対談・座談・インタビュー
ミャンマー新商標法下での知財庁グランドオープンに向けた現状と課題
2021.04.28
2019年1月30日にミャンマー商標法が成立しましたが、2021年2月のミャンマー政変による影響により、未だ施行の目途が立たない状況となっています。既に開始されている優先登録出願への今回の政変による影響も含め、ミャンマー商標法をとりまく現状と課題について、海外の商標法に精通した東京オフィスの商標専門弁理士とヤンゴンオフィスの日本国弁護士・現地弁護士からなる「TMIミャンマー商標デスク」のメンバーに聞きます。
-まだ商標法施行前ですが優先登録出願の受付が開始されていますね。
佐藤弁理士
ミャンマーでは2019年1月30日にミャンマー商標法(以下「商標法」といいます。)が成立し、2020年10月1日よりミャンマー知財庁(以下「知財庁」といいます。)のソフトオープンとして、商標法に基づく商標の優先登録出願の受付が開始されました。TMIミャンマー商標デスクでも、これまで以下のとおり、最新情報を発信してきました。
ミャンマーによる商標の保護の現状と新商標法について(TMI Newsletter vol.34)
ミャンマー商標法の概要及びその施行に備えた準備と対策(TMI Newsletter vol.43)
ミャンマー新商標法の優先登録の開始(ミャンマー知財庁のソフトオープン)について
優先登録出願は、過去に旧制度での登録(登録法(Registration Act)に基づき証書登記局での商標の所有権宣言書の登録及び新聞での商標警告(Trademark Caution)の掲載)を行った事実、又はその他の商標使用の事実に基づき、その商標と同一の商標を、その商品・役務の範囲内で、商標法の施行前に優先的に出願することができるという制度です。
-商標法施行に向けたスケジュールについて教えてください。
遠藤弁理士
優先登録出願の受付期間は、知財庁のソフトオープンの日である2020年10月1日から商標法の施行日(知財庁のグランドオープンの日)までとされており、商標法の施行は2021年3月末ごろになるのではないかというのが一般的な見方であったと思います。
また、商標法の施行前に知財庁による出願手数料の徴収が開始されることとされており、納付のための期間を考えると、施行の約1か月前には出願手数料が発表されるのではないかとみられていました。しかし、2021年2月の政変により、商標法の施行の時期、出願手数料発表の時期ともに、見通すことができない状況となっています。
-TMIヤンゴンオフィスでも優先登録出願を行っていると聞きました。
甲斐弁護士
TMIヤンゴンオフィスは、知財庁からオンライン出願の権限を有する商標出願代理人として指定され、ソフトオープン以降、多数の日本企業のオンライン優先登録出願を行ってきております。今回の政変後も、知財庁での優先登録のオンライン出願は、本稿執筆時(4月28日)現在、継続して行うことができており、出願番号も付与されています。
政変による商標出願への影響を心配するご相談もありますが、現在の優先登録の出願自体は、2月1日の政変前に実施された制度であり、現在のところ、国軍側にも、CDM(市民の不服従運動:Civil Disobedience Movement)を行っている民衆側にも、この商標登録制度を否定する動きは見られず、ミャンマーにおける商標登録の出願として有効に機能しているということがいえるでしょう。
商標出願を扱う法律事務所の国際的なランキングであるWTR1000において、日本に続きミャンマーにおいても、これまでのTMIのミャンマー商標に関する実績と経験が評価され、TMIヤンゴンオフィスが日本事務所として唯一、ミャンマーの商標代理事務所としてランキングされています。
https://www.worldtrademarkreview.com/directories/wtr1000/rankings/myanmar
-ミャンマーの知財庁に商標出願を行う際に苦労する点などがあれば教えてください。
山口弁理士
旧制度での証書登記局での登録については、内容の審査は行わない制度になっていました。国際的な経験のある代理人は、国際分類に従った登録をしていましたが、そのような経験のない代理人が行った登録では、国際分類に従っていないものもあり、また、そもそも商品・役務の区分すら書いていないものがあります。このような旧法での登録が持ち込まれ、優先登録出願の依頼を受ける場合には、優先登録出願ができる範囲についての判断が難しいですね。
遠藤弁理士
旧制度において登録した指定商品・役務と同じものを出願しようとしても、エラーが出る場合があります。例えば、国際分類の改訂により、その商品・役務が別の類に移行された等のケースですね。また、旧制度での登録時と出願人の住所が変わっていたり、商標に変更が生じている場合も、優先登録の要件を満たすように、出願書類を工夫する必要があります。
小林弁理士
TMIでは、ほぼすべての国への商標出願実績があり、そこで培ったノウハウを使い、出願の段階から工夫して対応しています。例えば、添付書類をアップロードする際には、特に決まりはありませんが、タイトル付けをして、件名で書類の内容が分かるようにするなど、ミャンマー知財庁の審査官が理解しやすくする工夫をしています。
-今から優先登録出願の準備を始めるとしたら何に注意したらよいでしょうか。
アゥンティンジョ ミャンマー弁護士
優先登録のために必要な商標使用の証拠は、商標法施行前のものとされています。そのため、商標法の施行時期が未定で、優先登録出願の受付が続いている現状では、今から新たに証書登記局で商標の所有権宣言書の登録をしたり、ミャンマーで商標の使用を開始したりして、それらに基づき優先登録出願を行うことが考えられます。
しかし、政変により、これまで商標の所有権宣言書の登録を多数受け付けていたヤンゴンの証書登記局は閉鎖されており、その他の場所にある証書登記局も通常どおり業務を行っていないところが多いうえ、治安の悪化や移動困難により、申請を行うことが難しいのが現状です。
甲斐弁護士
旧制度では、所有権宣言書の登録の内容を、商標使用の事実として現地新聞の広告に掲載していました(商標警告:Trademark Caution)が、国営新聞へ広告を掲載することが政治的な意味合いを持ってしまうことも懸念され、商標警告を行うことは事実上難しい面もあります。
-商標法施行へ向けての見通しと、今の段階で検討すべきことがあれば教えてください。
山口弁理士
政変により、商標法の施行時期の見通しは立たなくなりましたが、施行されること自体が白紙になったわけではなく、商標の優先登録出願の制度自体が否定されているわけではありません。優先登録出願は、政変前のスーチー政権下から継続して行われているものであり、軍政側も民衆側もこの制度を否定していないことを考えると、ミャンマーでの商標保護を受けるために、引き続き優先登録出願又は商標法施行後の通常出願を検討すべきことに変わりはないといえるでしょう。
商標法の施行日は現在のところ未定ですが、想定よりも早期となる可能性や、優先登録のオンライン出願に支障が生じ有る可能性も考慮し、過去に旧制度での登録やミャンマーでの商標の使用を行ったことがある場合は、それらに基づき、早急に優先登録出願を行っておくことをお勧めします。
小林弁理士
過去にミャンマーで登録又は使用のいずれも行っていない商標については、優先登録出願の要件を満たさないため、商標法が施行されるのを待って通常の出願を行うことが考えられますが、その間に第三者により同一・類似の商標を使用され、それに基づく優先登録出願がなされる可能性も否定できません。
商標法施行時までの証拠は、優先登録出願のための証拠として使用できることから、証書登記局での登録が可能になり次第、直ちに登録を行い、それに基づく優先登録出願を完了させておくことが望ましいといえます。
-ミャンマーに知財法を定着させるための公益的な業務にも力を入れていますね。
佐藤弁理士
日本弁理士会国際活動センターの活動として、他所の商標弁理士とともに商標実務のイロハ、代理人としての活動などについて、ミャンマーの実務家向けに広くお伝えする無料の「Intellectual Property Seminar in Myanmar」を昨年2月にヤンゴンのPark Royal Hotel YangonにおいてJICAと共同で企画しておりましたが、コロナのため急遽3月にMIPPA (Myanmar IP Proprietors’ Association)とのオンラインでのClosed Meetingという形で行うことになりました。今年の2月にも同様のメンバーでオンラインでの無料のオープンセミナーを再度企画しておりましたが、今度は政変の影響で実現できませんでした。ミャンマーでは、グランドオープンを機に本格的に商標登録出願業務が始まるところですので、今後も状況を見て日本の経験やノウハウをミャンマーの実務家の方にお伝えする機会を持つことができればと思います。
甲斐弁護士
また、在ミャンマー日本大使館の委託を受け、ミャンマーの新商標制度及び旧制度からの移行手続きについて説明したリーフレットを作成しています。こちらのリーフレットは、在ミャンマー日本大使館のホームページでも公開されています。
https://www.mm.emb-japan.go.jp/profile/japanese/news/2020/new-244.html
こちらは英語版もありますので、日本以外の企業の皆様にもミャンマーの商標制度をご理解いただく助けになればと思っています。
その他、JETROから受託(特許庁委託事業)でミャンマーでの模倣品の流通実態や対策実務について「ミャンマーにおける模倣品流通実態調査」を行っており、報告書は以下の通り公開されています。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/asean/ip/pdf/report_202103_mm.pdf
※上記内容は、本稿執筆時(2021年4月28日)現在のものであり、その後の状況の変化により、内容を修正させて頂く可能性があります。
TMI総合法律事務所では、海外の商標法に精通した東京オフィスの商標専門弁理士と、ヤンゴンオフィスの日本国弁護士及び現地弁護士とが一体となってミャンマーにおける商標出願サービスを行っています。
TMIミャンマー商標デスク Myanmar_ip@tmi.gr.jp
TMI Associates Yangon Office (TMI Associates Services Co., Ltd)
#105, Prime Hill Business Square, No.60, Shwe Dagon Pagoda Road Dagon Township, Yangon, Myanmar