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【会社法実務ブログ】社外取締役ノート(1)結局、何人置く必要があるのか?
2020.11.11
近時、その重要性や存在感が高まり続けている社外取締役。ガバナンスの文脈で語られることが多い役職ですが、一方で、その位置づけや職責などについて考えてみると、実にユニークな存在であることが分かります。そんな社外取締役について、考えてみましょう。
はじめに
これから社外取締役について答えのないことをあれやこれや申し上げていこうと思いますが、まずはその前提として、「社外取締役」を設置することを求めるルールについて確認しておきます。
というのも、「結局当社は社外取締役を何名置くことが義務づけられているのですか?」というご質問は、雑談レベルを含めると、とにかく多くあります。それくらい、ルールが複層化していて分かりにくいのですよね(我々は当然に即答できないと恥ずかしいレベルの知識ではあるのですが、体制次第で変わる部分があるため、虚を突かれると一瞬緊張感を覚えます笑)。そこで今回は、まずここを整理してしまいましょう。なお、以下では、上場会社を念頭に置いています。
※(あまり正確な表現ではありませんが、シンプルに言うと)非上場会社は、委員会型のガバナンス体制を採用している場合には2名以上の社外取締役、監査役会を設置している場合には2名以上の社外監査役を置くことが義務づけられることになりますが、これらのような体制を採っていなければ、特に「社外」の役員を置く必要性は生じません。
社外役員の設置ルール
(以下は、2020年11月11日(ポッキーの日)現在の情報です。欄内に記載のとおり、令和元年改正会社法によりルールが変わりますのでご注意ください!)
会社法 |
(監査役会設置会社の場合)
・上場会社等(公開会社+大会社+監査役会設置会社であって、有価証券報告書を提出しなければならない会社)【が社外取締役を置いていない場合には、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない】(327の2)。 →黄色部分は、令和元年改正会社法により、【は、社外取締役を置かなければならない】に変わります。したがって、同改正法施行後は、会社法が、はじめて社外取締役の設置を義務付けるルールを置くことになります。 ・監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない(335Ⅲ)。 →監査役会による監査という(伝統的な)ガバナンス体制を採用する会社では、 ①本稿投稿時には、社外「取締役」に関するルールは「置いていない場合」の説明義務の形でのみ規定されており、設置が義務づけられているわけではなく、監査役会の過半数(すなわち2名以上の監査役)が社外「監査役」であることを求められているのみであるが、 ②令和元年改正会社法施行後は、社外取締役1名以上を置くことが義務づけられ、かつ、監査役会の構成に関する規定は変更がないため、少なくとも3名以上の社外「役員」を置くことになる。
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(委員会を置く会社の場合) ・監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は、3人以上で、その過半数は、社外取締役でなければならない(331Ⅵ)。 ・指名委員会等設置会社においては、(指名、監査、報酬の)各委員会は、各3人以上で、その過半数は、社外取締役でなければならない(400Ⅲ)。
→委員会型のガバナンス体制を採用する会社では、会社法上、2名以上の社外「取締役」が設置されることが前提となっている。
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有価証券 |
・上場会社は、独立「役員」を1名以上確保する義務がある(436の2Ⅰ)。 ※独立役員とは、「一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役」のこと。 ・上場会社は、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならない(445の4)。 →現状のルールで義務付けられているのは独立「役員」を1名以上確保することであり、独立「社外取締役」を設置することではない。 |
CGコード |
・上場会社は、「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」である(原則4-8)。 ・業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである(原則4-8)。 ※独立性は、「金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準」により判定し、それを「策定・開示すべき」とされる(原則4-9)。 →上場会社は、独立社外取締役を2名以上置くことが求められる。後段は改正により「取組み方針を開示すべき」というルールから、「十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」というルールに変更になった。 |
これを、CGコードにコンプライ(但し原則4-8第2文の体制は採用していないものとします。)している上場会社の機関設計別に整理すると、以下のようになります。
機関設計 |
設置義務のある社外取締役の最小人数 |
監査役会設置会社 |
2名(CGコード)…独立性要(CGコード) |
監査等委員会設置会社 |
2名(法)…独立性要(CGコード) |
指名委員会等設置会社 |
2名(法)…独立性要(CGコード) |
根拠がCGコードであるものが多いですね。もし、CGコードにコンプライしないとすると、、
機関設計 |
設置義務のある社外取締役の最小人数 |
監査役会設置会社 |
改正法施行前は0名、改正法施行後は1名(法)…社外監査役2名に独立性があれば当該社外取締役に独立性は不要(上場規程) |
監査等委員会設置会社 |
2名(法)…うち1名は独立性要(上場規程) |
指名委員会等設置会社 |
2名(法)…うち1名は独立性要(上場規程) |
となります。CGコードおそるべし。だいぶ変わってしまいます笑
というわけで、今回は「結局社外取締役は何人置く必要があるのか」について整理を試みました。
どうもすっきりしないというか、一見して分かりやすい規制ぶりとは言いにくいように思われます。
法とソフトローの関係のような問題もあると思いますが、会社法そのものは、社外取締役の設置強制論に対し、様々な意見を踏まえた慎重な対応を進めているということが背景にあると思われ、なかなか印象的ですね。
この社外取締役の設置義務に関するルールはこれからも議論や改正があるポイントだと思いますので、随時アップデートしていきたいと思います。
Member
小川周哉 彈塚寛之