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楽しく学ぶ金商法(第1回:上場前のストックオプション発行①)
2020.09.25
近時、スタートアップ企業が創業後早期にストックオプション(以下「SO」)を発行する例が見受けられます。SOは、創業者へのインセンティブプランとしてのみならず、取引先等の関係者に対する報酬代わりに発行されることもあり、スタートアップ企業においては様々な使われ方がされている、重要なものです。
このようなスタートアップ企業が「いよいよIPO」となった際、このSOは思わぬ落とし穴になりかねません。IPOのために財務局に事前相談を行った際、財務局の担当者から「このSOの発行には金融商品取引法上の有価証券届出書の提出が必要だったのではないか」と指摘されることがあるのです。 このような指摘は決して珍しいことではなく、IPOの可否・スケジュールに重大な影響を与えかねない問題です。今回は、この問題について解説していきます。
金商法とは
金融商品取引法(以下「金商法」)とは、有価証券をはじめとする金融商品の取引を規律する法律で、株式や新株予約権の取引についても金商法の適用があります。しばしば、「非公開会社」には金商法は関係ない、とお考えの方にお会いすることがありますが、そんなことはありません。スタートアップなど、通常の非公開会社があまり金商法に触れることがないのは、同法の適用を受けないように作戦が採られているからであり、場合によって適用があり得るものというのが正解です。
そんな金商法は、「誰が何の目的で作ったのか…」と思わせるくらいに読みづらい(複雑な)条文構造になっているため、法律の専門家であるはずの弁護士でさえ、金商法にある程度習熟していなければ、簡略化してその要点のみを捉えがちです。
ストックオプション特例の「誤解」
このため、SOの発行に関しては
①50名以上の者に対してSOを割り当てるためには有価証券届出書が必要
②ただし、役職員に対するSOの場合には有価証券届出書が不要(いわゆるストックオプション特例)
という程度に極めて簡略化して考えられてしまうことがあります。
その程度の簡略化であれば、まだ事故も起きづらいのですが、更にこの①②から発展し
③ 役職員以外の者が50名未満であるSOの場合、有価証券届出書は不要
と考えてしまいますと、この③は完全な誤りです。
すなわち、金商法を所管している金融庁は、そのガイドラインで以下のように定めています。
企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン) (取締役等以外の者を含めた者を対象とする株券等又は新株予約権証券等の付与) 4-2 次に掲げる場合には、令第2条の12各号に規定する場合に該当しないことに留意する。 ① (略) ② 会社が取締役等(当該会社又は当該会社に関係する会社として開示府令第2条第3項に定める会社の取締役、会計参与、監査役、執行役又は使用人をいう。以下②において同じ。)に取締役等以外の者を含めた者を対象として新株予約権証券等(令第2条の12第2号に規定する新株予約権証券等をいう。)を付与する場合(会社の設立の場合における届出の要否の決定) |
要するに
役職員以外の者が1人でも割当予定先に含まれていたら、ストックオプション特例(上記②)を受けられない
と定めているわけです。
ただ、そもそも役職員に対してSOを割り当てる際にストックオプション特例が適用される理由は、役職員はその会社のことをよく知っており有価証券届出書による情報開示を行う必要がないためと考えられているからです。
そうすると「役職員以外の人の人数が50人以上か否かで有価証券届出書の要否が決まるのでは?」と思いがちですが、ガイドラインでは「そうではない」とされている、ということになります。
※理由はよく分かっておりません。(理由不明は金商法の世界ではよくあることです。)
とにかく上場前のSO発行に際しては
A.SOの割当先が50名以上、かつ
B.割当先の中に役職員以外の者が1人でも含まれている
場合には、(原則として)有価証券届出書が必要となってしまう
ということに留意しなければなりません。
では上記A.B.のようなSOは一切許されないのか、そのようなSOを発行したことが後々発覚した場合の取扱い等については、次回以降説明したいと思います。
注:本ブログでは、分かりやすさの観点より、必ずしも正確でない用語・表現を用いて説明していることがあります。個別具体的な法解釈については、必ず専門家にご相談ください。 |
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