有効性が争えなくなります。
CAFC判決の内容
CAFCは、本件の争点として、商標登録の不可争性を得ることを目的として虚偽の第15条宣誓書を提出した場合に、TTABが、ランハム法第14条を根拠に、商標登録を取り消すことが許されるか否かを判断する必要があるとしました。
この点、まず始めに、CAFCは、長年、TTABがそのような取消の権限を有していると解釈されており、また、実際に、本件でもGreat Conceptsの商標登録が取り消されたことを指摘しています。
そのうえで、CAFCは、ランハム法第 14 条の文言を重視し、虚偽により「商標登録が取得」された場合にその商標登録の取り消しを求めることを認めるもので、虚偽により「不可争性が取得」された場合に商標登録の取り消しを認めるものではないと判断しました。そして、CAFCは、「不可争性」と「商標登録」は別の権利であり、第15条宣誓書の提出することで得られたのは「不可争性」であり、「商標登録」の取得には寄与していないとも指摘しました。
また、CAFCは、Chutterによる2つの主張の適否についても検討しています。Chutterは、Great Conceptsは適切な法的解釈の議論を行えていないと主張していました。この点について、CAFCは、Great Conceptsはその準備書面において論文を引用しつつ、ランハム法第 14 条の解釈についての適切な議論を行っているとして、Chutterの主張を認めませんでした。また、本件は、第8条宣誓書と第15条宣誓書とが組み合わされた書面で提出されていることから、商標登録の維持に必要な第8条宣誓書の問題として議論すべきであるとの主張については、第8条宣誓書自体には虚偽は含まれていないとして、認めませんでした。
このような判断のもと、CAFCは、TTABの決定を取り消し、Great Conceptsが不可争性を享受するべきか否か、また追加の制裁が妥当であるかどうかを検討すべきとして、事件を差し戻しました。
なお、反対意見は、過去の判例と一致すること、法の目的に適合すること、商標制度を保護する観点、公共の利益を保護する観点の4つの理由で、TTABの決定を支持しています。
コメント
ランハム法第14条を文言どおり解釈するならば、今回の判決には首肯できます。また、第15条宣誓書における虚偽の宣誓に対する制裁として検討すべきは、「商標登録」そのものではなく、「不可争性」を限度とする解釈にも、享受される利益と課される制裁のバランスの観点からは、妥当性があると考えます。しかしながら、今回の判決は、これまで長年にわたってTTABに認められてると解釈されていた取消の権限を否定するものです。そのため、実務上もその影響は小さくないと考えられます。
他方、今回の判決は、もうひとつの重要な争点であった「何が『虚偽』と判断されるべきか」という点(注5)には明確には触れなかったため、この点については、今後の判決を待つ必要がありそうです。
(注1)No. 2022-1212, 2023 WL 6854647 (Fed. Cir. Oct. 18, 2023).
(注2)最終的に、棄却となっています。
(注3)最終的に、棄却となっています。
(注4)商標権者は、商標登録を維持するために、登録後から 5~6 年目の間に、継続的かつ誠意ある使用を証明する宣誓書を提出する必要があります。
(注5)過去のIn re Bose Corp.,の判決では、「米国特許商標庁を欺く意図をもってその表明を行ったこと」が要件のひとつとされ、過失や重過失よりも高い基準が示されていました。
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