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令和3年特許法改正の概要(前編)
2022.04.01
はじめに
令和3年5月14日、「特許法等の一部を改正する法律案」が可決・成立し、同月21日に法律第42号として公布されました。本法律により、以下の事項について改正が行われることになります。
①審判口頭審理のオンライン化
②訂正審判等における通常実施権者の承諾要件見直し
③特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
④特許権等の権利回復要件の緩和
⑤特許料等の料金体系見直し
⑥印紙予納の廃止・料金支払方法の拡充
⑦災害等の理由による手続期間徒過後の割増料金免除
本法律の施行日は規定により異なります。
本稿では、この令和3年特許法改正のうち、上記①~③についてご説明させていただきます。
※上記④~⑦及び今回改正が見送られた「輸入」概念の明確化については、令和3年特許法改正の概要(後編)でご説明させていただきます。
①審判口頭審理のオンライン化
1.新旧対照表
改正される条文:特許法145条6項、7項
特許法145条6項
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2.施行期日
令和3年10月1日
3.改正法の概要等
特許法では、特許無効審判及び延長登録無効審判は、口頭審理によるものとされており(特許法145条1項)、また、拒絶査定不服審判及び訂正審判は書面審理によるとされていますが、審判長は、当事者の申立てにより又は職権で、口頭審理によるものとすることができるとされています(同条2項)。
しかしながら、当事者等が新型コロナウイルス感染症に対する不安を持つことなく口頭審理に参加できるようにするという観点及びデジタル化等の社会構造の変化に対応しユーザーの利便性を向上させる観点からは、当事者等が審判廷に出頭することなく、口頭審理の期日における手続に関与できるようにすることが望まれていました。
そこで、ウェブ会議システムにより口頭審理に参加できるようにする改正が行われました(特許法145条6項、7項)。審判長は、ウェブ会議システムによる手続を行うときは、当該手続に必要な装置、通話先の場所その他当該手続の円滑な進行のために必要な事項を確認するものとされ、審判長は、装置又は場所が相当でないと認めるときは、当事者又は参加人に対し、その変更を命ずることができるとされています(特許法施行規則51条の2)。
また、特許法71条3項及び特許法151条において、特許法145条6項及び7項が準用されているため、判定の口頭審理における手続、証拠調べ及び証拠保全における手続についても、当事者はウェブ会議システムにより参加することができます。
②訂正審判等における通常実施権者の承諾要件見直し
1.新旧対照表
改正される条文:特許法97条1項、127条
特許法97条1項 (新)
(新) |
2.施行期日
令和4年4月1日
3.改正法の概要等
改正前の特許法では、特許権者が、訂正審判の請求、特許無効審判又は特許異議の申立てにおける訂正の請求、及び特許権の放棄を行うためには、専用実施権者、質権者又は通常実施権者(職務発明若しくは許諾による通常実施権者に限る。)の承諾が必要でした(改正前の特許法97条1項、127条並びに同条を準用する120条の5第9項及び134条の2第9項)。そのため、例えば、第三者から特許の無効又は取消しを主張された場合であっても、特許権者が通常実施権者等の承諾を得ることができなければ、特許の訂正を行うことができず、結果的に特許を無効とされ、あるいは取り消されてしまうリスクが存在しました。このような不都合を回避するため、実務上は、特許実施許諾契約書において、特許権者がライセンシーから訂正について包括的な承諾を取得すること等により対応をしておりました。
しかしながら、①通常実施権者が増加・多様化したことにより、全ての通常実施権者の承諾を得ることが現実的に困難となっていることや、②特許請求の範囲を訂正しても通常実施権者の法的利益を害するものとはいえないにもかかわらず、通常実施権者の承諾を得られないことにより特許権者が訂正という防御手段を実質的に失うことは、特許権者の保護を欠く状況となっていることなどが指摘されておりました。また、特許権の放棄については、本来、特許権者が自由に行えるべき特許権の放棄に関し、そのことに対して法的な不利益のない通常実施権者の承諾を求めることとなれば、特許権者等に不必要な負担を課すことになるとの指摘がされておりました。
そこで、上記1のとおり法改正が行われ、令和3年改正後の特許法では、特許権者が、訂正審判の請求、特許無効審判又は特許異議の申立てにおける訂正の請求、及び特許権の放棄を行うために、通常実施権者の承諾を得る必要がなくなりました。ただし、令和3年改正後の特許法でも、従前と同じく、専用実施権者や質権者の承諾を得る必要はありますので、留意が必要です。
③特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
1.新旧対照表
改正される条文:特許法105条の2の11、弁理士法4条2項4号
特許法105条の2の11 (新設) |
2.施行期日
令和4年4月1日
3.改正法の概要等
特許権侵害訴訟は、民事訴訟であるため、特許法において特別の定めがない限り、民事訴訟法の規定が適用されます。したがって、判決の効力は当事者にのみ及び、裁判所の判断の基礎となる証拠の収集及び提出は当事者の責任であり権限とすることが原則です。
しかしながら、近年の特許を巡る情勢の変化に起因して、特許権等侵害訴訟における裁判所の判断が、確定判決の効力の及ぶ当事者等以外の第三者に対しても事実上の大きな影響を及ぼす問題領域が出てきており、そのような場面では、裁判所が影響を受ける第三者の事業実態等も踏まえて判断することが望ましい場合があり、当事者が上記民事訴訟の原則に従って証拠を収集する際、第三者の事業実態等も証拠として収集し、裁判所に提出することが期待されると考えられました。
両当事者の合意を得て第三者からの意見募集が実施された事例はあるものの、意見募集の実施に際して全ての当事者の合意を得ることは困難な場合があるため、必ずしも全ての当事者が合意をしている場合でなくとも広く一般の第三者からの意見募集を行うことができる制度を創設することが望ましいとの指摘がありました。
そこで、裁判所が、広く一般の第三者に対し、事件に関する特許法の適用その他の必要な事項について意見書の提出を求める制度が創設されました。
提出された意見書は、当然には訴訟記録を構成しないため、各当事者は、提出された意見書を閲覧、謄写等した上で、各自が裁判所の判断の基礎とすることを望むものについては、裁判所に書証として提出する必要があります。
経過措置は定められておらず、施行期日において既に係属中の事件についても、第三者意見募集を求めることは可能です。
参考文献:
特許庁「令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書」(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2022/2022-42kaisetsu.html)
※令和3年特許法改正の概要(後編)はこちら