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【会社法実務ブログ】社外取締役ノート(2)「原点」における位置づけ
2021.01.15
近時、その重要性や存在感が高まり続けている社外取締役。ガバナンスの文脈で語られることが多い役職ですが、一方で、その位置づけや職責などについて考えてみると、実にユニークな存在であることが分かります。そんな社外取締役について、考えてみましょう。
はじめに
前回は、社外取締役を何人置く必要があるのか、ということについて規制の状況を概観しました。その後、SSC/CGCのフォローアップ会議が昨年12月18日に公表した意見書(こちらで原典に当たれます。)において、
「2022 年の新市場区分移行後の「プライム市場(仮称)」については「我が国を代表する企業の市場」として高い水準のガバナンスが求められている。こうした観点も踏まえ、同市場の上場企業に対し、独立社外取締役の3分の1以上の選任を求めるべきである。」
「さらに、それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業には、独立社外取締役の過半数の選任を検討するよう促すべきである。 」
という意見が公表され(下線部は筆者)、日経新聞も、昨年12月25日付け「東証、企業統治改善迫る プライム条件厳しく」と題する記事や、本年1月14日付け「プライム市場のガバナンス」と題する記事などで継続的に報じるなど、この問題に対する市場関係者の関心の高さが見て取れる状況が続いています。
一方、同じく市場関係者の中からも、上記のような「数」の、実質的な能力を有する社外取締役を確保できるのか、という現実味の問題を含め、異論も公表されているところであり、この問題の難しさもまたよく分かるところです。
市場再編自体もそのうち会社法実務ブログでご紹介することがある(我々ではない誰かが笑)と思いますが、今回は、引き続き、社外取締役について思いついたことを書き留めておきたいと思います。
コーポレートガバナンス論の"原点"
さて、今回は、コーポレートガバナンス論の"原点"とも言える資料に触れてみます。
会社法を専門にしている弁護士であれば何かに付け参照する名著シリーズとして、江頭憲治郎先生の『会社法の基本問題』という書籍があります(2011年、有斐閣)。この書籍に、「コーポレート・ガバナンスの視点から見た会社法」という論文が収録されています。
この論文は江頭先生のご講話を文章化したもので(1996年東京株式懇話会・会報掲載)、非常に分かりやすく我が国の会社法研究者の方々がコーポレートガバナンスをどのように見ておられてきたのかが分かるものですが、その内容として、
そもそもコーポレート・ガバナンスという言葉がいつごろから使われているのか、私はよく知りません。アメリカでこの言葉が一般に使われ始めたのも、さほど古いことではないように思います。私自身、そういう概念があるのか、とこの言葉を意識したのは、American Law Instituteというアメリカの法律家の団体…が1982年にPrinciples of Corporate Governance and Strucutre - Restatement and RecommendationsのTentative Draft No.1を公表した時が初めてでありました。これがその後、Principles of Corporate Governance: Analysis and Recommendationsと名を変え、1992年に完成するわけです。
という一節があります。
コーポレートガバナンスを益々学びたい我々としては、常に日常業務の中でパッチワークのような知識状況に陥ってしまうことを危惧しているところもあり、早速その邦訳・解説書を購入し、年末年始にステイホームで読んでみました。
今回その全体像に立ち入ることはしませんが(というより、できません。。)、令和元年の会社法改正で導入された制度を含め、
「アメリカでは、これほど前にこれほど現在の日本の問題意識に一致するような論点が既に議論されていたのか…そして日本の会社法の研究者の方々も、このような時期から、既にこういった議論があることを認識していたのか…」
と感銘を受けた次第でした。特に、あらゆる会社のステークホルダーの行動(会社のための行動)について、誰が費用を支弁すべきかという視点が貫徹されていることは、制度を実効性あるものとするために必要な検討が行き届いているという印象を受けます。
※なお、このPrinciplesはその後複数回のアップデートを経ているようです。
"原点"における社外取締役の位置づけ
では、そんな「Principles of Corporate Governance: Analysis and Recommendations」(邦訳に倣い、「CGの原理」と呼びます。)の当初版では、話題の社外取締役はどのような文脈で登場しているでしょうか。
CGの原理は、条文のような形で様々なルールを示していますが、実は、その中においては、(当時と今の概念の整理の問題もありますが)社外取締役自体を定義してその権限云々を検討するようなアプローチは採られていません。
すなわち、やや複雑なのですが、ざっくり言うと、以下のような規律が述べられています。
1.Officerとは、①CxO、②CxOではない取締役会の議長(但し例外あり)、社長、副社長等、主たる事業部門又は職務の主担当者、会社のために主たる方針決定の職務を遂行する者、③その他、会社がOfficerとして指定した人、をいう。
2.Officerのうち、①②に該当する者を、Senior Executiveとする。
3.公開会社における取締役会の構成として、
(1)大規模な公開会社の取締役会にあっては、会社の議決権の過半数がある者やそのグループに集中的に保有されていない限り、その構成員の過半数を、Senior ExecutiveとSignificant Relationshipを持たないDirectorによって構成しなければならない。
(2)大規模なもの以外の公開会社の取締役会にあっては、その取締役会の構成員のうち、少なくとも3名について、Senior ExecutiveとSignificant Relationshipを持たないDirectorとしなければならない。
4.あるDirectorは、事業年度末において以下に該当する場合、当該会社のSenior ExecutiveとSignificant Relationshipを有するものとする。但し、例外もある。
(1)当該Directorが会社に雇用され、又は、最近2年間に雇用されたことがある場合
(2)当該Directorの近親者がOfficerとして会社に雇用され、又は、最近2年間にSenior Executiveとして雇用されたことがある場合
(3)当該Directorが、最近2年間のうち1年間に、20万ドルを超える支払いを会社に行い、又は、会社から受けている場合等
(4)当該DirectorがPrincipal Managerであり、最近2年間のうちの1年間に、その組織との間で一定以上の額の支払いを行い、又は、受けた場合等
(5)当該Directorが、最近2年間に、当該会社の会社法又は証券法の一般的問題についての主たる法律顧問であったことがあるローファームに、職業専門家として所属している場合等
このように見てみると、CGの原理の規律は、「社外」性だけでなく「独立」性をも含めた形で設けられている、という捉え方ができそうです(しかし(5)はアメリカを感じますね!)。
※3(1)の考え方も、実によく考えられているように思われます。上場子会社問題の文脈でも取締役人事のあり方については様々な考え方がありますが、CGの原理の初版ではこのような整理になっていた、ということを知っておくだけでも、一定の意味がありそうです。
これを「いまの日本のビジネス用語」で平たく言い換えると、執行との距離が職務的にも物理的にも金銭的にも遠い人を、大規模公開会社では過半、そうでなくても3名以上置こう、ということを言っているように読めます(後者について分母は何人にするのかという話はありますが。)。
もちろん、上記水準は1992年段階のものですし、そもそも経済規模も異なるため個別の要件を比較検討しないとあまり意味のあることではないのですが、社外取締役のうち、独立性を有する者がある程度以上必要だ、ということを有価証券上場規程やCGコードが言っているのも、「なるほど、古くから同様のアプローチで考えられてきたるのだな」とは言えそうです。
東証の独立性判断のルールでは、
・「経営陣から著しいコントロールを受け得る者」
・「経営陣に対して著しいコントロールを及ぼし得る者」
などについては、「一般株主との利益相反が生じるおそれ」があるから独立役員の要件を満たさない可能性が高いよ、ということが言われていたりしますが、過去に遡る程度(2年→10年)の差異こそあれ、概ね、上記CGの原理が述べているところと問題意識は交差している、ということが言えそうです。
やはりCGの原理の原理、ただものではありません。
長くなってきましたので、今回はここまで。次回のネタを指定すると筆が重くなりそうですが笑、"そのうち"、令和元年の会社法改正で議論が盛り上がりそうな、社外取締役と業務執行の話に踏み込んでいきたいと思います。