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【速報】【中国】【商標】「商標評審案件の審理中止状況規則」に関する解説
2023.06.20
本解説の位置づけ
2023年6月13日、中国国家知識産権局商標局は、どのような状況において商標評審案件の審理中止を請求できるかについて、「『商標評審案件の審理中止状況規則』に関する解説」(以下、本解説という)を公表しました。この「商標評審案件の審理中止状況規則」は、中国知識産権局内で、審査官による案件審理時の内部ガイドラインとして利用されているようですが、対外的には公表されていない文書となります。
近年、中国では商標出願の拒絶査定率が高くなっており、また、先行商標による拒絶理由を克服する有効な手段として、主に先行商標に対する不使用取消審判請求及びそれに付随する再出願、さらには再々出願が多く利用されている状況にあり、本解説は、中国での商標権利化を進める上で大きな影響があると思われます。以下、本解説の内容を簡単にまとめ、速報として提供させていただきます。
審理中止を請求できる状況
本解説では、審判の審理を中止すべき7つの状況、及び、案件の具体的状況に応じて審理中止を決定できる3つの状況について、規定しています。
(1)審理を中止すべき7つの状況
項番 |
案件の状況 |
適用対象となる審判 |
当事者の請求要否 |
||
拒絶査定 不服審判 |
異議申立 不服審判 |
無効審判 |
|||
1) |
係争商標又は先行商標が権利者名義変更・譲渡手続き中である場合(ただし、変更・譲渡後の権利者名義には抵触がなくなることが前提となる。) |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
2) |
先行商標の有効期間が満了したが、登録更新手続き中であるか、又は未だ登録更新の猶予期間内である場合 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
3) |
先行商標が登録取消、又は出願取下げの審査中である場合 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
4) |
先行商標が登録を取消された、無効審決を受けた、または有効期間が満了して更新されなかったが、無効確定から未だ1年未満である場合(中国商標法第50条における登録禁止の条文と関係する。) |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
5) |
先行商標に関する審判において既に審決が出され、その確定を待っている場合 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
6) |
審判中で主張している先行する権利が、裁判所が審理中又は行政機関が処理中の別の案件の結果に左右される場合 |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
7) |
関係する先行商標の権利状況が、裁判所が審理中、または行政機関が処理中の別の案件の結果に左右され、且つ、請求人が審理中止を明示的に要求した場合 |
〇 |
× |
× |
〇 |
(2)案件の具体的状況に応じて審理の中止を決定できる3つの状況(裁量適用)
項番 |
案件の状況 |
適用対象となる審判 |
当事者の請求要否 |
||
拒絶査定 不服審判 |
異議申立 不服審判 |
無効審判 |
|||
8) |
拒絶査定不服審判において、障害となった先行商標が既に無効審判を請求され、且つ先行商標の登録者が他の案件において商標法第4条、第19条第4項、第44条第1項などにより悪意の出願と認定されたことがある場合 |
〇 |
× |
× |
× |
9) |
状況が類似または関連する案件が先に審決され、又は判決されるのを待つ必要がある場合、個別案件の必要に応じて審理を中止することができる |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
10) |
審査官の裁量によるその他の状況 |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
審理中止の請求方法と時期
本解説によりますと、申請者は商標出願拒絶査定への不服審判請求、異議決定書への不服審判請求、及び無効審判請求の提出時に、単独で審理中止を請求する書面を提出することができますが、不服審判請求理由書などに審理中止の請求を記載することもできると考えられます。
中止後の審理再開
本解説には、申請者が審理中止を請求した後で審理を中止すべき状況がなくなった場合、原則として、審理再開の請求を提出する必要があると規定されています。
コメント
上述の通り、本解説は、現在の中国商標出願に対する拒絶査定への対応において、大きな影響を有する文書となります。本解説の発表後、「審理中止を申請すれば、必ず中止されるのか」といったような問題点が、広く商標実務者の注目を集めています。
そのような状況の中、2023年6月19日に広東省で開催された第十三回中国国際商標フェスティバルの「商標審査審理に関する質疑応答会議」セッションにおいて、本解説の執筆者である中国国家知識産権局商標局評審第八処の処長が、本解説に基づく審理中止制度の適用原則などについて、口頭で更なる説明を行いました。弊所北京オフィスのスタッフは、この第十三回中国国際商標フェスティバルに参加し、処長による説明内容に関する情報を入手しましたので、以下にその要点を挙げさせて頂きます。
① 審理中止の原則は、審理を中止する必要がある場合に実施するのが大原則であり、条件を満たせば必ず中止されるわけではなく、また、審理中止を申請すれば必ず認められるわけでもない。当局は審理の効率と公平性などの各方面を考慮し、両当事者の衡平を図りながら、審理中止の決定を行う。
② 拒絶査定不服審判において、審理中止の申請は、不服審判請求後の書類追完期間(三カ月内)内に提出しなければならない。
③ 審理中止の通知の有無について、当局が申請者による審理中止の申請を認める場合、申請者には特段の通知を行わない。審理が中止されているかどうかは、中国商標法に規定された各審判事件の審理期限の規定に鑑み、合理的な期間内に当局から審理結果に関する決定書・裁定書を受領した場合には、審理が中止されなかったことを意味する。
また、処長の説明によれば、本解説による制度は実施が始まったばかりであり、従前の運用手法とは大きな違いがあるため、今後の運用において更なる改善を講じるとのことでした。
中国商標法の改正草案が公表され、その動向が注目される中、中国における商標審査は各方面で更に厳格化されており、商標権利化、権利維持の面において、注意すべき変化が相次いで起こっている状況です。弊所ではこうした状況の変化を引き続き注視し、速報として提供させていただく予定です。
出典:
中国知的財産局商標局ウェブサイト:https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/ssbj_gzdt/202306/t20230613_27700.html
第十三回中国国際商標フェスティバルの会議日程:https://mp.weixin.qq.com/s/mPqpWFj5LtczxM85iPmVTA