ブログ
【シンガポール】シンガポール国際仲裁法の改正(2020年12月1日施行)
2021.02.15
概要
シンガポール国際仲裁法(International Arbitration Act (Cap. 143A))の改正案が2020年11月13日に可決され、同年12月1日から施行されました。 具体的な改正点は、以下の2点です。
①複数当事者間の仲裁(申立人又は被申立人が複数存在する仲裁)における仲裁人の選任方法の原則的ルールを明文化
②仲裁廷及び高等裁判所が守秘義務を強制する権限を有することを明文化
複数当事者間の仲裁における仲裁人の選任方法の原則的ルールを明文化
これまでのシンガポール国際仲裁法は、二当事者間の仲裁を想定した仲裁人の選任手続となっていました。しかし、紛争が複雑化・高度化するにしたがって、申立人又は被申立人が複数存在する仲裁が多くなり、仲裁人の選任方法の合意がない複数当事者でも仲裁を利用しやすくする必要性が高まっていました。そこで今回の改正法では、複数当事者間の仲裁における仲裁人の選任手続が明確にされました。
改正法による具体的な選任手続は、以下のとおりです。
(a) 申立人が複数いる場合は、それらの申立人全員で1名の仲裁人を選任する。
(b) 被申立人が複数いる場合は、それらの被申立人全員で1名の仲裁人を選任する。
(c) 上記(a)で選任された仲裁人1名と(b)で選任された仲裁人1名の計2名がさらに1名の仲裁人を選任する。そのように選任された仲裁人が議長となる。
(d) 仮に上記(a)及び(b)において全員で特定の仲裁人を選任する合意を形成できなかった場合には、代わって当局(原則としてシンガポール国際仲裁センターの仲裁裁判所のPresident)が仲裁人を選任する。
この選任手続は、これまで仲裁機関(国際商業会議所、シンガポール国際仲裁センター、香港国際仲裁センターなど)の規則で定められていたものを参考にしたものですが、シンガポール国際仲裁法において明文化されたことにより、複数当事者の紛争においてより仲裁が利用されやすくなることが期待されています。
仲裁廷及び高等裁判所が守秘義務を強制する権限を有することを明文化
これまでは、仲裁当事者や仲裁廷は、仲裁の過程で取得した他者の秘密情報について、当事者間の合意や仲裁機関の規則に応じて明示又は黙示的の守秘義務を負っていました。しかしながら、これに違反した場合の措置については明文化されておらず、より実効性を持たせる必要性があるとの意見がありました。
そこで、今回の改正法では、守秘義務について、(i)書面による合意(仲裁合意か否かを問いません)がある場合、(ii)法に基づく場合、又は(iii)当事者が合意した仲裁規則に定めがある場合には、仲裁廷及び高等裁判所が仲裁当事者に対して、その守秘義務を強制することができることが明記されました。
この改正は、仲裁当事者に新たな守秘義務を課すものではありませんが、仲裁廷及び高等裁判所の守秘義務に関する権限を明確化することによって、守秘義務の履行をより一層確保する機能を果たすものであり、守秘性の高い紛争案件に適するという仲裁のメリットを高めるものとなります。
以 上
※本稿は一般的な法令情報を提供するものであり、シンガポール法に関するアドバイスや法的意見を提供するものではありません。