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【シンガポール】シンガポールにおける電子署名-電子取引法の改正-
2021.07.14
はじめに
シンガポールでは、2021年3月19日に、電子取引法(Electronic Transaction Act)の改正法が施行されました。
電子取引法は、電子契約や電子署名の有効性について定めるものであり、シンガポールで取引を行う際に重要なものです。
電子契約や電子署名というと、日本では、以前からオフィスや官公庁におけるペーパーレス化や印鑑の廃止に向けた動きがありましたが、その流れは決して早いものではありませんでした。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によりリモート勤務が推奨される中、「書類にハンコを押すために通勤を余儀なくされた」、「紙の資料を見るためだけに出社が必要になった」という話がクローズアップされ、批判の対象となっており、民間・官公庁ともにペーパーレス化・電子化の流れが加速しています。
そのような中で、電子契約や電子署名の重要性はより一層高まりつつあります。
こうした電子契約や電子署名の重要性は、日本に限られたものではありません。
むしろ、ハンコ文化のない海外では以前からペーパーレス化が進んでおり、電子契約や電子署名については日本より導入が進んでいる国も多く、シンガポールもその一つといえます。
そこで今回は、シンガポールの改正電子取引法のうち、コロナ禍で以前より関心が高まっている電子署名について解説したいと思います。
電子署名の取扱い
(1) 電子署名(electronic signature)
シンガポールの電子取引法では、電子署名(electronic signature)について、以下の要件を満たす場合には、手書きの署名と同様の効果を有するとしています。
※なお、電子署名(electronic signature)については、電子取引法自体には定義がないものの、シンガポールのInfocomm Media Development Authority(情報通信メディア開発庁)は、電子署名(electronic signature)を「当事者の意思(たとえば受諾のような意思)を示すために使用することができ、該当者を電磁的に認証することができる電子フォーマットで提供されるもの」と説明しています。
≪手書きの署名と同様の効果を有するための要件≫
(a) 署名者を特定し、電子記録に含まれる情報についての署名者の意思を確認できる方法であり、かつ、
(b) (i) 関連契約を含む全ての状況を考慮して電子記録の作成・通信の目的に適した信頼性を有する場合、
又は、
(ii)それ自体又はその他の証拠により(a)の機能を果たすことが実際に証明できる場合
そして、電子署名(electronic signature)の具体的な方法についても明記はありませんが、事業者が提供する電子署名サービスによる電子署名や、手書きの署名等を画像として取り込んだ電子データ等による署名だけでなく、ウェブサイト上の規約について「I Agree(承諾する)」のボタンをクリックしたりチェックボックスにチェックをいれたりすることも、電子署名(electronic signature)に該当しうると考えられています。
(2) セキュア電子署名(secure electronic signature)
一方、電子取引法は、電子署名(electronic signature)の他に、セキュア電子署名(secure electronic signature)についても規定しています。
すなわち、電子署名(electronic signature)のうち一定の厳格な要件(後記)を満たしたものについては、セキュア電子署名(secure electronic signature)として、
①その署名が本人の署名であること
②本人が電子記録に署名又は承認する意図をもって署名したものであること
③本物であり完全性があること
という推定が働くこととしています。
したがって、仮にセキュア電子署名の有効性について争いが生じた場合には、その署名が有効ではないと主張する側が上記①~③を反証する必要があります。
セキュア電子署名(secure electronic signature)の要件は、以下のとおりです。
(a) 使用する者に固有のものであること
(b) 使用する者を特定できること
(c) 使用する者が唯一管理できる方法又は手段で作成されていること
(d) 電子記録が変更された場合には電子署名が無効となるような方法で、電子記録とリンクしていること
(3) デジタル署名(digital signature)
電子取引法は、電子署名(electronic signature)のうち、特に非対称暗号システムとハッシュ関数を用いた署名をデジタル署名(digital signature)と呼び、認証機関から証明書が発行された場合などの一定の要件を満たした場合にはセキュア電子署名(secure electronic signature)とみなされることを明記しています。
電子署名を使用できない書面
電子署名には利便性が認められるものの、重要な書面や厳格な様式が求められる場面では電子署名を使用することができず、手書きの署名が必要とされています。
具体的には、電子取引法の別紙1に記載された以下のものについては、電子署名を使用することができません。
- 遺言の作成・執行
- 捺印証書、信託宣言、委任状
- 不動産の売却及び/又は処分に関する契約
- 不動産又は不動産の権利の移転
なお、前述の電子取引法の改正までは、有価証券等もこれらと同様に電子署名の使用が認められていなかったものの、改正により別紙1から削除されたため、電子署名を使用することができることになりました。
さいごに
各国において新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、シンガポールでも接種率は順調に伸びているようですが、このままワクチン接種が進んでもリモート勤務がなくなることはなく、これまで以上に電子契約や電子署名が一般的になるでしょう。
シンガポールでのビジネスや、シンガポール法人との取引においては、電子契約や電子署名を積極的に活用し、安全かつ効率的なビジネスを行うことが重要になると考えられます。
以上
※本稿は一般的な法令情報を提供するものであり、シンガポール法に関するアドバイスや法的意見を提供するものではありません。