ブログ
【相続ブログ】相続制度と遺産共有・相続登記を含む登記制度(4)所在等不明共有者の不動産の持分取得・譲渡(改正民法262条の2、262条の3)
2023.01.25
はじめに
令和3年4月21日に、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。これらの法律は、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の観点から総合的に民事法制を見直すことを目的としたものですが、令和5年4月1日から順次施行される予定であり、実務上も大きな影響を持つと考えられます。相続プラクティスグループでは、これらの法律を「相隣関係・共有制度」「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」「財産管理制度」の3つに大別して、ブログとしてそれぞれの内容の記事を連載いたします。この記事は、「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」の第4回となります。順次アップ予定ですので、どうぞご期待ください。
所在等不明共有者の不動産の持分取得・譲渡(改正後の民法262条の2、262条の3)【施行日:令和5年4月1日】
【改正のポイント】 |
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の成立(令和3年改正)で、所在等が分からない共有者の不動産の持分の取り扱いに関する手続が整備され、このような持分については、他の共有者が裁判所の関与のもとで取得又は譲渡を行うことが可能となりました。この制度は、一定の要件のもと、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合にも利用できます。
以下では、Q&A方式で所在等不明共有者の不動産の持分取得・譲渡に関するルールを見ていきましょう。
〔設例〕
Xは、今から10年以上前に死亡しました。Xの妻であるYはすでに死亡していたため、Xの法定相続人は、Xの長男A、次男B、三男Cの3人でしたが、正式に遺産分割をしないまま、Aが事実上Xの遺産を管理してきました。この間、AとBは地元に残り、互いに連絡をとり合っていましたが、Cは就職を機に地元を離れてから一切の音沙汰がなく、今では、調査を尽くしてもどこにいるのか分からない状態です。AとBは、Xの遺産を整理するため、そろそろ遺産の一つである不動産を売却したいと思っていますが、依然としてCの所在は不明であり、連絡がとれない状況です。
Q:改正後の民法(以下「改正民法」といいます。)のもとで、Aらとしては、不動産を売却するために、どのような手段をとることができるでしょうか。
【親族関係図】
(1) 改正前の民法下での問題点
改正前の民法では、共有物に変更(共有物の全部を売却する場合は、変更にあたります。)を加えるには共有者全員の同意を必要とし、管理に関する事項(変更を加えるもの及び保存行為を除きます。)は共有者の持分の過半数により決するとされていました(改正前の民法251条、252条)。
また、改正前の民法の下では、他の共有者を特定できず、又は他の共有者の住所等が分からない場合(以下、当該他の共有者を「所在等不明共有者」といいます。)、(i)不在者財産管理人(民法25条)の選任手続をとり、その同意を得て所在等不明共有者本人の同意に代替する方法や、(ii)所在等不明共有者を含む他の共有者全員を当事者とする共有物分割訴訟により共有関係を解消する方法をとらざるをえませんでしたが、(i)(ii)の方法はいずれも手続上・財産上の負担が小さくありません。
そこで、改正民法では、社会経済上重要な財産である不動産について、所在等不明共有者との共有関係の解消をより簡便に行うことを可能とするため、共有者が、裁判所の関与のもと、他の共有者全員を当事者とすることなく、所在等不明共有者の持分を取得・譲渡できる制度が新設されました。なお、この制度は、一定の要件のもと、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合にも適用されます。
(2) 法改正の内容
ア 改正の要旨(※1)
改正民法のもとでは、共有者が、所在等不明共有者との共有関係を解消する方法として、以下の2つの手段が新たに設けられました。
① 持分の取得
共有者(所在等不明共有者以外の共有者全員が申立人となる必要はありません。)は、裁判所の関与のもと、所在等不明共有者の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができます(改正民法262条の2、改正非訟事件手続法87条)。
②持分の譲渡
共有者(所在等不明共有者以外の共有者全員が申立人となる必要はありません。)は、裁判所の関与のもと、所在等不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、所在等不明共有者以外の共有者全員が、特定の者に対して、その有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を、当該特定の者に譲渡する権限の付与を受けることができます(改正民法262条の3、改正非訟事件手続法88条)。
①及び②の裁判手続は非訟事件手続であり、改正民法262条の2及び262条の3に合わせて新設された非訟事件手続法(以下「非訟法」といいます。)87条及び88条が適用されます。非訟法87条及び88条では、(i)当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所であること(非訟法87条1項、88条1項)、(ii)裁判をするには公告の実施及び3か月以上の異議届出期間の経過が必要であること(非訟法87条2項各号、88条2項が準用する87条2項1号、2号及び4号)、及び(iii)裁判所の供託命令に従って金銭の供託をすることが必要となること(非訟法87条5項、88条2項が準用する87条5項)などが定められています(※2)。
なお、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合には、相続開始から10年を経過していない限り、①及び②の裁判をすることができないとされました(改正民法262条の2第3項、262条の3第2項)。その理由は、遺産分割においては、具体的相続分の割合により実施することとされ、相続人は、法定相続分(又は指定相続分)の割合に応じた共有持分を超える財産を取得することがあるほか、不動産に限らず、遺産全体を一括して分割することができるなどの固有の利点があるため、相続人に遺産分割の利益を受ける機会を保障する必要があると解されるからです(※3)。当該機会を保障するため、具体的相続分による遺産分割の時的制限を考慮し、相続開始時から10年間を経過するまでは上記①及び②の裁判をすることができないとされました。このような期間制限については、第1回「具体的相続分による遺産分割の時的限界」で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
イ 経過措置
改正民法262条の2、262条の3については、経過措置の定めはなく、施行日後は、共有関係が生じた時期などを問わず、適用されます。
(3) 設例の検討
民法上、共有物の全部を売却する場合、共有者全員の同意が必要とされています(民法251条1項)。もっとも、設例では、AとBは調査を尽くしてもCの現在の住所・居所が分からず、Cと連絡をとることもできないとのことですので、Cから同意を得ることは難しい状況にあります。そこで、AとBとしては、Cが「所在等不明共有者」にあたるとして、上記①又は➁の手続をとることが考えられます。
なお、これらの制度により相続財産に属する持分(遺産分割をすべきもの)を取得・譲渡できるのは、相続開始の時から10年を経過した事案に限られますが、設例では、被相続人Xが死亡してから10年以上が経過していますので、この点は問題ありません。
もっとも、Cが「所在等不明共有者」にあたるためには、「その所在を知ることができないとき」(改正民法262条の2第1項、262条の3第1項)に該当する必要があります。具体的には、少なくとも、Cの住民票や戸籍の附票等の公的記録を取得し、必要な調査を尽くしてもCの所在が判明しなかったという事情が求められると考えられますので、ご留意ください。
上記①の手続による場合、A又はBがCの持分を取得するか、AとBが各自の持分割合に従いCの持分を按分取得したうえで(改正民法262条の2第1項後段)、AとBにおいて、不動産を第三者に譲渡することが可能となります。
また、一旦A又は(及び)BにCの持分を移転させることが迂遠であると考える場合には、上記➁の手続をとることで、Cの持分を、A及びBの持分とともに直接第三者に譲渡することが可能です。
[参考]
(※1)法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和4年10月版)」37,38,50頁
(※2) 村松秀樹ほか「令和3年民法・不動産登記法等改正及び相続土地国庫帰属法の解説(4)」25頁NBL1212号(2022)25頁)
(※3)村松秀樹=大谷太編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』126頁以下(金融財政事情研究会,2022)