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【中国】【特許】【意匠】審査基準改正案の再公表-4開放式許諾制度
2022.12.15
今回の改正案の位置づけ
中国国家知的財産局(CNIPA)は2022年10月31日、専利審査基準の改正案(パブリックコメント再募集稿)を公表しました。先日の1概要速報、2特許期間調整、3部分意匠出願に続き、本稿では、今般公表された審査基準改正案、及び既に公表されている専利法実施細則改正案の内容に基づいて、新たに導入される予定の開放式許諾制度についてご紹介します。
なお、今回のパブリックコメント募集期間は、本日(2022年12月15日)までとなっています。
開放式許諾制度の概要
開放式許諾制度とは、権利の活用促進のために、出願人又は権利者が任意の第三者に対しライセンス提供をする用意があることを宣言するかわりに、特許料の減免等を受けられる制度です。
中国では、2021年6月1日より施行された改正専利法において、この制度が導入されましたが、その詳細は、専利法実施細則及び審査基準の改正により定められることになっています。
開放式許諾の宣言と撤回
開放式許諾の宣言と撤回について、専利法第50条には以下の規定があります。
専利法 第50条 専利権者が、国務院専利行政部門に対し書面にて、如何なる事業体又は個人にもその専利の実施を許諾する意思がある旨を宣言し、許諾実施料の支払方式、基準を明確にした場合、国務院専利行政部門はそれを公告し、開放式許諾とする。実用新案、意匠について開放式許諾の宣言をする場合、専利権評価報告書を提供しなければならない。 専利権者が開放式許諾の宣言を撤回する場合、その旨を記載した書面を提出し、国務院専利行政部門によって公告されなければならない。 |
審査基準改正案によれば、開放式許諾を行う権利者は、国家知的財産局(条文では「国務院専利行政部門」と記載)に対して書面を提出し、あらゆる事業体・個人に対し中国領域内での専利権の実施を許諾することを宣言する必要があります。また、その書面には、(1)専利番号、(2)専利権者の氏名又は名称、(3)実施料の支払い方式及び算定基準、(4)実施許諾期間、(5)権利者の連絡先、(6)開放式許諾の条件を満たす旨の権利者の宣誓、及び(7)その他の必要な事項、を記載する必要があります。
なお、(1)独占的実施権・排他的実施権の有効期間内にある専利権、(2)権利帰属に関する争いがあり、又は人民法院の裁定により保全措置が取られており、既に関連の手続きが中止されている専利権、(3)規定通りに登録料を納付していない専利権、(4)質権が設定されており、質権者の同意のない専利権、(5)既に期間満了した専利権、(6)既に全部無効審決の出ている専利権、(7)知的財産局に評価報告書を提出していない実用新案権又は意匠権、(8)評価報告書の結論が登録要件を満たしていないとされている実用新案権又は意匠権、(9)その他専利権の有効な実施を妨げる事情のある専利権、については、開放式許諾の対象とすることができません。また、共有にかかる専利権について解放式許諾をするには、共有者全員の合意が必要です。
開放式許諾を宣言する書面が知的財産局の審査を通過すると、開放式許諾をする旨が公告されます。
開放式許諾の撤回についても同様に、権利者が知的財産局に所定の書面を提出することで行われます。対象となる専利権を譲渡、放棄等する場合には、まず開放式許諾を撤回する必要があります。
開放式許諾の宣言及び撤回は、いずれも知的財産局の公告をもって効力が発生します。
開放式許諾の実施料決定
開放式許諾の実施料について、2022年10月の審査基準改正案には、開放式許諾を宣言する書面に、実施料の算定根拠及び算定方法に関する2000字以内の簡単な説明を付すべきことが規定されています。また、実施料の金額は、一般に、固定方式の場合には2000元を超えず、ロイヤルティ方式の場合には売上額の20%又は利益額の40%を超えないことと規定されています。
2021年8月の改正案では、このような金額に関する具体的な規定は設けられておらず、代わりに、明らかに不合理な実施料について、知的財産局は当事者に証拠資料の提供を要求できる旨が規定されていました。最新の改正案では、金額に関する判断基準が明確にされています。
知財局は2022年10月に別途、「専利開放式許諾実施料算定ガイドライン(試行)」を公表し、合理的な実施料の算定基準について、強制力はないものの指導的なガイドラインを設けています。
開放式許諾の契約
開放式許諾の成立について、専利法第51条第1項には以下のように定められています。
専利法 第51条 開放式許諾された専利を実施する意思のある、いかなる事業体又は個人も、書面にて専利権者に通知し、かつ公告された許諾実施料の支払方式及び算定基準に従って許諾実施料を支払った場合、専利実施許諾を受けたものとする。 |
従って、開放式許諾の契約は、許諾を受けることを希望する事業体又は個人が権利者に対し、開放式許諾の対象となっている専利権の実施を希望する旨を書面で通知し、公告された内容に従って許諾料を支払った時点で成立します。ただし、法律・行政法規に別途の規定のある場合には、この限りではありません。また、審査基準改正案では、外国企業等が実施を希望する場合、「技術輸出入管理条例」や「技術輸出入契約登記管理弁法」等の関連規定に従う必要があることが明記されています。
また、開放式許諾契約の当事者は、当該契約を知的財産局に登記することが可能です。この登記の手続きは、通常の実施許諾と同様に、「専利実施許諾契約登記弁法」に従って行われます。
また、専利権者は、開放式許諾の希望者と協議の上、開放式許諾ではなく通常実施許諾を行うことも可能です。ただし、解放式許諾が行われている専利権について、独占的実施許諾や排他的実施許諾を行うことはできません。
更に、開放式許諾について紛争が発生した場合については、専利法第52条に以下のように定められています。
専利法 第52条 当事者は開放式許諾の実施について紛争が生じた場合、当事者間の協議によって解決する。協議する意向がない又は協議しても解決できなかった場合、国務院専利行政部門に調停を請求することができるほか、人民法院に提訴することもできる。 |
開放式許諾期間中の登録料減免
開放式許諾を行った権利については、登録料(年金)の減免措置を受けられることが専利法第51条第2項に規定されています。審査基準改正案では、更に具体的に、契約当事者が開放式許諾契約の登記を行った場合、権利者が対象専利権の登録料減免申請を提出したものとみなされ、開放式許諾の実施期間について、対象専利権の登録料が減免されることが規定されています。ここで注意すべきこととして、登録料が減免される期間は、開放式許諾の宣言をしている期間ではなく、開放式許諾契約が有効に成立している「開放式許諾期間」のみになります。従って、解放式許諾の宣言をしただけでは、減免措置をうけることはできないと理解されます。また、開放式許諾を撤回した場合、翌年度から減免措置が廃止されます。注目される登録料の減免率については、未だ公表されていません。
また、開放式許諾の対象となる専利権について、権利者と被許諾者が別途協議を行い、開放式許諾ではなく通常実施許諾を行った場合には、登録料の減免を受けることはできません。
開放式許諾制度の現状
開放式許諾制度の運用の詳細は、上述の通り、改正後の専利法実施細則及び審査基準により規定される予定です。しかしながら、知的財産局では、2021年6月の改正専利法施行後、既に積極的に同制度の導入・活用を推進しています。
具体的には、知的財産局は2022年5月に「開放式許諾パイロット事業方案」を公表し、北京・上海・山東・広東などのパイロット地域の知的財産局に、それぞれ具体的な実施案を作成させ、開放式許諾の申請と公開のプラットフォームを整備して、制度の運用を開始させました。上記「方案」では2022年末までに1000件の開放式許諾の達成を目標としており、各地の知的財産局が開放式許諾の宣言を審査・承認したことや、既に成立した解放式許諾契約があることが報道されています。
また、知的財産局は、上述の通り2022年10月末に、39頁にわたる「専利開放式許諾実施料算定ガイドライン(試行)」を公表し、実施料の算定について詳細に定めています。
コメント
開放式許諾制度は、英語ではLicense of Right(LOR)と言われ、ドイツ、イギリスなど複数国で既に導入されています。最近では、来年開始予定の欧州統一特許制度でも採用されました。ドイツ、イギリスの制度において、日本はLOR宣言数で2位以内にランクインしており、日本企業にとって需要と注目度の高い制度であると言えます。
中国は、既存特許を活用する開放式許諾制度を、「知的財産強国建設」を推進する上での重要施策の一つとみなしており、具体的な数値目標を設定して、その普及に努めています。現在審議中の専利法実施細則及び審査基準が正式に改正され、制度の詳細が確定した際には、解放式許諾制度の更に全国的な展開が予想されます。現状は各地方の知的財産局を中心に、主に国内権利者向けに運用されている同制度ですが、将来的には外国権利者も容易に利用できるようになると思われます。それまでに日本企業にとってのメリット、デメリットを見極めていく必要があり、制度の動向が注目されます。
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