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【改正公益通報者保護法ブログ】第1回 改正公益通報者保護法の概要
2021.01.06
はじめに
2020年6月8日、改正公益通報者保護法が成立し、同月12日に公布された。その施行は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされており(附則1条)、2022年6月までに施行されることが予定されている(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)」(以下「改正法Q&A」という。) 参照)。
公益通報者保護法は、2000年初頭に社会問題となった企業不祥事の多くが通報を契機に発覚していたことを受けて、通報の促進及び活用を通じて、企業不祥事を早期に是正し、未然に防止することを期待して2004年6月に成立・公布し、2006年4月1日から施行された。
しかし、公益通報者保護法の制定後も、長期間にわたって法令違反行為が行われたにもかかわらず、適切な通報がなされなかった事例がみられるなど、同法が期待された役割を十分に果たしていないのではないかという懸念があった。
そこで、利用者が安心して通報することができるようにするなど、通報者を保護するための措置を強化する観点から、約15年ぶりに公益通報者保護法が改正された。
なお、本稿においては、改正公益通報者保護法を「改正法」といい、現行公益通報者保護法を「現行法」という。
改正法における主な改正点
今回の改正(以下「本改正」という。) では、以下の3つの観点から改正が行われた。
- 事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくすること
- 行政機関等への通報を行いやすくすること
- 通報者がより保護されやすくすること
そこで、本稿においても、1~3の観点に従って改正点を概説する。
1 事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくすること
改正法では、(1)事業者の体制整備義務、(2)実効性確保のための行政措置及び(3)公益通報業務従事者(以下に定義する。) の秘密保持義務が新たに規定された。
なお、通報者への不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置を導入することも検討されていたが、本改正ではかかる制度の導入は見送られている。
(1)事業者の体制整備義務
事業者が公益通報に適切に対応できるようにするため、常時使用する労働者(注1)の数が301人以上の事業者は、体制整備義務を負うこととなった(改正法11条(注2)(注3))。
そのため、体制整備義務を負う事業者は、「公益通報対応業務」(改正法3条1項各号及び6条1項各号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務をいう。以下同じ。) に従事する「公益通報対応業務従事者」を設置すること(改正法11条1項) 及び公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずること(同条2項) が必要となる。
(注1)「常時使用する労働者」とは、常態として使用する労働者を指すことから、パートタイマーであっても、繁忙期のみ一時的に雇い入れるような場合を除き含まれるが、役員は、労働者ではないことから含まれない(改正法Q&A・Q2-3)。
(注2)常時使用する労働者が300人以下の事業者については、(1)及び(2)の義務は努力義務とされている(改正法11条3項)。
(注3)体制整備義務は、独立した法人格を有する事業者ごとに課されるため、例えば、グループ会社の場合には、グループ内の各会社ごとに体制整備義務を遵守する必要がある。もっとも、子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられる(改正法Q&A・Q2-2)。
(2)実効性確保のための行政措置
事業者の体制整備義務の履行の実効性を確保するため、内閣総理大臣は、事業者に対して、報告を求め、又は助言・指導・勧告をすることができ(改正法15条)、勧告に従わなかった場合には、その旨を公表することができる(改正法16条)。また、かかる報告の求めに応じなかった場合又はかかる求めに対して虚偽の報告を行った場合、かかる事業者は、20万円以下の過料に処されることとなる(改正法22条)。
そのため、体制整備義務を負う事業者は、体制整備を怠った場合には、かかる行政措置がとられる可能性があることに留意する必要がある。
(3)公益通報業務従事者の秘密保持義務
公益通報者が安心して通報を行いやすくするため、公益通報業務従事者又は公益通報業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならず(改正法12条)、違反した場合には、30万円以下の罰金に処されることとなった(改正法21条)。
そのため、事業者としては、公益通報業務従事者が守秘義務違反に問われないようにするために、公益通報業務従事者に対する研修を行うなどの対応をすることが必要となる。
2 行政機関等への通報を行いやすくすること
改正法では、行政機関及びその他の外部通報先に対する通報が保護される要件が緩和された。
(1)行政機関に対する通報
通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報が保護される要件が緩和された(改正法3条2号)。具体的には、現行法では真実であると信ずるに足りる相当の理由がある場合にのみ保護の対象とされていたところ、改正法では、以下の(ⅱ)の場合においても保護の対象とされることとなった。
(注4)現行法3条2号と同内容である。
(2)その他の外部通報先以外の第三者に対する通報
その他の外部通報先に対する公益通報が保護される要件は、現行法と同様、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」であるが、かかる要件に加えて要件とされている「次のいずれかに該当する場合」の内容として以下の場合が追加され、保護される要件が緩和された(注5)(改正法3条3号)。
(注5)改正法3条3号イ、ロは、それぞれ、現行法3条3号イ、ロと同様であり、改正法3条3号ニ、ホは、改正に伴う技術的な変更があるのみで、それぞれ、現行法3条3号ハ、ニと同内容である。
(注6)ここでいう「損害」は、「回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするもの」に限られる(改正法3条3号ヘ)。
3 通報者がより保護されやすくすること
改正法では、(1)保護される公益通報者の範囲、(2)通報対象事実及び(3)保護の内容が以下のとおりそれぞれ拡大された。
公益通報者の範囲 |
|
通報対象事実の範囲 |
「同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実」(行政罰に係る事実)の追加(改正法2条3項1号) |
保護の内容 |
・禁止される不利益取扱いの内容に「退職金の不支給」(改正法5条1項)及び「報酬の減額その他不利益取扱い(解任を除く。)」(改正法5条3項)の追加 ・役員が改正法6条各号に定める要件を満たす公益通報を理由として解任された場合における当該役員の事業者に対する解任によって生じた損害に係る損害賠償請求権(改正法6条) ・事業者による、改正法3条各号及び6条各号に定める公益通報により損害を受けたことを理由とする、公益通報者に対する損害賠請求の制限(改正法7条) |
(注7)なお、現行法上、派遣労働者は、「労働者」(現行法2条1項)に含まれると解されている。
まとめ
以上のように、改正法の下では、体制整備義務に基づきどのように体制を構築していくか、秘密保持義務を負うこととなる公益通報業務従事者の教育をどのように行っていくかなど、改正法の施行に備えて事業者が対応することを求められる事項が多数存在している。
そこで、第2回以降では、改正法を踏まえた内部通報制度構築の留意点について書いていきたいと思う。