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【欧州法務ブログ:スポーツとEU競争法】ヨーロッパ・スーパーリーグ構想とEU競争法(続編)
2025.01.27
はじめに
本ブログでは、過去にEU競争法の観点からヨーロッパ・スーパーリーグ構想について御紹介しました。本稿では、その続編として少し前の判例になりますが、ヨーロッパ・スーパーリーグ構想に関して、欧州司法裁判所が2023年12月21日に下した判決について御紹介します。
ヨーロッパ・スーパーリーグ構想とは
繰り返しになりますが、約4年ほど前に欧州の主要な人気サッカーチームが自国リーグとは別に独自にヨーロッパ・スーパーリーグという新たなサッカーリーグを創設しようとした動きがございました。このような動きに対して、国際サッカー連盟(Fédération internationale de football association、以下「FIFA」といいます。)や欧州サッカー連盟(Union of European Football Associations 、以下「UEFA」といいます。)は、反対の意向を表明し、FIFA及びUEFAが定めた規則に基づき、新たなリーグに参加したチームや選手に対して、FIFAやUEFAが主催する大会への参加資格を失うなどの制裁を課すことを示唆しました。当時、世論やマスコミも新たなリーグの創設におおむね反対の意向を示していたと思います。高額な報酬を受領している選手や人気サッカーチームだけが集まって、更に儲けようとすることに対する反感が背景にあったと思います。これに対して、人気サッカーチームを主要株主とする欧州スーパーリーグ会社(European Super League Company)は、FIFA及びUEFAの規則がEU競争法に違反していると主張して、FIFA及びUEFAに対してスペインで訴訟を提起し、その後、スペインの裁判所は、いくつかのEU競争法に関する法的事項に関して欧州司法裁判所に判断を照会しました。
欧州司法裁判所の判断
欧州司法裁判所は、まず前提としてスポーツであっても、それが経済的活動に関連する限り、EU競争法が適用され得ると判断しています。専ら非経済的な理由に基づき制定され、かつスポーツのみに関係する特定のルールだけが競争法で意味する経済的活動に該当しないとして、競争法が適用される経済的活動を広く解釈しています。本件でFIFA及びUEFAが定めた問題とされる規則に関しても、EU競争法が適用されるとしています。
次に、欧州機能条約(Treaty on the Functioning of the European Union、以下「TFEU」といいます。)第102条は、支配的地位にある事業者がその地位を濫用する行為を禁止していますが、欧州司法裁判所は、特に当該条項について、次のような解釈を示しています。
- 支配的地位とは、事業者が有する市場支配力によって判断されるところ、市場支配力の有無は、一般的には事業者が競合他社、顧客、消費者等の影響を受けずに独立して事業活動について意思を決定することができる地位にある場合に認められる。このような場合、関連市場において効果的な競争が働いていないと考えられる。
- また、特に事業者が他の事業者の関連市場への参入の可否を決定できたり、又は参入するための条件を設定したりすることができる場合には市場支配力を有する地位にあると考えられる。すなわち、事業者が市場に参入する機会の平等を確保されていなければ、市場における効果的な競争は機能していない。
- ある事業者が法律上又は事実上、他の事業者の市場参入の可否を決定し、又は参入するための条件を設定する権限を有することは、利益相反の状況にあり、他の事業者より明らかに優位な地位が認められる。
- そのため、ある事業者がそのような状況にある場合には、支配的地位が濫用されることがないように監視・規制がなされていなければならない。特に当該事業者が事案ごとに他の事業者の市場参入の可否又は参入するための条件を決定できるような場合には、恣意的な判断がなされないように透明で明確な判断基準に基づき決定する必要がある。また、効果的な決定を可能とするため、そのような判断基準は非差別的でなければならない。
- さらに上記の決定権の行使について、明確で非差別的な手続によって規制されていなければならない。特に関連市場へ参入するための決定を求める申請について期限が定められている場合、当該期限の設定は、事実上市場への参入を阻止することがないように参入を求める事業者に不利に適用されてはならない。
さらに欧州司法裁判所は、FIFA及びUEFAが定めた問題とされる規則について、次のような解釈を示しています。
- FIFAやUEFAなどのスポーツ分野に責任を持つ競技団体は、国際競技の組織と運営に関する規則だけでなく、競技大会へのクラブや選手の参加について事前承認やその可否を決定するルールを定めることができる。
- 特に欧州におけるサッカーの社会的・文化的な重要性に鑑み、競技大会が本質的にスポーツのメリットに基づくためには関係する全てのチームが均質な規制及び技術的条件の下で競争し、機会の平等を確保することも重要である。
- 他方で、プロサッカーを特徴付ける性質はいずれも一般的に透明性が保証された基準と手続によって規制されていない事前承認と参加の可否を決定する手続を採用することを正当化するものではない。
- 同様にこれらの規則に基づき課される制裁が透明性、客観性、正確性、非差別性かつ比例性を確保するための基準や手続に基づかない場合、そのような制裁は、その性質上、恣意的に行使されTFEU第102条に違反するとみなされる。事実上、そのような場合、事案ごとに下された決定が具体的事情に照らして、正当化され、かつ適切であるかを判断するために、透明かつ客観的に検証することは不可能である。
以上の解釈を示した上で、欧州司法裁判所は、世界及び欧州レベルでのサッカーについて責任を有し、かつ競技大会の実施・運営に関連して経済的活動を行う競技団体が欧州域内において第三者が実施・運営するサッカーチーム間の競技大会について、透明性、客観性、非差別性及び比例性が確保されていない判断基準、及びそれらを確保するための規制手続を定めることなく、事前承認の対象とし、当該競技大会に参加するサッカーチーム及び選手に制裁を課すことは、TFEU第102条の下で支配的地位の濫用に該当すると解釈しなければならないと判断しました。
まとめ
本稿では、本件に関して、欧州司法裁判所のTFEU第102条の判断の概要について御紹介しましたが、同裁判所は、EU競争法のその他の法的論点や競技団体のスポーツに係る権利についての解釈も示しています。
本判決は、欧州におけるスポーツ競技団体の在り方について大きな影響を与えることになると思います。特にFIFAやUEFAと同様の内容の規則を定めているスポーツ競技団体は、規則を見直すことが必要になってくるでしょう。その結果、欧州におけるスポーツ競技大会の実施自体についても少なからず影響を出てくることが予想されます。
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