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【水素社会推進法②】供給等事業計画の内容・認定基準
2024.04.30
水素の利活用の拡大を図るため、水素社会推進法の成立に向けて法案の審議が進められています。同法案では、低炭素水素等供給等事業計画の認定制度が設けられており、認定されると、①価格差に着目した支援や拠点整備支援、②高圧ガス保安法の特例、③港湾法の特定、④道路の占用の特例が認められます。本ブログでは、供給等事業計画の内容と、認定基準について説明します。
(供給等事業計画認定の効果につきましては、「【水素社会推進法①】供給等事業計画認定の効果」をご参照願います。)
供給等事業計画の内容
供給等事業計画には、以下の事項を記載しなければなりません(7条2項)。
(1-1) 供給等事業の目標
(1-2) 供給等事業の内容・実施期間
(1-3) 供給等事業の実施体制
(1-4) 供給等事業を行うために必要な資金の額・調達方法
(1-5) 助成金の交付を受けようとする場合は、その旨
(1-6) 供給等事業の用に供する施設の規模・場所等
(1-7) 上記のほか、供給等事業に関し必要な事項
供給等事業計画には、認定を受けようとする供給事業者・利用事業者以外の者が行い、又は行おうとする低炭素水素等の貯蔵、輸送又は販売(以下「貯蔵等」といいます。)に関する以下の事項を含めることができます(7条3項)。
(2-1) 低炭素水素等の貯蔵等の内容・実施期間
(2-2) 低炭素水素等の貯蔵等の実施体制
(2-3) 低炭素水素等の貯蔵等を行うために必要な資金の額・調達方法
(2-4) 低炭素水素等の貯蔵等の用に供する施設の規模・場所等
(2-5) 上記のほか、低炭素水素等の貯蔵等に関し必要な事項
供給等事業や貯蔵等の内容・実施期間((1-2)、(2-1))、供給等事業の用に供する施設や貯蔵等の用に供する施設(以下「供給等施設」といいます。)の規模・場所等((1-6)、(2-4))については、港湾法上の港湾区域内・港湾隣接地域内における工事等の許可を要する行為に関する事項や、臨港地区内の工場・事業場の新設・増設等の届出を要する行為に関する事項を記載することができます(7条4項)。このような事項の記載がある場合、主務大臣は、認定に際し、あらかじめ港湾管理者の同意を得なければなりません(7条7項)。
1-1 供給等事業計画と価格差に着目した支援
価格差に着目した支援を受けようとする事業者の事業計画が満たすべき中核となる条件は、以下のとおりです(水素・アンモニア政策小委員会、脱炭素燃料政策小委員会、水素保安小委員会の中間とりまとめ(2024.1.29)(以下「中間とりまとめ」といいます。)8頁)。
1-1-1 エネルギー政策(S+3E)の観点
S+3E(後述2-1-1-1参照)それぞれの観点、すなわち、安全性を大前提として、安定供給(利用)に貢献し、低廉で、脱炭素化に資する取組であり、かつ、経済的に合理的・効率的な手法で脱炭素資源が活用される事業であること
1-1-2 GX実現の観点
(1) 鉄・化学といった代替技術が少なく転換困難な分野・用途に関し、新たな設備投資や事業革新を伴う形での原燃料転換も主導するものであること
いわゆる発電事業者による発電分野向けのみの計画はこの要件には適合しません(中間とりまとめのパブコメ回答28番)。
(2) (1)の結果、低炭素水素等の供給及び利用に関する産業の国際競争力の強化に相当程度寄与すると認められるものであること
(3) 国際的な算定ルールと整合的な考えの下、国内の排出削減に資するとともに、炭素集約度が一定値以下になると見込まれること
1-1-3 自立したサプライチェーンの構築
(1) 2030年度までに供給開始が見込まれるプロジェクトであって、それ以降の後続サプライチェーンの構築へとつながる、先行的で自立が見込まれるプロジェクトであること
(2) 経済的な自立を担保する観点から、15年間の支援期間終了後、一定期間(10年間)の供給を継続すること
(3) 当該支援で得られた知見を適切に還元するため、支援対象事業のノウハウ等を活用して、新産業・新市場開拓のため、国内外で新たな関連事業を実施する等の取組を予定していること
1-2 供給等事業計画と拠点整備支援
拠点整備支援を受けようとする事業者の事業計画が満たすべき中核となる条件は、以下の通りです(中間とりまとめ16頁)。
1-2-1 拠点に集積する個別企業の優位性
(1) GXに向けて先進的な取組を行う企業の存在、効率的な脱炭素技術の実装予定
(2) 鉄・化学などのGX転換が困難な企業による、競争力強化につながる低炭素水素等の利用の見込み、国内外での関連事業の実施予定
(3) 国内の排出削減に資する事業
1-2-1 拠点全体で見た優位性
(1) 低炭素水素等の最低利用量年間1万トン(水素換算)
※ 国内の小規模な低炭素水素製造等の、低炭素水素等の最低利用量1万トンを満たさない案件については、ハブ&スポークのスポークとして、ハブと一体的に計画を申請の上、全体として低炭素水素等の利用量1万トンを超える場合、拠点整備支援の対象となり得ます。また、提出された計画が1万トンに満たない場合は、拠点整備支援の対象外となるが、価格差に着目した支援の対象にはなり得ます。
(2) 経済的に合理的・効率的な手法での脱炭素資源の活用・インフラ整備
(3) 拠点で利用される水素等の炭素集約度が一定値以下になると見込まれること
(4) 地域経済への貢献
1-2-3 中長期的な発展可能
(1) 周辺地域の利用ニーズの立ち上がりや、カーボンリサイクル・CCUSを含む新規技術を柔軟に取り込める中長期的見通しを持ったインフラ整備を予定していること
(2) 産業全体の競争力強化への寄与の見込み
(3) 国内の大幅な排出削減に寄与する見込み
1-2-4 実現可能性
(1) 拠点形成に関する明確なビジョンがあり、それにコミットし強力に推進するリーダーシップを有する企業と、それを中心とした適切な体制があること
(2) 関係者・地域の合意に基づく拠点整備計画
(3) 財産取得後一定期間(10 年間)の供給を継続すること
(4) 2030年までの供給開始(※1)、安定供給(※2)
(※1)2030年度までに供給開始が見込まれるプロジェクトであって、それ以降の後続サプライチェーンの構築へとつながる、先行的で自立が見込まれるプロジェクトであること。
(※2)S+3Eそれぞれの観点、すなわち、安全性を大前提として、安定供給(利用)に貢献し、低廉で、脱炭素化に資する取組であること。
供給等事業計画の認定基準
主務大臣は、供給等事業計画が以下のいずれにも適合すると認めるときは、認定することができます(7条5項)。
(1) 供給等事業計画が基本方針・判断の基準となるべき事項に照らして適切
(2) 供給等事業計画に係る事業が円滑かつ確実に実施されると見込まれる
(3) 供給等事業計画に低炭素水素等の貯蔵等に関する事項が含まれる場合、当該貯蔵等が円滑かつ確実に実施されると見込まれる
(4) 供給等事業計画の内容が経済的かつ合理的で、我が国における低炭素水素等の供給・利用に関係する産業の国際競争力の強化に相当程度寄与すると認められる
(5) 助成金の交付を受けようとする場合にあっては、以下のいずれにも適合すること
① 供給等事業計画が供給事業者・利用事業者が共同して作成したものである
② 供給等事業計画に従い行われる供給事業者による低炭素水素等の供給が、経産大臣が定める年度までに開始され、かつ、省令で定める期間以上継続的に行われると見込まれる
③ 供給等事業計画に従い供給される低炭素水素等を利用するための新たな設備投資等の事業活動が、利用事業者により行われると見込まれる
(6) 供給等事業計画に従い供給等施設を整備しようとする場合にあっては、当該施設を整備する港湾、道路等の場所が、港湾計画、道路事情等の土地の利用状況に照らして適切
2-1 価格差に着目した支援と供給等事業計画の評価項目
低炭素水素等の供給事業については、単純な価格比較のみならず、政策的重要性・事業完遂の見込みの観点から評価項目を設け、総合評価が行われます(中間とりまとめ9頁)。
2-1-1 政策的重要性
エネルギー政策とGX政策の2軸で評価されます。
2-1-1-1 「エネルギー政策」(S+3E)
(1) 安全性(Safety)
① 保安基準等に適合していること(必須条件)
(2) 安定供給(Energy Security)
① 低炭素水素等の最低供給量年間1,000トン(水素換算)(必須条件)
② 国内における低炭素水素等の製造
③ 価格差に着目した支援の採択案件全体を通じた、供給源の多角化、生産地・技術・燃料の多様性
④ 上流権益の参入比率・価格安定性が高いこと
(3) 環境適合(Environment)
① 炭素集約度が、相対的により低いこと
(4) 経済効率性(Economic Efficiency)
① 支援終了後に自立可能なレベルまで供給価格を低減
② 合理的・効率的な手法での脱炭素資源の活用
③ 同種事業での供給コスト優位性や自立時点でのコスト水準、政府支援額当たり供給量等の事業効率、支援総額
2-1-1-2 「GX政策」(脱炭素と経済成長の両立)
(1) 産業競争力強化・経済成長
① 鉄・化学といった代替技術が少なく転換困難な分野・用途における波及効果、拡張性の大きさ
※ 新規設備投資・事業革新を伴う形での原燃料転換向けの需要開拓、国際競争力の強化への寄与、新産業・新市場開拓 等
② 供給側・利用側双方における、産業競争力強化に資する強靭なサプライチェーンの形成促進
※ 産業競争力強化に資する製品・技術の活用促進 等
③ 国際規制が未整備で、需要開拓が困難な分野・用途であること
④ 同種事業間での投資決定・供給開始の早さ
⑤ 国内における低炭素水素等の製造
⑥ 国内における低炭素水素等の製造による地域貢献
※ 地域貢献、雇用創出、余剰再エネの活用 等
⑦ 市場の将来を見据えた成長戦略に基づく、自立・支援額抑制のための事業者相応のリスク負担・工夫
⑧ 技術的革新性・競争優位性
(2) 排出削減
① 炭素集約度が、相対的により低いこと
2-1-2 事業完遂の見込み
(1) 事業計画の確度の高さ
① オフテイカー確保の確実性・妥当性
② 設計・工事・運転計画、資金計画の確実性・妥当性等
※ 上流権益の取得状況や、原料・電力供給等の長期計画の確保、CCSを行う場合の貯留地の確保、自治体との協調等
(2) 国と企業のリスク分担の整理に基づく計画の妥当性(補助契約の中で個別に明確化)
① ファイナンスリスクや供給開始リスクへの対応のため、基準価格・参照価格が、定められた基本的な考え方に基づき、設定されていること
② 製造・調達国の地政学的リスクと対応の妥当性
※ コア部品・素材など、サプライチェーン調達上のリスク耐性のチェック等
2-2 拠点整備支援と供給等事業計画の評価項目
以下のとおり政策的重要性や事業完遂見込みの観点から評価項目を設け総合評価が行われます(中間とりまとめ18頁)。
2-2-1 政策的意義
(1) 拠点に集積する個別企業の優位性
① 脱炭素技術の革新性・競争優位性
② 産業構造変革の道筋が計画に反映されていること
※ 鉄・化学といった代替技術が少なく転換困難な分野・用途における波及効果、拡張性の大きさ
※ 新規設備投資・事業確信を伴う形での原燃料転換 等
③ CO2削減量・削減割合が多いこと
(2) 拠点全体での優位性
① 低炭素水素等導入量/CO2削減量に対する投下資本の効率性(政府支援額当たりの供給量等の事業効率、支援総額)
② 合理的・効率的な手法での脱炭素資源の活用
③ 低炭素水素等の炭素集約度が相対的に低いこと
④ 地域の産業構造を踏まえた将来の道筋を示していること
⑤ 具体的な地域経済への投資規模、雇用・訓練機会の規模が示されていること
⑥ 既存産業の競争力強化にも資すること
(3) 中長期的な発展可能性
① 周辺地域の利用ニーズの立ち上がりや、カーボンリサイクル・CCUSを含む新規技術を柔軟に取り込める中長期的な見通しを持ったインフラ整備計画となっていること
② 柔軟な拡張に資する用地が確保されていること
③ 市場の将来を見据えた成長戦略に基づく、自立・支援額抑制のための事業者相応のリスク負担・工夫(環境価値等)があること
④ 供給側・利用側双方における、産業競争力強化に資する強靭なサプライチェーンの形成促進
※ 産業競争力強化に資する製品・技術の活用促進 等
⑤ 地域間連携の可能性、後発地域への展開可能性
2-2-2 事業完遂の見込み
① 拠点形成に関する明確なビジョンがあり、それにコミットし強力に推進するリーダーシップを有する企業と、それを中心とした適切な体制があること
② 拠点形成までの具体的な計画が策定されていること。整備時期が明確化されていること
③ 供給・輸送・利用等を担う関係者の特定と関係者間での合意形成の見通しが立っていること。自治体等との協調及び住民理解を得ていること
④ 低炭素水素等の輸入に利用する港湾の港湾管理者と十分な調整を行っていること。拠点が位置する港湾内の周辺施設と整合的に、気候変動に伴う潮位上昇等への対策が計画されていること
⑤ 支援終了後に自立可能な計画となっていること
⑥ 供給者による供給見通しがあること
⑦ 保安基準に適合していること
水素等供給事業者の判断基準
経産大臣は、水素等供給事業者(※1)が低炭素水素等の供給促進のため取り組むべき措置に関し、水素等供給事業者の判断の基準となるべき事項を定めます(32条1項)。
特定水素等供給事業者(※2)の低炭素水素等の供給の状況が判断の基準となるべき事項に照らし、著しく不十分であると認めるときは、経産大臣は、低炭素水素等の供給の促進に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができ(34条1項)、当該特定水素等供給事業者が。勧告に従わない場合、経産大臣はその旨を公表することができます(34条2項)。さらに、かかる公表後も当該特定水素等供給事業者が、正当な理由なく勧告に係る措置とらない場合で、低炭素水素等の供給の促進を著しく害すると認めるときは、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます(34条3項)。
(※1) 水素等供給事業者:水素等の供給を行う事業を行う者
(※2) 特定水素等供給事業者:水素等供給事業者で、その事業において供給を行う水素等の量が政令で定める要件に該当するもの
以上
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