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【中国】【意匠】審査基準改正案の再公表-3部分意匠出願
2022.11.11
意匠に関する改正内容
中国国家知的財産局(CNIPA)は2022年10月31日、専利審査基準の改正案(パブリックコメント再募集稿)を公表しました。先日の1概要速報、2審査期間調整に続き、本稿では、部分意匠出願関連の改正案の内容をご紹介します。
なお、今回のパブリックコメント募集期間は、2022年12月15日までとなっており、知的財産局の公表文書によれば、専利法実施細則及び審査基準ともに年内の正式改正を目指しているとのことです。
部分意匠出願制度の概要
部分意匠制度は、2021年6月1日より試行された改正専利法第2条第4項が以下のように改正されたことにより導入された制度です(下線は改正部分を示します)。
専利法 第2条第4項:
意匠とは、製品の全体又は部分の形状、模様又はその組み合わせ、及び色彩と形状、模様の組み合わせについて作り出された、美観に富み、工業的応用に適した新しいデザインを言う。
しかしながら、この部分意匠出願の実際の審査は、改正専利法施行時に出された「改正専利法の施行に関する関連審査業務処理の暫定弁法」の規定により、実施細則の改正まで実施しないことが規定されています。
改正専利法の施行に関する関連審査業務処理の暫定弁法 第1条:
専利出願人は、2021年6月1日(同日を含む)より、紙出願又はオフライン電子出願の形式で、改正専利法第2条第4項に従って物品の部分の保護を請求する意匠出願をすることができる。国家知識産権局は、新たに改正される専利法実施細則の施行後に、上記出願を審査する。
そのため、改正専利法施行後に出された大量の部分意匠出願は未だ専利局において審査を待っている状況です。
部分意匠の出願方法
これまで出された実施細則及び審査基準の改正案の内容を総合すると、部分意匠の出願方法は以下のように定められています。なお、これらの記載の大半は2021年8月の審査基準改正案に含まれており、2022年10月31日の改正案では改めての意見募集が行われませんでした。よって、以下の規定がそのまま正式改正の内容となる可能性が高いものと思われます。
(1)意匠に係る物品の名称
部分意匠に係る物品の名称について、審査基準改正案では、全体物品の名称及び意匠登録を受けたい部分の名称を含む必要があることが規定されています。例としては、「自動車のドア」、「携帯電話機のカメラ」が挙げられています。この点は、部分意匠出願であっても、意匠に係る物品の名称としては全体物品の名称を記載する日本の実務と異なります。
(2)図面
実施細則及び審査基準の改正案では、部分意匠の図面における表現方法として、意匠登録を受けたい部分を実線で示し、その他の部分を破線で示す通常の方法の他に、意匠登録を受けたい部分以外を半透明単一色で覆う等のその他の方法も利用可能なことが規定されています。また、必要に応じて、意匠登録を受けたい部分とその他の部分の境界を一点鎖線で表現してもよいとされています。
他に、全体物品の図面は、意匠登録を受けたい部分の位置及び割合を明確に示すべきであり、部分意匠が立体の意匠である場合には、当該部分を含む斜視図が必要であることが規定されています。
(3)意匠の簡単な説明
意匠の簡単な説明における図面の説明について、破線と実線以外の方法で部分意匠を表現した場合には、その旨を説明することとされています。また、一点鎖線で意匠登録を受けたい部分とその他の部分の境界を表現した場合も、その旨を説明することとされています。更に、部分意匠出願の図面で使用される破線と区別するために、図面における破線が模様である場合には、その旨を説明するとの規定も設けられています。
意匠の簡単な説明に記載する物品の用途については、必要に応じて意匠登録を受けたい部分の用途を説明するべきであり、この用途は物品の名称に記載された用途と対応しているべきであると定めています。更に、指定する代表図面は、意匠登録を受けたい部分を含むものでなければならないことも規定されています。
部分意匠出願の補正と分割
部分意匠出願に対する以下のような補正は、出願日から2カ月以内の自発補正期間にしか行えないことが規定されています。
① 全体意匠から部分意匠への補正
② 部分意匠から全体意匠への補正
③ 同一製品の部分意匠から別の部分意匠への補正
また、以下のような分割出願は認められないことが規定されています。
① 全体意匠出願から部分意匠の分割出願をすること
② 部分意匠出願から全体意匠又は別の部分意匠の分割出願をすること
部分意匠出願の単一性
(1)類似意匠出願
2022年10月31日に公表された審査基準改正案では、部分意匠と全体意匠とを1件の類似意匠出願にはできないことが、初めて明記されました。
これに対し、同一物品上の連続していない離れた部分の意匠でも、機能又は設計上の関連性があり、且つ特定の視覚的効果を形成する場合には一つの意匠として出願してよいことが規定されています。許される出願の例としては、「携帯電話機の四隅のデザイン」及び「メガネの両側のつる」が挙げられています。また、物品全体における位置及び/又は割合を通常の方法で変化させただけの複数の部分意匠や、色彩だけを変化させた複数の部分意匠も、1件の類似意匠出願に含められるとされています。
(2)セット物の意匠出願
審査基準改正案では、日本の組物の意匠出願にあたるセット物の意匠出願では、部分意匠出願はできないことが明記されています。
GUI出願
審査基準改正案によれば、GUIを含む意匠について、全体意匠出願と部分意匠出願の両方が可能であり、求める保護の種類により、以下の4種類の出願方法があります。
① 通常の全体意匠出願
・設計要点がGUIと物品の両方にある場合にこの方法を選択する。
・通常の要求通りの6面図を提出する。
・意匠の簡単な説明において、設計要点はGUI及び他の設計要素と記載する。
② GUIに特化した全体意匠出願
・物品全体の意匠だが設計要点はGUIのみにある場合にこの方法を選択する。
・少なくともGUIを含む物品の正投影図を提出し、必要に応じてGUIの図も提出する。
・意匠の簡単な説明において、設計要点はGUIのみにあると記載する。
③ 物品を伴う部分意匠出願
・物品におけるGUIの位置及びプロポーションを示す必要がある場合にこの方法を選択する。
・意匠登録を受けたい部分とするのは、GUI全体でもGUIの一部でもよい。
・少なくともGUIを含む物品の正投影図を提出し、必要に応じてGUIの図も提出する。
・意匠の簡単な説明において、設計要点はGUI又はGUIの一部のみにあると記載する。
・意匠の簡単な説明において、GUIの用途を記載する。
・物品の名称の例は以下の通り。
例:携帯電話機のモバイル決済用GUIの検索欄
④ 物品を伴わない部分意匠出願
・様々なデジタルデバイスに使用可能なGUIについて、物品を伴わないGUIだけの出願をしたい場合に、この方法を選択する。
・物品の名称には具体的な物品名の代わりに「電子設備」というキーワードを使用する。
・GUIの図面だけを提出すればよい。
・意匠の簡単な説明において、設計要点はGUI又はGUIの一部のみにあると記載する。
・物品の用途は「電子設備」と記載すればよく、GUIが用いられる装置の種類(スマートフォン、パーソナルコンピュータ等)を特定する必要はないが、保護を受けたいGUI又はGUIの一部の用途を記載する。
・物品の名称の例は以下の通り。
例:電子設備の動画再生用GUI
電子設備の道路ナビゲーション用GUI
電子設備のモバイル決済用GUIの検索欄
また、動的GUIについて、動作の開始状態の図を正面図とし、その他の状態は変化状態図として提出すること、変化状態図には変化の順序に沿った番号を付けることが規定されています。更に、審査官は必要に応じて、出願人にGUIの変化を示す動画の提出を求めることができるとの記載も盛り込まれています。
コメント
部分意匠出願制度の導入は第4回専利法改正の目玉の一つでしたが、改正法施行後も運用の詳細が定まらず、審査も行われなかったため、出願人の間には様々な混乱が生じていました。特に、部分意匠と全体意匠の間の優先権主張の可否や、部分意匠と全体意匠を一件の類似意匠出願に含められるかについては不明な状態が続き、そのために、部分意匠と全体意匠をとりあえず一出願にまとめて出願しておくということも広く行われていました。2022年10月31日の審査基準改正案では、部分意匠と全体意匠を一出願にはできないことが明記されたので、部分意匠と全体意匠を含む出願が未だ自発補正期間内にある場合には、分割してしまうことで全体意匠出願について早期に権利化することが可能です。
また、願書、図面における部分意匠の特定についても、実線・破線の書き分け以外に色分けや一点鎖線の使用などが認められる方向であり、日本の部分出願に基づいて優先権主張により中国に出願する場合であっても、図面の変更なく出願できるであろう点は有意義といえます。
また、部分意匠制度の導入に伴い、GUIの意匠出願について、従来の物品の一部としてではなく、ほぼGUIのみの保護を求めるような出願が可能となることも注目されます。GUI意匠出願に関する審査基準は、議論の多い分野であるだけに、正式改正までに内容が変化する可能性があります。しかし、改正後の審査基準は既に出願された意匠の審査にも適用されますので、改正動向をにらみながら、できる限り広い権利範囲を取れるような出願を行っていく必要があります。
知的財産局の計画によれば、専利法実施細則及び審査基準は2022年内の正式改正が予定されています。正式改正された際には、また速やかに詳細な内容を報告させて頂きます。