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【相続ブログ】相続制度と遺産共有・相続登記を含む登記制度(7)所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度(改正後の不動産登記法76条の4)
2023.06.14
はじめに
令和3年4月21日に、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。これらの法律は、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の観点から総合的に民事法制を見直すことを目的としたものですが、令和5年4月1日から順次施行されており、実務上も大きな影響を持つと考えられます。相続プラクティスグループでは、これらの法律を「相隣関係・共有制度」「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」「財産管理制度」の3つに大別して、ブログとしてそれぞれの内容の記事を連載いたします。この記事は、「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」の第7回となります。
所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度(改正後の不動産登記法76条の4)【令和8年4月までに施行】
【改正のポイント】 |
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律24号)の成立(令和3年改正)で、所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度が新設されました。
以下では、Q&A方式で、所有権の登記名義人の死亡情報についての符号の表示制度について具体的に見ていきましょう。
〔設例〕
X社は、現在、ある地域において、電力設備用地の取得を検討しています。X社は、事業用地を選定するため、用地の権利関係の調査を行っていますが、対象地域内には、土地の所有者が現在も生存しているのかどうかが分からない土地が複数存在しており、計画が大幅に遅延しています。Q:X社は、対象地域内の土地の所有者が存命しているかどうかを、不動産登記から確認できないかと思案していますが、相続人がきちんと申請をして相続登記がされない限り、不動産登記からその所有名義人が死亡したことを確認することはできないのでしょうか。
(1) 法改正の内容
ア 改正の要旨
これまでの不動産登記法の下では、ある不動産の所有権の登記名義人が死亡しても、相続人からの申請に基づいて相続登記がされない限り、当該登記名義人が死亡した事実は不動産登記記録に公示されないため、不動産登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することはできませんでした。
この点に関し、民間事業や公共事業の計画段階等においては、その確認が可能になれば、事業用地の候補地の所有者の特定(相続人の探索)やその後の交渉に手間やコストを要する土地や地域を避けることができるようになり、事業用地の選定がより円滑になることから、地方公共団体や経済団体などからは、不動産登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することができる制度の導入が望まれていました。
そこで、改正後の不動産登記法(以下「改正不登法」といいます。)では、登記官が他の公的機関から取得した死亡情報に基づいて不動産登記に死亡の事実を符号によって表示する制度が新設されました(改正不登法76条の4)。
イ 登記官による死亡情報の取得方法について
登記官が死亡情報を取得する場面としては、①住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」といいます。)への照会を通じて、本人確認情報(住民票の消除の事由)を取得した際に、死亡情報の提供を受けた場合や、②法務局において所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法40条に基づいて実施されている長期間相続登記がされていない土地を解消するための作業の過程で死亡情報に接した場合、③固定資産課税台帳上の所有者(納税義務者)に関する情報の提供を受けた際に、その氏名、住所等が不動産登記上の所有権の登記名義人の氏名、住所等と異なることを契機に、当該所有権の登記名義人の死亡情報を把握した場合などが想定されています。
以上に挙げた取得方法のうち主要な場面としては、【相続ブログ】相続制度と遺産共有・相続登記を含む登記制度(6)住所変更登記等の申請の義務化と実効性確保のための環境整備策において解説した登記官の職権による住所変更登記のために、登記官が住基ネットに照会(①)した際に、死亡情報の提供を受けるケースが挙げられます。一方で、住基ネットへの照会には手数料がかかるため、固定資産課税台帳上の所有者(納税義務者)に関する情報の提供(③)を受けることも有益と考えられ、改正不登法においては、登記官が、関係地方公共団体の長その他の者に対し、不動産の所有者等に関する情報の提供を求めることができる旨の規定も新設されました(改正不登法151条)。
登記官は、これらの情報を端緒として戸籍情報の確認等を実施し、登記簿に死亡の符号の表示を行います。
ウ 経過措置
改正不登法76条の4については、経過措置の定めはなく、施行日後は、登記名義人の死亡の時期を問わず、適用されます。
(2) 設例の検討
上記の設例で、X社は、事業用地の選定にあたり、対象地域内の土地の所有者が存命であるか否かを不動産登記から確認したいと考えています。
(1)アで解説したとおり、改正不登法76条の4が施行されると、登記官が他の公的機関から当該土地の所有者の死亡情報を取得した場合には、当該土地の登記上、所有者の死亡の事実が符号によって表示されることになるため、相続登記がなされていなかったとしても、X社は不動産登記記録から事業対象地域内の土地の所有者の死亡の事実を確認することができる可能性があります。
もっとも、土地の所有者が死亡したとしても、登記官が直ちにその死亡情報を覚知しているとは限らないため、不動産登記記録に符号の表示がないからといって、当該土地の所有権の登記名義人が存命であるとは限らないことには留意が必要です。
[参考]
(※1)法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和4年10月版)」12頁
(※2)村松秀樹=大谷太編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』286頁から289頁、332頁、333頁(金融財政事情研究会、2022)