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【労働法ブログ】性的マイノリティ従業員のために企業が取り組むべき事項
2022.12.02
はじめに
近年、性的マイノリティ当事者にとっても快適な環境を実現するための取り組みは、学校、自治体等においても進んでいますが、就労の現場も例外ではありません。
各企業における取り組みは、性的マイノリティ当事者に対するハラスメント防止や施設利用面における配慮にとどまらず、ダイバシティ・インクルージョンの観点から、かつては法律婚にのみ認められていた社内の各種福利厚生制度(結婚祝金、結婚時の慶事休暇、社宅補助等)を同性パートナーシップにも認める等の積極的な施策に及ぶ例も見られます。
ここでは、各労働者が性的指向・性自認にかかわらず快適に働くことができるようにするために各企業が留意すべき事項について概観します。
ハラスメントの防止
改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)の施行により、2020年6月より、法令上、パワーハラスメントの防止措置を採るべき事業主の義務が明確化されるに至りましたが(2022年4月からは中小企業も含め全面施行)、同法に基づき事業主が採るべき措置について示す指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、性的指向・性自認に関するハラスメントに関して、以下のような行為がパワーハラスメントに該当しうる旨が述べられています。
①相手の性的指向・性自認に関する侮辱的言動を行うこと。
②労働者の性的性向・性自認等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること
上記②は「アウティング」と呼ばれる行為です。性的指向・性自認に関する情報が、本人の意に反して第三者に知られると、安心して円滑な職場生活を送ることが困難になる可能性があるため、当事者本人の意向を確認しておくことが必要です。
また、性的指向・性自認に関連するハラスメントが、セクシャルハラスメントに該当する場合もあります。
性的指向・性自認に関するハラスメントは、「パワハラ」「セクハラ」とは別個、「SOGIハラ」という概念で整理される場合もあります。この概念は、一般的にも定着しつつあるものとなっています。各企業ではこのようなハラスメントが起こらないよう、教育・研修や制度整備を行うことが望まれます。ここでの「SOGI」とは、「Sexual Orientation and Gender Identity」、すなわち「性的指向・性自認」の略称です。
施設利用における配慮
トランスジェンダーの労働者は、トイレや更衣室等の男女別施設の利用について困難や不便を感じることも少なくありませんが、これらの施設の利用に関わる希望は様々です。そこで、対応を検討・実施するにあたっては、本人の希望も踏まえながら、慎重に取り扱う必要があります。
近時の裁判例では、経済産業省において性同一性障害の職員(性自認は女性、性別適合手術は受けておらず戸籍上は男性)が職場で女性用トイレの利用を制限された(勤務フロアから2階以上離れたフロアの女性用トイレの利用しか認められなかった)ことについて、その違法性が論点となったものがあります。
第一審(東京地判令和元年12月12日)では「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益として、国家賠償法上も保護されるものというべき」「個人が社会生活を送る上で、男女別のトイレを設置し、管理する者から、その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは、当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たると考えられる」と示されました。そのうえで、同判決は「法律上の性別変更をしていないトランスジェンダーによるトイレ等の男女別施設の利用については、多目的トイレや男性と女性の双方が使用することのできるトイレの使用等を提案し、推奨する考え方も存在するところであって、必ずしも自認する性別のトイレ等の利用が画一的に認められているとまでは言い難い状況にある」ことを認めつつも、「生物学的な区別を前提として男女別施設を利用している職員に対して求められる具体的な配慮の必要性や方法も、一定又は不変のものと考えるのは相当ではなく、性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等に応じて、変わり得るものである。・・・当該性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等を踏まえて、その当否の判断を行うことが必要である。」として、当該事案における具体的事情を踏まえ、経済産業省の対応について違法性を認めました。
これに対し、第二審(東京高判令和3年5月27日)では、自らの性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、法律上保護された利益であることを認めつつも、「他の職員が有する性的羞恥心や性的不安等の性的利益も併せて考慮し、」「全職員にとって適切な職場環境を構築する責任を」経済産業省が負っていたことや、経済産業省が「性別の取扱いの変更の審判を受けていないトランスジェンダーによる性自認について指針となる規範や適切な先例が存在しない中で獲得できた資料を基に」「積極的に対応策を検討した結果、関係者の対話と調整を通じて決められた」ものであり、当該職員もこれを「納得して受け入れていたことが認められる」等として、女子トイレの使用制限についての違法性は認めませんでした。
トランスジェンダーの男女別施設の利用に関して具体的にどのような配慮をすべきかについては、当事者の意向や周囲の者に与える影響等に応じてのケースバイケースの判断となりますが、例えば「性別適合手術をしていないから一切の対応をしない」等の硬直的な対応は避けるべきであり、柔軟な対応が望まれます。また、時々刻々と社会状況も変化していますので、常に、更に望ましい対応策は可能ではないかを検討し続けることが大切だと言えます。
福利厚生制度の同性パートナーへの適用
一部の企業では、結婚祝金、結婚時の慶事休暇、社宅補助等の福利厚生制度について、法律婚に限らず同性パートナーの場合にも適用するよう社内規程を変更する等の対応をしている場合もあります。制度設計においては、同性パートナーであることの証明をどのように求めるか等の課題もありますが、ダイバシティ・インクルージョンが求められる中、このような対応を拡充することが益々望まれることとなるでしょう。
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