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第51回特許制度小委員会の審議について
2025.01.21
はじめに
令和7年1月17日、産業構造審議会知的財産分科会第51回特許制度小委員会が開催され、特許制度等の見直しについて検討が行われました。本稿では、特許制度小委員会の委員を拝命している松山智恵とオブザーバーとして参加している齋藤俊より、第51回特許制度小委員会における審議の内容について、簡単にご紹介いたします。
議論の内容
第51回特許制度小委員会では、以下3つの議題について議論が行われました。
- DX時代にふさわしい産業財産権手続に関する制度的措置
- AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応
- 国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護
このうち、本小委員会では、主に1及び3が取り上げられ、2については次回の本小委員会で本格的な議論が行われるとのことです。以下、それぞれの概要をご説明いたします。
1.DX時代にふさわしい産業財産権手続に関する制度的措置
この論点については、特許庁から、資料1「DX時代にふさわしい産業財産権手続に関する制度的措置」と題する資料(以下「資料1」といいます。)を用いて、説明が行われました。具体的には、前回の特許制度小委員会で概要が示された以下の論点について、以下の見直しの方向性が提案されました(資料1の4、9、23、37頁参照)。
①世界知的所有権機関(WIPO)が提供するWebサービスである「ePCT」を活用したオンライン出願・発送の制度の導入。
→特許特別会計の財政運営上許容されるのであれば、早ければ令和8年中にePCTによる通知への切り替えを目指し、ePCTによるオンライン出願については、令和10年1月頃の出願受付開始を検討しているとのことです。
②特許等公報におけるプライバシーの保護
→公報における個人の出願人・権利者及び発明者等の住所は概略表記(国内居住者については市区町村まで、在外者については都市名まで)としたいとのことです。
③国内優先権に基づく先の出願の取扱いの見直し
→先の出願について、通常の出願と同じ取扱いとし、出願から3年以内に審査請求がなければみなし取下げとし、出願から1年4月後の国内優先権に基づくみなし取下げを廃止してはどうかとのことです。
このうち、本小委員会の審議において、①及び②については、基本的に賛成という方向性であった一方、他方で③については賛成・反対の両方の意見が示されました。
その他のご説明や、委員による議論の詳細は、特許庁のホームページで今後公開される議事録をご参照いただければ幸いです。なお、タイミング的に本年の改正は難しいため、これらの論点につき改正がなされる場合には、令和8年の改正になると思われます。
2.AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応
この論点については、特許庁から、資料2「AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応」と題する資料を用いたご説明がありました。具体的には、AIと産業財産権制度に関する政府の動き、ダバス事件第一審判決(東京地判令和6年5月16日(令和5年(行ウ)第5001号))の紹介、海外主要国の知財政策の概要、令和5年度調査研究の結果及び令和6年度調査研究の概要について、ご紹介がありました。本格的な議論は、次回の特許制度小委員会で行われるとのことです。
3.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護
この論点については、特許庁から、資料3「国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護」を用いたご説明がありました。前回の本小委員会における委員からの意見に関連して、主に以下の対応の方向性が提案されました。
①対象としては、「ネットワーク関連発明」のみを対象とした制度的措置を行う。
②(上記①を前提として)制度的措置の射程が「ネットワーク関連発明」のみに及ぶよう、適切に規律する方針で整理していく。
③本小委員会では、具体的な条文の文言ではなく、「実質的に国内の実施行為と認める要件」に対する考え方を合意形成可能な範囲で整理することを目指す。
④技術の進展の速さを考慮して検討を進めるべきではないかという意見について、法制化に当たっては、今後の技術進展の見通しもできるだけ踏まえた、バランスの取れた措置となるよう対応していく。
⑤最高裁判所に係属中であるドワンゴ対FC2事件の動向は、引き続き注視していく。本小委員会において検討を深めていく。
⑥先使用権等への影響について、今回の制度の見直しに伴い、「ネットワーク関連発明」について、「日本国内において」の文言のみを理由として先使用権が主張できなくなるような事態は避けるべき。本小委員会等での議論も踏まえ、必要に応じ、解釈明確化のための対応を行う。
⑦「実質的に国内の実施行為と認める要件」について、少なくとも「発明の『技術的効果』が国内で発現」及び「発明の『経済的効果』が国内で発現」を共に満たす場合に、日本の特許権の効力の対象と認めるべきではないか。
⑧「発明の実施行為の『一部』が国内」との要件が必要であり、「発明の実施行為の『一部』が国内」の「一部」は、「発明の重要な要素」であって、例えば、発明の技術的効果の発現に必須の要素と解することが最も適切ではないか。
本小委員会における審議において、上記①から⑥については、特段の反対意見はなかったように思います。これに対し、⑦及び⑧の論点については、様々なご意見があり、「国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護」の論点については、次回以降の本小委員会でも継続して議論が行われることとされました。したがって、この論点について、次回以降の本小委員会の議論も、引き続き注視していく必要があるように存じます。
その他のご説明や、委員による議論の詳細は、特許庁のホームページで今後公開される議事録をご参照いただければ幸いです。
おわりに
上記のとおり、「DX時代にふさわしい産業財産権手続に関する制度的措置」についてはある程度方向性が固まった一方、他方で少なくとも「AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応」及び「国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護」の論点については、次回以降の小委員会においても議論が行われるものと存じます。次回の特許制度小委員会の開催予定日時は、令和7年3月頃を想定とのことです(特許庁「報告・事務連絡」5頁)。
より良い知的財産制度の実現に向けて、弊職らも尽力してまいりますとともに、進展がございましたら本ブログでご報告させていただく所存ですので、引き続きどうぞ宜しくお願い申し上げます。