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楽しく学ぶ金商法(第2回:上場前のストックオプション発行②)
2020.09.25
近時、スタートアップ企業が創業後早期にストックオプション(以下「SO」)を発行する例が見受けられます。SOは、創業者へのインセンティブプランとしてのみならず、取引先等の関係者に対する報酬代わりに発行されることもあり、スタートアップ企業においては様々な使われ方がされている、重要なものです。
このようなスタートアップ企業が「いよいよIPO」となった際、このSOは思わぬ落とし穴になりかねません。IPOのために財務局に事前相談を行った際、財務局の担当者から「このSOの発行には金融商品取引法上の有価証券届出書の提出が必要だったのではないか」と指摘されることがあるのです。 このような指摘は決して珍しいことではなく、IPOの可否・スケジュールに重大な影響を与えかねない問題です。今回は、この問題について解説していきます。
前回(「楽しく学ぶ金商法」第1回)、スタートアップが創業後早期にストックオプション(以下「SO」)を発行する際の金融商品取引法(以下「金商法」)の留意点とし
A.SOの割当先が50名以上、かつ
B.割当先の中に役職員以外の者が1人でも含まれている場合
には、(原則として)有価証券届出書が必要となってしまう
という点を説明しました。
今回は上記A.B.を満たすようなSOを発行する際、どのような手法によれば有価証券届出書が必要とならないかを解説したいと思います。
SO特例の使い方
例えば、TMI㈱が①100名の従業員にSOを発行するとともに、②顧問税理士1名に対してSOを発行しようとしているようなケースを想定します。
この場合、割当先は合計101名ですし(A)、割当先の中に役職員以外の者(顧問税理士)が含まれているため(B)、これを1つの行為と考えると有価証券届出書の提出が必要となってしまいそうです。
それでは、この①②を2つの行為として捉えて、
①についてはストックオプション特例により有価証券届出書不要
②については50名未満であるため有価証券届出書不要
という整理は可能なのでしょうか。
金融庁の考え方
金商法を所管している金融庁は、そのような疑問に対して、以下のような見解を示しています。
企業内容等開示ガイドライン4-2では、開示府令第2条第2項に定める会社の取締役等以外の者を対象に含めて新株予約権証券を付与する場合には、金商法施行令第2条の12に該当しないとされている。 例えば、同一の取締役会において、第1号議案として、当該発行会社、完全子会社及び完全孫会社の役員使用人のみを対象として新株予約権証券を発行する旨の決議がなされ、第2号議案として、それ以外の者を対象として同内容の新株予約権証券を発行する旨の決議がなされたと仮定します。 この場合、第1号議案に基づく発行は金商法施行令第2条の12 に規定する場合に該当し、当該発行の対象者の人数は、通算の対象とならないという理解でよいか、確認して頂きたい。(略)
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基本的には、ご理解のとおりです。 ただし、新株予約権証券(ストック・オプション)の募集又は売出しについて、取締役会でその相手方の区分ごとに別議案として決議する場合、翌日に決議を行う場合等であっても、投資者保護の観点から、一の新株予約権証券の募集又は売出しとして取り扱うことが適切な場合もあるものと考えられます。 |
要するに
上記①②を別議案として決議する場合には、両者を区分して考えること(①についてはストックオプション特例により有価証券届出書不要、②については50名未満であるため有価証券届出書不要という整理)が基本的には可能
という見解が示されているわけですね。
※理由はよく分かっていません。(理由不明は金商法の世界でよくあることです。)
では、どうすると良いのか
このように考えると「なるほど、議案さえ分ければいいのか」と誤解されがちですが、上記見解には「基本的には」という限定がかかっていることに留意が必要です。
現在の実務上は、議案が分かれている場合にそこまで慎重な審査がなされていないというのが現状と思われますが、このような実務がいつまで続くのかも分かりません。
そもそも、上記の金融庁の見解は①②のような行為が別個独立の行為とみなせることが前提となっています。議事録上で議案が分かれているといっても、同時に一括してSOの説明会等を開催していたりすれば、もはや別個独立の行為であるといえるかどうか怪しくなってきます。
そのため、①②で議案を分けるだけではなく、SOの発行回号を分ける(①を第1回A新株予約権、第2回B新株予約権のように)、SOの説明・協議も別々に実施する、などといったように①②が別個独立の行為であることを確保する措置をとっておくことが望ましいといえるでしょう。
さて、次回は「もし有価証券届出書の提出が必要となるSOを発行してしまっていたら、どのようなことが起きるのか」について、解説します。
注:本ブログでは、分かりやすさの観点より、必ずしも正確でない用語・表現を用いて説明していることがあります。個別具体的な法解釈については、必ず法律専門家にご相談ください。 |
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