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【知的財産ランドスケープ】LiDAR(後編)
2024.09.19
前回のまとめ
前編(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2024/16019.html)では、LiDARに関連する特許について、国別に分析を進めました。今回の後編では、プレイヤーの観点から分析を進めます。
プレイヤー(中国単独出願を除く)
以下は特許ファミリー件数の多いオーナー上位20を示したものです(ここでも中国単独出願は除いています)。
プレイヤー別特許ファミリー件数/特許スコア
上位20のうち、日本企業としては、2位にソニー、4位にDENSO、7位にトヨタ自動車、13位にパナソニック、17位に三菱電機がランクインしており、自動車関連メーカ-や電機メーカーを含め、多くの日本企業が積極的にLiDAR関連技術の開発を進めていることがうかがえます。また、他国においても、自動車関連メーカーや電機メーカーの企業が上位20にランクインしています。なお、上位20のうち、EQT AB groupのみ製造業に属さない企業ですが、かつてLiDAR関連技術の研究開発を進めていたパイオニア社を買収したため上位にランクインしていると考えられます。
上位20には、大学等の研究機関や政府系機関は含まれていませんが、これらの機関においても研究開発は着実に進められています。以下は、研究機関及び政府系機関に限定した特許ファミリー件数の多いオーナー上位10を示したものです(ここでも中国単独出願は除いています)。
プレイヤー(研究機関及び政府系機関に限る)別特許ファミリー件数
上位10には、米国(Government of the United States, NASA)、韓国(KETI, ETRI Korea, Agency for Defense Development, KAIST)、ドイツ(Fraunhofer, Helmholtz Association)、中国(Chinese Academy of Sciences)、フランス(CEA)の機関がランクインしています。一方、日本の機関は上位10にはランクインしていません。これらの組織では、研究結果は必ずしも特許出願として公開されるわけではなく、論文や学会などによって発表されることも多々あるため、特許出願の件数だけで、その組織の研究開発に関する評価をすることはできません。しかし、官民一体でLiDARの実用化を推し進めるという観点からは、日本の研究機関や政府系機関からの特許出願が少ないことは懸念材料の一つといえます。
次に、特許ファミリー件数がトップ10に入る日本のプレイヤーについて詳しく見ていきます。
- ソニー
ソニーは全729ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、レーザー光を受光する受光素子に関する出願(JP2020013909A)、受光素子を備える受光装置に関する出願(JP2019190892A)、測距カメラを備える撮像装置(JPWO2018042801A1)に関する出願などが含まれ、LiDARセンサを構成する一部分からLiDARセンサ全体まで、幅広く出願をしていることがわかります。
ソニーは、グループ会社に半導体メーカーであるソニーセミコンダクタソリューションズを有しており、半導体を使用する受光素子や受光装置に関する技術に強みがあると推測されます。実際、特許スコアがトップ10にランクインした特許のうち、6ファミリーが、受光素子又は受光装置に特徴を有するものでした。
特許スコアの高い特許ファミリー(ソニー)
- DENSO
DENSOは全481ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、測距装置に関する出願(JP2019113530A)、測距装置の校正に関する出願(JP2020098151A)、測距装置を車両に組み込んで構成される車両の制動支援装置に関する出願(JP2018095097A)などが含まれ、LiDARセンサを使用して得られた結果をどのように活用していくか、という観点での出願が複数みられます。
DENSOはグローバルな自動車部品サプライヤーであり、日本のみならず世界の自動車メーカーとの取引実績があります。そのため、DENSOは、様々な種類の自動車に関して、製品を実装する場合のノウハウを有しており、また、実装した場合の問題点・課題についても熟知していると考えられます。この強みを生かして、LiDARセンサを自動車に実装するための技術や、実装した後の制御技術に関する出願を複数行っていると推測されます。
特許スコアの高い特許ファミリー(DENSO)
- トヨタ自動車
トヨタ自動車は全394ファミリーの特許を出願しており、特許スコアが高いものとして、車両における測距装置の配設構造に関する出願(JP2016199257A)、測距装置を用いて車両の進路を設定する進路設定装置に関する出願(JP2018176879A)、測距装置を用いた車両の衝突回避制御装置に関する出願(JP2015148899A)などが含まれ、LiDARセンサによって得られた結果を、どのように新しい機能につなげていくか、という観点での出願が多くみられます。
トヨタ自動車は、世界を代表する自動車メーカーであり、単に自動車を開発・製造するだけでなく、次世代のモビリティ社会を見据えた研究開発を活発に行っています。近年では、静岡県において「Woven City」という実証実験を行う都市を建設中であり、ここでは自動運転や、その周辺技術の実証が行われる予定です。このように、トヨタ自動車は、LiDARセンサを用いた自動運転技術の研究開発・実用化を強力に推し進めていることが推測されます。
特許スコアの高い特許ファミリー(トヨタ自動車)
まとめ
LiDARに関連する特許の件数については、中国単独の出願を除外すると、日本は世界第2位であり、LiDARの研究開発が他国に劣らず進んでいることが示唆されます。一方で、特許の価値に目を向けると、特許ファミリー1件当たりの価値は、米国、欧州、中国に水をあけられています。
米国や中国では、LiDARを利用した自動運転の実用化が進んでおり、両国の特許の注目度は他国に比べて高まっていると推測されます。また、実証実験から得られた知見を研究開発に還元することで、研究開発の量・質共に向上していることが推測されます。欧州は、脱炭素の分野でも多く見受けられるように、欧州内で策定されたルールを世界各国に広めることに長けています。自動運転の研究開発においても、実用化を考えると、欧州における自動運転に関するルールの動向を注視し続けることが重要であり、欧州の自動運転に関する特許は注目度が比較的高いと考えられます。
今後は、LiDAR自体の研究開発を行うだけでなく、研究開発結果を実証し、LiDARの実用化を推し進め、世界に日本のLiDAR技術をアピールすることが必要になってくると考えます。これにより、LiDARに関する日本の特許が、世界の企業からより多くの注目を集め、日本の特許価値が向上することが推測されます。また、日本の特許に注目した世界の企業と協力して、日本以外でも実証実験を行うことが可能になり、研究開発の量・質をさらに向上できることが推測されます。
今回のプレイヤーごとの分析でみたように、日本には、LiDARの部品供給工程からLiDARセンサを自動車に搭載する工程まで、幅広い工程において、世界トッププレイヤーが存在します。この強みを生かして、研究開発⇒実証⇒課題の洗い出し⇒研究開発へのフィードバックのサイクルを効率的に回し、実用化を進めていくことが期待されます。